命の時間 -優-
何のために人は生まれるの?
妊婦検診のエコーを見て
医師が
顔をしかめました。
「……頭の形がおかしいね。
大きい病院に行って診てもらいましょう」
それ以上何も言わない医師に
私は何も聞けず
頭は真っ白なまま、家に帰りました
私には今、
二人の息子がいます。
長男は高校2年生。
次男は小学校3年生。
本当は、もう一人
生まれるはずの子供がいました。
それは、
長男がまだ五歳のとき。
二人目の妊娠が分かり
ずっと弟を欲しがっていた長男は
自分に兄弟ができることを
今か今かと、
楽しみに待っていました。
「無頭蓋症」
頭蓋骨が形成されない病気です。
「頭蓋骨が全くないので、
脳がむき出しになっています。
お腹の中で今は元気だけど、
これから大きくなって、元気に動いて、
子宮に頭をぶつけると、
脳が溶けてなくなることもあります。」
「臨月まで生きられる子もいます。
お腹の中で亡くなることもあります。
もし、生まれることが出来ても
生まれたとたんに亡くなってしまうと思います。」
「どうしますか?」
そう、聞かれました。
どうしますか?
それは私に、
「この子の寿命を決めてください」
そう言っているのと
同じことでした。
私は
病院の帰りに
ベビー用品のお店を
ふらふらと歩いていました。
「いらっしゃいませ!!
何かお探しですか?」
店員さんの笑顔がまぶしくて……
涙が溢れました。
私はそこで
小さなクマのぬいぐるみを買いました。
今、お腹の中で
何も知らずに生きている
赤ちゃんと同じくらいの大きさでした。
人工死産
私の出した答えはこれでした。
私が
あの子の命を止める日を
自分で決めました。
耐えられなかったんです。
「ねぇ、何月に生まれるの?」
「性別はもうわかったの?」
「うちの子のお下がりあげようか!」
そんな友達の優しさも
「ママ、ぼく、お兄ちゃんになるんだね」
長男の笑顔にも。
そのころの私は、精神的に病んでいて
安定剤を飲んで
なんとか日常生活を送っていました。
長男くんは弟を欲しがったけれど
私たち夫婦は
お互いの余裕のなさから
一緒に眠るのは
一年に一度くらいしかなかった。
神さまは
なんて残酷なんだろうと思いました。
まもなく私は入院しました。
人工的に陣痛を起こす処置は
叫ぶほどに
苦痛なものでした。
忘れられません。
静かに生まれた、
あの子のことを……。
生まれた子は
小さな木の棺に入りました。
私が手作りした服と帽子を
看護師さんが着せてくれました。
代わる代わる、
看護師さんが
「赤ちゃんを見せて」と
顔を見に来てくれました。
一晩だけ
私はあの子と一緒に眠りました。
次の日
私は退院し、
火葬場に行きました。
棺には
たくさんのお花を飾りました。
義母が、子供服を入れてくれました。
最後に一度だけ
長男に、弟を見せました。
「わぁーかわいい!!!」
長男は心から喜んでいるようでした。
そして
あの子を、お空に帰すとき。
棺が、火の中に入り
さよならだよ、と長男に伝えました。
長男は急に泣き出して叫びました。
「僕の弟なのに。せっかく、会えたのに!!」
その時の長男の悲しみは
とても……見ていられませんでした。
お空に帰す前日
旦那さまは私に言いました。
「あの子はちゃんと
自分が病気だって教えてくれた、
優しい子なんだね。
ママの体に負担をかけないようにしてくれたんだね。
あの子の名前は、優、にしよう」
あの子の名前は、優(ユウ)
私が寿命を決めてしまったユウ。
命についての考えは賛否両論。
だけど、信じるしかありませんでした。
私を恨んでいるのではなく
私を助けてくれた優しい子なんだと……
そう理解しなければ
私は、
とても生きていけなかった。
弱い人間だから
だから、強くならなきゃって思いました。
そしたらいつか、
ユウは戻ってくる。
そう信じて。
それから三年後
次男くんが無事に生まれ
次男くんの名前は
当時まだ小学二年生だった
長男がつけました。
「ユウ」から一文字とって。
次男くんは元気すぎるくらい元気で
我が家に明るい風を吹かせてくれました。
次男くんが六歳になったある日
私は彼に尋ねました。
「ねぇ、次男くんは
どうしてこの世界に
生まれてきたの??」
そう聞くと
「生きるためだよっ‼️」
そう言って笑いました。
そうだよ!
それしかないよね‼️
命の重さ
命の時間
何のために生きて、
何のために死ぬか。
私たちはそれを
「学ぶために、生きている。」
私と同じような選択をした方も
私とは違い、
最後までお腹の中で守ってあげた方も
今、判断を迫られている方も
どうか自分を信じてあげてくださいね。
生むか、生まないか
それだけではなく……
あなたが赤ちゃんを大切に思う気持ちに
一切の曇りはないことを。
赤ちゃんとお別れすることになったとしても
どうか自分を、許してあげてください。
心から愛し、慈しみ
大切に大切にお腹の中で守ってきた
深い愛情は
どこまでもどこまでも消えずに
やがてあなたの
心になるから。
読んでくださってありがとう……!!
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