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そこにある景色
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アトリエで本を読んでいて、ふと机に目をやると、携帯の黒い画面に、庭の柿の木が反射して映り込んでいた。
影の柿の木には、若い芽の息吹まで映っていた。
なんと美しいんだろう!と感動し、しばらく眺めていた。
携帯の端末にこれ以上の役割があるのだろうか。美しさを現実以上に切り取る、黒き鏡。
全ての情報や、あらゆる人と繋がれる端末。しかし、実際、目の前にある柿の木の、もっと奥深い美しさに気づかせてくれるなんて。
ところどころ、指紋の白さで、映り込む枝や蕾が見えなくなっている。
繋がるために、一日何千回とタップする指紋が、この鏡を曇らせている。なんという因縁だろうか。
私は、スケッチした。もうしばらくこの美しさを知るために。鉛筆を走らせて、心に刻み込む。
そうして、十分に堪能したあと、また「タップ」して、鏡の世界を失った先に、この想いを文章に表現している。
せっかく得られても、また失う。
そして失うことで、また得られるものがある。
しかし、美しさの本質は、いつだって見失ってはいけない、というお話。
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