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愛しのアイリーン_感想

愛しのアイリーンを劇場で見た際に書いた感想です。ネタバレ注意。



監督、原作者、俳優陣、この感情をどうしてくれる…
見終わったあとの私は、自分が自分でないみたいだった。
帰りの電車で鼻に入ってくるおねえちゃんの香水も、
シャンテ前の安い飲み屋のチープな看板も、
胃袋に詰め込んだテリヤキバーガーのしょっぱさも、
公園から臭う雨の染み込んだ土の匂いも、

いつもは日常に溶け込む無機物たちの感情が顔を出して、私の中身をぐらぐら揺さぶりぞわぞわさせながら吸収していくではないか。
岩男のごとく、「もうやめろぉ!!!!!!!!」と叫んでしまいそうなほど。
なんだこれ。情緒がやばい。
帰ってきてシャワーを浴びながら声出して泣いた。
頭を殴られたような衝撃というよりは、冒頭で盛られた薬が最後になるにつれてじわじわじわじわと聞いてくる感じ。
そのくらい、人間の核に入り込んでくる映画だったということなのか。
書いてる今も感情を落とし込むことが出来ず、自分の感想なのに疑問形になってしまう。


1番はじめ、岩男が車に轢かれながらもおまんこと叫ぶところで泣いた。
ツルの言葉も、自分でもわかりきってるけど逃がせない苛立ち。そこにアイコっていう爆弾落とされてそりゃ感情も大渋滞になってしまう。
42年、これまでの岩男の気持ちになるとあそこはもう「おまんこ」と叫ぶしかないとさえ思えてくる。まぬけな響きが見てる側にぐっと押し込まれてきてあれ以上の正解の言葉はない。
私もともに横でおまんこと叫びたい。


カード番号教えてゴーフィリピンと言うときの安田さん表情、大変美しかった。血みどろの汚い顔で二人で抱き合うシーンは、あんなにわかんねえ!ってキレていた言葉っていう壁がやっと壊れた瞬間だったので、それはそれは泣いた。愛が確かにそこにあった。
殺して血みどろで抱き合った2人。急いで脱ぐ二人をなめながらカメラがツルさんの声のほう向いてるのがたまらない。
殺した恐怖と、初めて心通じあった幸せとがぐちゃぐちゃに入り混じってあんなに荒くて涙がこぼれそうになるセックスは初めて見た。
その時ツルにツキのモンがくるのほんと先生天才すぎる…?
ただ、愛が通じ合ってセックスしてたのに、何回目かで塩崎の死体思いだしてゲロ吐いたのは、あれはもう完全になにも考えたくなくて現実から逃げるためにしていたセックスだったのか、そこに愛はあったのか。アイリーンが受け入れてるってことは、愛してるから愛で包んでくれっていう行為だったのかなあ。


ラーメン食べた後にキスするシーンで、引きでみるとものすごい岩男がかがんでて少し格好付かなかったり、アイコさんのおしっこがかかってしまったり、ツルにつきのもんがきたり、なんともいえない最高さ、これが私のなかのでの熱いシーンだった。
人殺したあとの高ぶった気持ちでのおまんこも、愛してるのに上手くいかない苛立ちからのおまんこも、馬鹿らしいけど笑われるかもしれないけど、セックスってそういうことなんだよなと思ってしまった。

ツルを捨てに行くシーン。
あんな綺麗な白だけど広くて飲み込まれそうな雪山であったり、雪道を歩くアイリーンのおぼつかない足だったりが1層こちらの心を乱してくる
岩男が死んだ後も休む暇もなく、こちらも自然と吐く息が浅くなってしまう…。
あの最後後ろに倒れる時の木野花さんの演技最高でした。

ツルさんは岩男のことを優しくてぺこぺこして、みたいなことを言っていたけど、後半の岩男にそんな要素ゼロだったことに、やっぱり生死がかかってくると人間ておかしくなるんだなってどっか冷静な私が思った。


俳優陣はみんな素晴らしかったんですが、私的にマリーンが最高だった。
ああいう場所特有のオーラと関西弁がこの愛しのアイリーンを格段といい作品にしていた気がします。
あの割り切りよう、彼女にもいろんな背景があるんだろうな…。

最後、奇妙礼太郎さんは天才なのか
あの終わり方からの水面の輪舞曲が最高すぎて声を出して泣いた。今見たいろんなものがあの曲調にのせてとろとろと流されていくように。今私が見たものは確かにあったことなのに、この歌がそれを世の一部にしていく。でも、私はひっそりとわかっている。知っている。ふと、浦沢直樹のボブ・レノンを聴いたときと同じような気持ちになった。すべてを愛し、ゆっくりと許してくれるような歌だった。


私は四度ほど号泣したんですが、周りは笑ってるけど私は泣いているっていうことが多くて、要はそういう映画です。

愛しのアイリーン。
全てを見終えた上で愛しのアイリーンというタイトルを見ると、じわりじわりと涙が出てくる。
「愛しの」が持つ力はとても強く、可愛い、綺麗、好き、愛、全てをひっくるめたらきっと「愛しの」にたどり着くんだなぁと帰りの電車に揺られながらぼーっと思った。
夫婦、親子、人種。
登場人物全員に醜さの中に深い愛があるのがつらくて苦しくて。話中うまくいかな過ぎてイライラすることが多々あったけど、それも愛。どんな色をしているかはみんな違っていたけれど、全部愛だったと気が付くのにだいぶ時間がかかった。特にツルの執着は最後になるまで明かされないからとても難しかった。
そして岩男は、彼の中にフツフツと蓄積されてきたものがやっと答えにたどり着けたと思った途端の死。なんにも言えない、何も言ってはいけないような気になってくる。なんだろう。こちらには何も言う権利などない、というのが正解か。アイリーンと掘られた文字が自分に傷ができたかのように痛かった。
日比谷シャンテを出て、日比谷駅から地下鉄へ下る階段で視界に入る安っぽい入口に泣きそうになった。
千代田線のホームを歩く私の体を誰も触るな、触ったら壊れそうなほどに神経がびりびりしている。
帰って、地元の駅で吉野家の牛丼を食いたくなったが、この映画で得たこの感情に身を任せて吉野家の牛丼を食ったらべしょべしょに泣いて帰れなくなると思ったのでマックにした。

私はまだ不思議でならないが、なにかの記事で安田顕さんがおっしゃっていた通り、見終わった今、とてつもなく岩男が「愛しい」のだ。

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