見出し画像

シミセンが選ぶ小中学生に読んでほしい中高生向けではない新書10冊


 世の中にはまだまだ知らないことがいっぱいあります。私がここ数年で読んだ新書の中で、がんばれば小中学生でも読めそうなものを紹介していきます。若干理系が多めになりますが、国語の説明文対策にもなるかもしれません。興味が向いたものがあればぜひ手に取ってみてください。それぞれ最初に、私が読後すぐに感想を書いたもののはじめの部分を載せておきます。いやあ、本当におもしろい。おもしろいと、つい人に話したくなるのですよね。そんな気持ちに皆さんにもなってもらえるとうれしいです。それではどうぞ。
 


幸田正典著 魚にも自分がわかる――動物認知研究の最先端


(2021年発行、ちくま新書)
・・・いやあ、これはもう度肝を抜かれた。こんなことが分かってきているんだ。もう、大変な発見の場に立ち会っているようで、わくわくドキドキさせられた。そして、いまも研究は進行中とのこと。おもしろい。
 これは、ここ数年で読んだ中でもっとも面白かった本です。その割にあまり話題にならなかったので、私もどんどん宣伝しておきたいと思います。鏡の前のホンソメワケベラ、本当にかわいいですよ。この実験、ぜひぜひ読んでみてください。
 

杉山慎著 南極の氷に何が起きているか――気候変動と氷床の科学


(2021年発行、中公新書)
・・・さて問題です。南極の氷は、日本人の生活水およそ何年分に相当するでしょうか。 a)2年分  b)200年分  c)2万年分  d)200万年分。日本人の生活水は年間およそ13ギガトン。それに対して、南極氷床が抱える氷はおよそ2450万ギガトン。したがって、答えはdの200万年分となる。これ、本書の最初に出てくる事実だが、早速授業のネタとしてあちこちで使わせてもらっている。
 読んですぐ後は興奮してしゃべりまくっていたのですが、このところ忘れていました。南極大陸―行ってみたいとは思いませんが、実際に行ってきた人の話を聞くのはワクワクしますね。科学者たちは南極に基地を作って多くのことを解明してきました。氷河や氷床から、海洋大循環、そして気候変動について学ぶべきことはいっぱいありますよ。
 

菅沼悠介著 地磁気逆転と「チバニアン」 地球の磁場は、なぜ逆転するのか


(2020年発行、講談社ブルーバックス)
・・・いやあ、おもしろかった。磁気の研究の歴史から始まっているのも良かった。勉強になった。それにしても、チビアンにしなくて本当に良かったですね。なんかちょっと安物のミネラルウォーターみたいですし。
 地質年代「チバニアン」はずいぶんと話題にもなりました。その誕生を推し進めた研究グループの中心になった研究者自身が書いた本です。おもしろくないわけがない。もう、臨場感あふれまくりです。地球科学はいま一番おもしろい研究分野だと思います。物理や化学、生物と総合的な知識が必要ですが、ぜひぜひ多くの若者にチャレンジしてみてほしいですね。
 

中川毅著 人類と気候の10万年史  過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか


(2017年発行、講談社ブルーバックス)
・・・前著「時を刻む湖」(岩波科学ライブラリー)と同じかそれ以上にワクワクドキドキしながら読み進めました。なぜ水月湖にきれいな年縞が見つかるのか、その理由を他人に話せるぐらい理解できた。
 花粉は化石として残ります。その花粉を調べることで、当時の気候のようすを知ることができます。かき乱されることの少ない湖底には1年1年きれいな堆積層ができます。そこに隠された花粉の化石を1つ1つ掘り起こしていくわけです。なんとも根気のいる仕事ですが、またやりがいのある仕事だとも思います。環境考古学―これもまたホットな研究テーマの1つです。
 

毛内拡著 脳を司る「脳」  最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき


(2020年発行、講談社ブルーバックス)
・・・これはおもしろい! こんなことが新たに分かってきているのだ。脳はニューロンだけで情報伝達をしているわけではなかった。脳のすき間を埋めている液体中の化学物質やアストロサイトをはじめとするグリア細胞のはたらきも大きいという。そして、このアストロサイトを活性化させるには、新しい刺激のある環境が良いのだとか。
 脳は若いころから興味を持って読んできたテーマですが、またどんどん新しいことが分かってきているのです。いままで見向きもしなかったものが、重要な働きをしていると分かってきています。著者はYoutubeなども使ってどんどん発信されています。本を読んで興味が持てたらどんどん深堀してみてください。
 

更科功著 絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか


(2018年発行、NHK出版新書)
・・・これはおもしろかった。きっと文章がうまい。理解しやすい。説得力がある。どうして今まで同じ著者の本を逃していたのか。
 著者は私と同年代で、これ以前にもいくつも著作があるのですがずっと見逃していました。本書でそのおもしろさにはじめてはまり、その後は、同じ著者の本は続けて読んでいます。どれもこれもおもしろい話題満載です。ヒトがどのようにして進化してきたのかを知ることで、今後我々がどのように生きていけばよいかのヒントが得られるように思います。ぜひぜひ、人類の歴史について学び、人類のこれからについて考える機会を持ってほしいと思います。

山本紀夫著 高地文明――「もう一つの四大文明」の発見


(2021年発行、中公新書)
・・・おもろいなあ、気宇壮大やなあ。梅棹先生が「やれやれ」と言った姿が目に浮かぶ。本書を読みながら常に梅棹先生や梅原猛先生の本を読んでいるときと同じような感覚にとらわれていた。歴史が書き換えられるその現場に立ち会っている気がしたのだ。
 梅棹忠夫先生は僕の中で一二を争うヒーローです。著者はその梅棹先生の弟子筋にあたる方です。四大文明は覚えていますね。メソポタミア、エジプト、インダス、黄河、でもここに出て来るのはちょっと違うのですよ。アンデス、メキシコ、チベット、エチオピア、世界史を書き換えようとしています。もちろん、先の四大文明がなくなるわけではないのです。ですが、それだけではなかったのではないかと、異議申し立てをしているわけです。緯度は低くて熱帯の地域なのですが、高度が高いため気候は過ごしやすいのです。そういうところにも古代文明はあった。いままで分かっていた以上に文明は栄えていたのではないか、そういうことを話されています。興味深いですね。
 

尾本恵市著 ヒトと文明――狩猟採集民から現代を見る


(2016年発行、ちくま新書)
・・・好きな著者の自伝などはたいがいすぐに飛びつくのですが、尾本先生の著書はいままで読んだことがなかったので、少し迷いました。が、これは断然、読んで正解でした。正月の帰省中、高速バスの中で、何度もクスクスと笑えてしまいました。
 自然人類学の大御所です。今回はわりと若い著者を中心に紹介しようと思っていたのですが、尾本先生のことをいままであまりちゃんと紹介できていなかったので、ここに取り上げました。京都大学霊長類研究所(残念なことになくなってしまいましたが)の研究者の本は多く読んできましたが、尾本先生は東大(別に東大だからというわけではないですが)で、なぜか本書を読むまで著書を読んでいませんでした。いやあ、おもしろい人はまだまだいるのですね。最新の著作「蝶と人と」も素晴らしい作品です。
 

水野一晴著 世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活


(2018年発行、ちくま新書)
・・・自然地理学がおもしろい。地理なんて覚えるだけで何がおもしろいんだろうかと、高校生のころは思っていて、そのまま大人になって30年。地球科学がおもしろくなって、その流れで自然地理にも接近してきた。
 私が地理の本を紹介するなんて、と自分でも思っているのですが、本書は写真も豊富で、世界の地理を学ぶのにとてもよくまとまっているのです。もっとも、地理とは言っても気候の話が多く、理系に近い部分はあります。ずっと理科の授業で天気の話はしてきたのですが、その天気と文化の関係なんかを考えることはありませんでした。本書を読むことで自然(気候)と文化のつながりに目を向けることができたのでした。
 

秋元康隆著 いまを生きるカント倫理学


(2022年発行、集英社新書)

・・・タイトルと目次を見て買ったけれど、これは大正解でした。いくつかの新しい知識も得たし、いろいろと考えるきっかけになった。
 ベジタリアンは昔から聞いたことがあって、ビーガンは数年前に初めて知ったのだけれど、さらにフルータリアンということばがあることを本書ではじめて知りました。いろいろな考え方をする人がいるものです。文化や宗教が異なると大切にする考え方がずいぶん違っていたりします。もちろん、個人差というのもあります。育った家庭の環境なども影響するのでしょう。まあとにかく、いろんな考え方をする人がいるということを知るのが最初ですね。そして、それぞれの考え方を尊重できればいいと思います。基本的に人は、まわりの人の自由を侵害するのでなければ、自由な生き方ができます。どうしてもそれぞれの自由はぶつかり合うことがあるので、そこを暴力ではなく、話し合いで解決していければいいと思います。こういうことは長い哲学の歴史の中で見出されてきた答えです。そして、本書では、現在の世の中で、いろいろな技術の進歩がある中で、登場してきた新たな問題について議論が進みます。こういうことが問題になっているのだと知り、ある程度自分の頭で考えておくことが大切ですね。簡単に答えが見出せるような問題ではありません。それでも、最善の方法は何かをじっくりと考え続けないといけません。

さいごに 

 さあ、10冊の本を紹介してきましたが、どれか自分の心に引っかかるものがありましたか? もし1冊でも気になるものがあればうれしいです。ところで、みなさん、ひょっとして「教科書は絶対だ」と思っていませんか。実は全然そんなことはないのです。どんどん変わっていくのですよ。新しい研究成果が出てくれば、いままで全く触れられていなかったような内容が教科書に載ることもあります。そういう最先端の研究の現場に立ち会うことはできなくても、こういう新書などを読むことで、その近くで見学している気分を味わうことはできるのです。そして、特に強い興味を持つことができればその方面に進んでいけばよいでしょう。みなさんが将来進んでいく道が、これからの10年くらいの間に決まって行きます。もちろん、途中でどんどん変わったっていいのですが、たくさんの本や人と出会う中で、いまはSNSの影響も大きいかもしれませんが、それぞれが興味を持てるものを見つけて、進む方向が決まっていけばいいですね。
 最後に1人の卒業生を紹介して終わりにします。西京高校の2期生です。慶応大学の薬学部から東京大学の医学系研究科に進みました。大学院では神経科学を専門にしているとのことでした。SNSを通してその様子を知りました。そして、彼女から「いま思えば、先生が池谷裕二先生の『進化しすぎた脳』を紹介してくださったことがそもそものはじまりです!先生のおかげでいまの私があるくらいです!ありがとうございました!」というとてもとてもうれしいことばを聞くことができたのでした。
 みなさんにとってもいい出会いになることを願っています。                


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?