見出し画像

野創人

残雪

画像1

 きのこの旬といえば秋と言うのが一般的な認識ではないだろうか。
 それはあながち間違っているとも言えないのだけど、実は四季を通じて発生するらしい。
 何も知ったかぶりをするつもりはない。それを認識したのはまだ最近のことだからだ。
 もちろん全てのきのこが年間を通じて発生するわけではなく、地域性や季節、気候などの条件が揃う必要がある。そして可食に限定しなければ、様々なきのこを観察することが可能なのだ。

 2020年は雪が少なかったためか公園で思いがけないきのこを見つけた。公園の地面に茶色いカサをしたきのこがモリモリと出ていたのだ。調べてみるとどうやらエノキタケらしい。市販の白くて細い栽培品種とは似ても似つかぬ姿なので一見しただけではエノキタケであるとは思えなかった。

画像3

 本来なら採取してカサ裏のヒダや柄の部分、場合によっては根元の形状や断面を確認する必要がある。顕微鏡で確認しても判断に困る場合もあるようなので直感的に判断して口に入れることは厳禁だ。

 きのこの魅力は食べられるか否かだけではない。口に入れるつもりがなければ、きのこの色や形を鑑賞して楽しむことができる。

画像4

 初めて見つけて直感的に野生のエノキタケと判断出来る人はほとんどいないのではないだろうか。茶色く大きなカサと肉厚感、美しいヒダが整然と重なり、柄は黒っぽくなるのが特徴でビロードのような質感があると言う。

 しかし、エノキタケは地上性ではなく木質の何か…木の幹だったり根っこだったりと言うものが必要のようで地上に出ていると困惑のタネになる。後日確認すると、エノキタケの発生した場所にはやはり朽ちた木の根か切株のようなものが埋もれていたようだ。

 これらを総合的に判断し、図鑑やネットなどで照合し、エノキタケではないかと推定したのだが、可食のきのこには必ずと言っていいほど良く似た毒きのこの存在がある。故に安易な同定は厳禁なのだ。

 野生のエノキタケはナメコなどの茶色系きのことよく似ている。市販のエノキタケとナメコを間違うことはないかも知れないが、野生種は条件によって見分けるのが難しいほど似ていることがある。そして猛毒とされるコレラタケとの誤食例もあるらしい。

 公園で観察出来るきのこは意外とたくさんあるようだ。もちろん条件が揃っている必要性があるので、毎日の散歩コースなどマメにチェック出来る場所でないとタイミングが合わず見逃してしまうかも知れない。興味を持って観察を続けると目がきのこに慣れてきて次々に見つかるようになる。思いがけないきのことの出会いもあるかも知れない。

 エノキタケは寒さに強いきのこで雪の下で成長していることもあるらしく、別名「雪の下」と呼ばれているようだ。発生するポイントを見つければチェックしやすくなるだろう。

 2020〜2021年の冬は雪が多かった。
 2020年にエノキタケと思しききのこを見つけた場所へ出かけてみたが、しっかり雪が積もっていて発生を確認できなかった。
 それでまだ残雪のある山へ出かけてみた。

画像7

 雪融けの季節は雪崩にも注意が必要なので山へ出かけるなら危険がないような場所を選ぶ必要がある。

 出かけた山は傾斜はきついものの残雪はそれほど多くなかった。
 雪上には所々二本爪の足跡が残されていた。近隣に棲むカモシカだろうか。融けかけて固くなった雪上は意外と歩けるようだった。しかし、下が融けて空洞になっている箇所があるので踏み抜いてしまうと膝くらいまでは埋まる。カモシカも足先が細いので踏み抜いたりしているようだ。バランスを崩して転んだりしないのだろうか。

 ヒラタケもまた寒さに強いらしい。晩秋に見つけたことがあるのでさらに発生していないかと期待していたが、木の高い所に干からびてしまったようなきのこが見つかるだけだった。
 野生のきのこは干からびているようなものも水やお湯などに浸けておくと再生するかのように戻るものがある。干し椎茸は良い例だろう。けれど、手の届かない高さのきのこでは観察すら難しい。

 木の幹に真っ白なきのこの幼菌らしきものを見つけた。コフキサルノコシカケだろうか。肉質は固く大きく成長することもある。いや、ツリガネタケというきのこもあったはず。サルノコシカケ科にもたくさんの種類のきのこがあるようなので同定には成長を待つ必要があるかも知れない。

画像5

 小さな皿のような円盤状のきのこも見つけた。なんと言うきのこかわからないながら色と形状の美しさが面白い。花であれば昆虫を惹きつけるための進化と考えることも可能かも知れないが、きのこの形状は何を意図しているのだろうか。

画像6

 地域によって3月は椎茸も見つかる季節のようだ。野生の椎茸は場合によって巨大に成長するらしい。市販の椎茸は見慣れていても野生の椎茸に出会った時に果たして確信が持てるだろうか。

 桜の頃はアミガサタケという幻のきのこの季節だ。以前に一度だけ見つけたことがあったが、きのこのイージとはかけ離れた姿を目の当たりにして、てっきり毒きのこだと思ってしまった。ところが実はモリーユと呼ばれる人気の高級きのこだったらしい。道端に忽然と出ているとは思わないから写真だけ撮って場所もよく覚えていない。ただ、確かに桜の季節だった気がする。
 どうやら発生する地域も限られているのではないかと思われる節がある。身近な場所がそんな貴重なきのこにも出会える地域性である可能性もある。そしてきのこの奥が深いことと言ったら興味が尽きない。

 少し山に入っただけでしっかり汗をかいてしまった。山を下りようとすると木を突くような連続音や野鳥のさえずる声が聴こえていた。


〜03〜

画像2

…頼風…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?