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【アートノトお悩みお助け辞典】頁1.コミュニケーションルールの確認のための「ハラスメント防止研修」

新シリーズ「アートノトお悩みお助け辞典」スタートです!第一線で活躍する各分野の専門家にご協力いただき、芸術文化活動に役立つコラムや情報をお届けします。
第1回(頁1)は、「知っておきたい芸術文化の担い手のためのハラスメント防止講座」で講師を務めていたただいた植松侑子(うえまつ・ゆうこ)さんから、ハラスメント防止に関するコラムをご寄稿いただきました。


コミュニケーションルールの確認のための「ハラスメント防止研修」

こんにちは。舞台芸術の制作者であり、上級ハラスメント対策アドバイザーの植松侑子です。演劇やダンスの稽古場での研修、劇場や制作会社の職員向け研修なども行っております。

ここ1年の間に、芸術文化領域の様々な組織や現場でハラスメント防止のための研修が行われるようになり、その流れ自体は本当に素晴らしいことだと思います。その一方、まだ1度も研修を行えていない組織や現場もあるのも実情です。

ハラスメント防止研修を行えない/行わない組織や現場には、もちろんそれぞれ固有の事情がありますが、組織の意思決定をする方たちが下記のような感情や考え方を持っている場合も多いように感じます。

  • ハラスメント防止研修をするということ自体が、この組織にはハラスメントがあるというネガティブなメッセージになる。

  • この組織に関わっている人達のことをハラスメント予備軍のようにみなしているようで失礼だ。

  • ハラスメント防止研修なんかしなくても、人間同士きちんと対話すれば問題は起こらない。

  • 1人1人が気を付けていれば、これだけ周囲でハラスメントの話題を聞くのだから、そこから自然に学んで知識が身につくはず。

  • 研修をしたことで、関わる人達がハラスメントのことを意識するあまりに、これまでのコミュニケーションが取れなくなってしまうのではないか。

  • これまでのコミュニケーションが否定される、あるいは封じられる気がして、イキイキと働けなくなる気がする。抑圧的に感じる。

上記は全て誤解です。

スポーツに例えると分かりやすいのですが、たとえばサッカーで初対面の人たち同士でも試合が成立するのはなぜかと考えると、それは競技の「ルールが明確に全員に共有されているから」です。言葉の通じない海外の方や、全くこれまで一緒にプレイしたことのない人とでも傷つけあわずに競技ができるのは前提が共有できているからです。

でも、芸術文化領域の組織や現場は、多様な年齢、経験、価値観、考え方の方々がいて、同じジャンル(たとえば、映像、演劇、ダンス、音楽 etc…)にいたとしても、どのような教育を受けてきたか、どのようなバックグラウンドがあるのかによって「当たり前」「こうあるべき」の前提が全く違っていたりします。

全員が同じ前提を共有していないままに協働するのは、やはり価値観がぶつかる可能性が高いです。

コミュニケーションのルールの確認をしておかないと…

ぶつかること自体が悪いということではないのですが、その際に人格否定をしたり、相手の尊厳を傷つけるようなことにならないように、何はOKで、何がNOなのか、コミュニケーションのルールの確認を全員でしておくことが重要です。

ルールをみんなで確認しておけば、挑戦もしやすくなりますし、率直にフィードバックもしやすくなりますし、他者の意見も受け入れやすくなると思います。

また、研修やガイドライン、相談窓口の設置がハラスメント防止のためには有効ですが、人間関係が希薄な状態でルールだけを厳しく制定してもあまり効果がない(形だけになる)ことも実感しています。

ハラスメントの予防には、個人と個人の関係性が重要であり、組織やチーム内での信頼関係や協力関係が築かれていれば、ハラスメントの発生は少なくなります。そのためには、日常的なコミュニケーションや交流を大切にし、相手を理解しようとする姿勢が必要です。

相手を理解するためには、「相手には相手の事情がある」ことを前提に「受け入れる」ではなく「受け止める」姿勢が重要だと感じています。
コミュニケーションを、相撲のようなイメージ(直接のぶつかりあい)で捉えると、相手と自分の価値観が大きく異なるときに、なかなか受け入れがたくなってきます。

でもそうではなく、あいだにボールを挟んだキャッチボールのようなイメージだと、相手の言っていることを、いったんまずは受け止めればいいので、相手の話を聞きやすくなります。

ハラスメントの予防のためには、そもそもハラスメントとは何なのか、知識として学ぶことと、そして自分のコミュニケーションの技術を磨いていくことの両輪が必要です。
ぜひ私が講師・ファシリテーターとして参加しているアートノトの「知っておきたい芸術文化の担い手のためのハラスメント防止講座」も皆様の活動にお役立ていただければ幸いです。 

(植松侑子)

執筆者プロフィール

植松侑子[舞台芸術制作者、上級ハラスメント対策アドバイザー(一般社団法人ハラスメント対策協会)]
お茶の水女子大学 文教育学部 芸術・表現行動学科舞踊教育学コース卒業。在学中より複数のダンス公演に制作アシスタントとして参加。卒業後はダンスカンパニー制作、一般企業での勤務、海外放浪を経て、2008年からフェスティバル/トーキョー制作。2012年からは1年間韓国・ソウルに留学。帰国後はフリーランスの制作としてさまざまな劇場・組織・劇団と協働。2015年6月~舞台芸術のアートマネジメント専門職に向けた人材育成と雇用環境整備のための中間支援組織「特定非営利活動法人Explat」理事長。2016年7月~合同会社syuz’gen代表社員。
note:https://note.com/maticcco


知っておきたい芸術文化の担い手のためのハラスメント防止講座

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基礎知識1(法務編) 
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防止のためのトレーニング編1(アンガーマネジメント)
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