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映画とゾンビ映画の話

初めて映画館へ映画を観に行ったのは『里見八犬伝』だった。まだ小学校に上がる前で、犬が出る映画だと思ったのか、若かりし日の真田広之がそんなに格好良かったのか理由はわからないが、共働きの両親に代わって母方の叔父に連れて行ってもらい、温泉で襲って来るムカデババアの白目と、天井が下がるトラップを支えて石化してしまった自己犠牲のシーンがしばらくトラウマになっていた。何年か前に夜中テレビでやっていたので試しにもう一度観てみたが、白目はなんてことなかったものの、大義のためにみんなバタバタと死んで行く様子はやはり可哀想。英語詞のテーマソングと共に唐突に始まるラブシーンの衝撃がなければきっと私も死んでいただろう。(全く覚えていなかった。叔父に目でも塞がれていたのだろうか)小学生になってからは、母親と一緒に『CHECKERS IN TAN TAN たぬき』を観に行った。話自体あまり面白いとは思えなかったのもあって、上映が終わり我先にと入って来るチェッカーズギャルに向かって母親が「出る人の方が先でしょうが!!」と怒っていた事しか覚えていない。今と違って映画館の座席は指定ではなく、多分シートももっと狭い感じだったと思う。そのせいもあって、知らない人と至近距離で2時間も過ごさなければいけない映画館は余り好きではなかった。中学生になり、当時大槻ケンヂが好きだった私は、彼が主演している『空想科学任侠伝 極道忍者 ドス竜』を観たいがためにレンタルビデオ屋の会員になった。ゴム人形丸出しのエイリアンと格闘するオーケンを「私は一体何を……」という気になりながらもそこそこ楽しい気分で観賞していた。今思えばドス竜も里見八犬伝も「主人公を先に進ませるために犠牲になる仲間」が出て来るが、あれはストレスになるので本当に良くない。

ドス竜の置かれていたビデオ棚はホラーやスプラッター映画のコーナーで、私はせっかく会員になったのだからと気になった作品を借りまくっていた。『サスペリア』や『ポゼッション』や『キャリー』などのメジャーどころから、当時まだ規制が緩く、中学生でも全然借りることが出来た『ネクロマンティック』や『ギニーピッグ』といったWelcome to Undergroundな作品を、夜な夜な家族が寝静まった後で居間のテレビにイヤホンをつないで観ていた。『マンホールの中の人魚』などライトな作品は母親と「この人、気の毒にねぇ……」などと言いながら一緒に観たような気がするので、家族も子どもの趣味を特別不審に思っていなかったようだ。

その後引越して近くにレンタル屋がなくなってしまったことや、規制が入って世の中からホラーやスプラッター映画がなくなったのもあり、一時的に映画からは遠ざかってしまったが、仕事をするようになってからはまた観始め、浅野忠信(『殺し屋1』が最高)や大森南朋(『ヴァイブレータ』が最高)の出演作品を集めたり、『処刑人』(ノーマン・リーダスに課金したくなる)や『VERSUS』(ナイフとメガネ)にドはまりしたりしていた。そんなある時 、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の墓場にいた「落ちぶれてすまん」なゾンビをきっかけに色々なゾンビ映画を観るようになった。学生の時にも観た事はあったが『食人族』と同じ感じでおもしろ映画として観ていたので、ちゃんと観てみたらロメロ三部作とも凄い面白かった。当時はアマゾンプライムなどもなく、気になったのはDVDを買うしかなかったのだが、他のロメロゾンビも全部観たし、なんだこれ……という作品でも☆3つ位なら試しに買っていた。「無策で突っ込む」「バカなのに何の制裁も受けない」「味方の足を引っ張る」キャラが出て来ると本当にムカついて、こいつ早く消えねぇかな……と思ってしまい結構観る気をなくしがちなのだが、ゾンビものは大抵そういう人間は酷い目に合って早々に死ぬので、余りストレスなく楽しめる、という理由もあったのかもしれない。後は、基本があって、それをベースにいかに特色を出すかみたいなところがあるジャンルなので、世界観の説明などは省いて結構淡々としているせいで、おもすれ〜って観やすいのでそこも好きな理由かもしれない。

好きなゾンビ映画ベスト3を。

まずは『ゾンビランド』。メジャー過ぎるので今更感もあるのだが、この作品の好きな所は、それまでのゾンビ作品で、なんで油断するの?なんで本当に死んだか確認しないの?なんで他人をすぐ信用するの?というフラストレーションを、主人公が生き残るための重要なルールとして予め徹底的に排除しているところで、そもそもこいつ早く死ねよ……というキャラも出て来ないけど、死なないでほしいなと思う人が普通なら死にそうなシチュエーションでも何とかなるので安心して観られる。続編の『ゾンビランド:ダブルタップ』も十分面白かったけれど、10年後という設定からなのか、売れた作品の続編特有のぬるい感じが若干してしまった。

次は『悪魔の毒々パーティ』。『Dance of the Dead』という原題通りの学園青春モノなのに、全く関係がない悪魔の毒々シリーズみたいな邦題を付けられて気の毒すぎる作品。ナードな主人公がプロムの夜にスクールカースト上位の人間が次々とゾンビ化する中、チアリーダーの幼馴染とバンドマンや脳筋体育教師と力を合わせて生き残るという王道のストーリーで、続編を作るつもりだったのか俺達の戦いはまだ終わらない!な感じでゾンビ問題自体は解決しないけど、キャラ設定や展開が最高にエモい。ゴスメイクのバンドマンが音楽でゾンビと戦うのもティム・バートンっぽいけど良いし、生徒から嫌われ影でバカにされてそうな脳筋教師が、自宅ガレージに武器を大量に溜め込んでいて、頼れる大人とはこういうものだよなあ……とついつい思ってしまうのも良い。本当にアメフト部には碌な奴がいない。いかにも低予算っぽいけど結構ゴア表現も気合いが入っていて、簡単に首が飛んだり穴が開いたりするし、ゾンビも地面から勢い良く飛び出て来るし車も運転していた気がする。基本B級なので結構突っ込み所はあるが、キャラと設定だけで自分の中でかなり好きな作品。『ゾンビーワールドへようこそ』もナードが奮闘する作品で武器DIYしたりと面白かったのでどっちを挙げるか迷ったんだけど、エモさで毒々にしました。

そしてベスト1はTwitterで散々言い散らかしてる気がするけどやはり『ウォーム・ボディーズ』。映画館に2週続けて観に行き、予約して購入したDVDを3回観た位の大好きな作品で、ゾンビ限定じゃなくて全映画の中でもベスト3に入る程の良い映画。当時、イケメンヴァンパイアと人間の女の子みたいな異種族間恋愛ティーン向け映画が流行っていて、その流れでゾンビにまで手を出してきやがったかと誰もが思っただろうに、蓋を開けてみたらゾンビ映画のお約束はちゃんと踏まえつつ、ロミオとジュリエットオマージュの王道恋愛ストーリーで、ユーモアもあってゴア表現もしっかりしてて、ゾンビと人間共通の敵まで作って共闘させて、社会復帰まで描いているという異色なのに本当に凄い作品。あと何と言っても主演のニコラス・ホルトが超格好良い。顔色が悪くて(ゾンビだから)やさぐれてて(ゾンビだから)目が死んでて(ゾンビだから)ボロボロの格好してて(ゾンビだから)口の周り血だらけにしてる(ゾンビだから)のに表情が卑屈そうな(ニコラス・ホルトだから)のが本当に良い。ゾンビ度MAXの時が一番格好良いので、ストーリーが進むにつれてだんだんテリっとしたディズニープリンス顔になって行くのでそこだけはがっかりする。

ちなみに、一番怖かったのは『ゾンビ大陸 アフリカン』。四肢がヤバいゾンビの出来が良すぎて本物にしか見えないし、本当にない人なのかもしれない……と考え出すとマジで怖くなって来るのでもう二度と観ない。DVDのジャケの背表紙すらも怖すぎて裏側にして棚に入れている。

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