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醜い感情の正体は。

深呼吸をした。
なんならドラマチックに目もつぶった。
それでも止められなかった。

「ねえ、その子恋人いるんだっけ」

私のプライドが敗北した瞬間だった。
その答えはわかっていたし、そしてそのわかっている答えが私たちの間に亀裂をいれることもわかっていたのに、どうしても聞かずにはいられなかった。
大げさな深呼吸も、まばたきも私を止められやしなかった。

「それって関係ある?」
という予想通りの彼の答え。

関係ないよねえ。わかってるよ。関係ないね、その子に恋人がいようがいまいが、あなたの友達であることにはかわりないもんねでもそれはあなたにとって関係ないだけで、私にとっては関係あるんだよ、なんでわからないかなあ想像力ってこういうときに働かすんでしょ、賢いんでしょ。

友達、なんて恋人よりも曖昧な単語をここで出さないでよ。その言葉は、私を傷つけるためにあるんじゃないでしょ。今それを振りかざすことによってどうなるかなんでわからないの。その子に恋人がいてもいなくても、私の気持ちはかわらないし、もやもやは晴れないし。
でもいったいぜんたいその子がどういうつもりか、そのほんの一端でも知るために知りたい。

その子に恋人がいるかどうか。
あなたのことを狙っているか否かじゃなくて。
「私には到底理解できない思考を持っている」という修飾をつけるためだけに知りたい。
その子に恋人がいるかどうか。
もっと言えば、知りたいんじゃなくて、それを聞くことによって私の気持ちをわかってほしいのかもしれない。

あなたと違って私の脳内はいつもうるさい。
あなたがゆっくり一言を紡ぎ出すあいだに、脳内で何通りもの方法であなたとその子をなじることができるくらいに。

結局、何ヶ月かたった今も全然納得はできていないけれど、納得するようなことでもないからたまに思い出してもやもやするに留まっている。
浮気とか、恋人とか、友達とか、そんな定義の話がしたいんじゃなかった。
そもそも浮気だと思ったことは1秒もない。

三が日、おやすみ前の定番電話の切り際、私はなんなく聞いた。(なんで聞いたんだ私。)
「明日どっか行くの?」
彼は答えた。(なんで素直に答えたんだ彼氏。)
女友達に会いに△△(縁もゆかりもない遠いその子のバイト先)に行く、と。
んんん???

(そのバイト先はカフェとかデパートとかそういうのではなくて、制服でも私服でもないいつもとはちょっと違う服を着る場所だ。)

私からすれば「(着飾って)普段とは違う私を見に来て。」
と言われて
ほいほい行ったようにしか見えない。

「飲食」とか「買物」とかそういう目的の全くない場所に会いに行く意味がどうしてもわからなかった。
彼の行動全部に意味を求めてるわけじゃなくて、
彼氏の行動を逐一わかりたいわけじゃなくて、異性の友人を(浮気の可能性を考えた上で)制限したいわけじゃなくて、このもやもやの正体はなんだ。
その子が私と異なる思考回路を持つことへの嫌悪?
私よりその子を優先されたことへの嫉妬?
単なる醜い感情?

すごくすごく大事な友達なんだね
という私の嫌味でしかない嫌味に対して、馬鹿な彼氏は言う。
「いやー全然。もう授業とか全然一緒じゃないし」
え?全然?全然なのにその子を見に行くの?
なにそれ?
なにそれ??

ちなみにいうと、私はその子を知っていた。
顔を見たことも話したこともないけれど
彼氏の話で聞いたことがあった。
何人かで彼氏のバイト先(飲食)へ来て、ひくほど(偏見込み)騒いで帰ったらしいうちの1人。
いやもうその話の時点で低い。好感度が低い。
地の底。

「あなたのバイト先に来たんやから、また私のも来てな」
「また行くわー」
とそのとき交わされた約束がこれ。

ん?これって結局行かんやつやんな?
関西人の「また」って二度とないの代名詞やんな?
え、その子とのそんな口約束は守るんや。
私の脳内に、今まで破られたり忘れられたりした数多のしょうもない約束がぶくぶく芽吹いてすぐに消えた。

わざわざ三が日に、遠出してまで会いに行くんや。
そんな大事なんや。
「ごめんね」って言わんといて。
ごめんねって言ってまで会いに行きたいんやと思うから。

とまあ、面倒くさいことを散々考えて考えて、私は自分の醜い独占欲と優越感を認めた。
彼氏は決して交友関係が広くはない。狭く深くタイプで、その「狭く」に入れたことが私はすごく嬉しいんだと思う。
それが蔑ろにされるとすごく悲しいんだと思う。

4ヶ月たっても、まだむくむくと首をもたげるこの気持ちも、2000字近くのここらで消化してあげよう。








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