電子音楽ミニコラムその2"DJ" by Griffit Vigo
好評かどうかまだわからないこのコラムシリーズ、今回は「ゴム」というアフリカの興味深い音楽ジャンル、そしてその代表曲であるGrifit VigoのDJという曲を紹介したいと思う。
この「ゴム」という音楽は、南アフリカ共和国発祥の音楽で、音楽的ルーツとしては、ハウスや、ダウンテンポ、ダブステップなどがあるようだが、私の聞く限り、そのどれとも似ても似つかない音楽となっている。
私がこのゴム音楽について興味深く思ったのは、これらを生み出したのが南アフリカという馴染みの薄い土地だから、という理由だけではない。そこに、クラフトワークを源流に持つ、「ミニマム・マキシマムの系譜」とでも言うべき伝統が否が応にも見出さざるを得ないからだ。
ここで私が「ミニマム・マキシマムの系譜」と呼んでいるのは、クラフトワークから始まる、禁欲的あるいは、機械的で、職人的な技術によってそぎ落とされた楽曲構造を持つ音楽の家系図のことである。この家系図は、テクノの神クラフトワークを起点に、アトムハート、アルヴァノト、池田亮二などのクリック/IDM、さらにはダブを経由して、リズムの比重を高めた砂原良徳が名を連ねる(と私が勝手に定義している)ものだ。なんならここにオウテカや、そのルーツとなっている坂本教授の「B-2unit」なんかも加えていいかもしれない。とにかくこれらの音楽すべてに通ずるのは、リズム重視、極端に簡素化されたメロディ、そして歌というよりも淡々とロボットのように単語を唱えるだけのヴォーカル、というような特徴だ。
これらの音楽には少なくともヒップホップや、それ以前の電子音楽、現代音楽からの文脈が大きく含まれているのだが、ゴム音楽にみられるのは、そのような欧米文化を柔軟に取り入れながらも、アフリカ的なリズム感覚―実は民族や地域などのコミュニティによってこのリズム感覚というのは細かく変わるらしいのだが、私は専門家でないので、ここではアフリカという言葉で(本来不適切なのは重々承知の上)大きく括るさせていただく―のフィルターを通すことによって異質化された音楽構造なのだ。
具体的に見てみるとキック自体も四つうちから距離を取っていて、軽めのスネアがキックと同時に鳴っている。この鳴らしかたが結構個人的には衝撃的で、初めて聴いた時「なんだこのリズムパターン!?」と度肝を抜かれた。今までオウテカやシュトックハウゼンのような前衛的なものも含めてさまざまな電子音楽を聴いてきたが、そのどれにも当てはまらないリズムだったからだ。また、このドラムの音色自体の最近のトレンドとは似ても似つかわない、ややチープな質感も画期的だと思った。
曲構成も面白い、はっきりとしたメロディというものが存在せず、淡々とグリッドに沿ったコード、そして「DJ!」と呼び掛ける声ネタ。そこに抽象的な(クラフトワークのthe man machineを彷彿とさせる)シンセサイザーの音や、カラカラという何か古びた機械のサンプル音。ほとんどこれだけでできている。こういうものはセンスがないとうまくいかないもので、Grifit Vigoの卓越したバランス感覚の賜物だと思われる。また、コードの低音域をハイパスフィルターでカットしてわざと薄くしてるのも特筆すべき点だ。普通ポピュラー音楽においてコードは中域を支えるもので、音を薄っぺらくするなんて考えられないパートなのだが、なんとここではその役割を放棄しているのだ。これによって、特徴的なゴム音楽のリズムに自然と注意がいくようになっているのだろう。非常に心憎い工夫である。
近年アフリカでは他にもシンゲリや、アマピアノ、日本でも一部で話題になったfulu mizikiなどの独創的なポピュラー音楽、電子音楽ジャンルやバンドが数多く勃興してきている。これからどのように発展していくのか目が離せないところだ。
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