クリエーター(トレーダー)様と遊ぶ企画 わらしべ長者・第十四章 “別れ”
私は訳あって旅をしている女だ。
家を失った私は安住の地を求めて日本中を彷徨うホームレスであったが今は住み込みで旅館の仲居をしている。
仲居という仕事は人と接する機会が多く沢山の人と出会い、別れを毎日のように経験する…そんな生活に私は満足していたのかもしれない。
埼玉県秩父市…
埼玉県の端っこ山間部に位置する都市で山に関連したイベントが多く、そのイベントの為に沢山の観光客が訪れる。駅近辺なんかは更に賑やかで沢山の人とすれ違う。秩父での生活に順応してしまったのかもしれない。私は色々な人と仲良くなり、親しくなるのだが私がここに来た理由を話すと冗談混じりの笑いをされる。
秩父に来てもう三年が経とうとしていたのだが…仕事の楽しさと雰囲気の良さから段々と堕落した私生活を送るようになっていた。そんな秋の日の夜に一人の女性が宿泊をしたいと飛び込みのお客さんが現れた。
いつものように挨拶をし、お客さんに話をする…だが、彼女…なんか雰囲気が違う、人間の姿だが、人間っぽくない。しかも耳が尖っている、所謂エルフか妖精っぽい。
『…貴女、ひょっとして私の耳が見えてたりする?』
彼女は私に尋ねてきた。見間違いじゃない…この人は妖怪?
『違います!誰が妖怪だと?貴女、本当に私の耳が見えてるんですか?』
びっくりした…私の考えている事がわかるようで心を読まれていた。
『貴女の言う通りエルフですよ。油断してると耳が見えちゃうから気をつけていたのに。日本人から見たら妖怪なのかもしれませんね。エルフって言うと西洋のイメージが強いけど、エルフの中には日本とかの東洋文化に興味を持った人がいて何人かのエルフは日本に住んでいるんですよ。』
ま、それは兎も角…妖怪、いやエルフのお客さんを部屋に案内した。
『私の名前はなこって言うエルフの女です。里に帰る途中でしたが、思ったより時間がかかっちゃって。』
なるほど…妖怪耳長さん、(ボコっとゲンコツが降ってきた)エルフの女性は言った。
『ところで貴女、胸のムーンライト、光ってるけど。忘れてたでしょ。』
確かに光っている。忘れてた…久しぶりに光っていたのだ。
『呆れた…ムーンライトの光を忘れる程平和ボケしてたの?まったくもう。さて…“ムーンライトの光の盟約の元、我…なこは其方との契約を求む。ムーンライトに導引きされし者よ、答えを求む…”あ、これはエルフに伝わる契約の呪文。つまりトレードの契約ね。ねぇねぇ、貴女“リッちゃんのコップを”持ってるでしょ!見せて見せて!』
リッちゃんのコップ?リッちゃん?誰だろう…私の部屋にあるのは百均で揃えたものばっかりだし、高価な物って言えば…アレしかない。私は部屋に取りに行った。
『そうそう!それだよ。リッちゃんのコップ。コップにリッちゃんの気がまだ残ってるから。これ、誰にもらったの?え?駅の近くで茶道教室をしてる女の人にもらった?ねぇねぇ…その人に会わせてよ。』
強引な彼女に迫られ、妖怪さん…なこさんを案内する事にした。ROROさんは心良く迎えてくれてなこさんと話が盛り上がったらしい、真夜中になこさんは帰ってきた。
『あの子、やっぱりリッちゃんの子孫だった。リッちゃん…もうこの世にいないんだって。』
私はさっきから一方的に話す彼女の話に出てくる、“リッちゃん”の事を聞いてみた。
『貴女なら知ってるんじゃない?リッちゃん…“千利休”って人!リッちゃんって結構有名人だったからなぁ。私が子供の頃、森に迷い込んだリッちゃんを助けてから仲良くなっちゃってさ、少しの間だけ私達エルフと住んでいた事があるんだよ。
ただね、ある日“ヒデヨシ”って偉い人に呼ばれて会いに行く、って言ってたけどそれ以来リッちゃんとは会えなくてさ。風の噂ではリッちゃん…その偉い人を怒らせたらしいんだよ。リッちゃんって少し頑固なとこあるしなぁ。』
続けて…
『彼女にはちゃんと許可を貰ってきたから、“ご先祖様も喜ぶ”って。…と、言うわけで不思議な茶葉とコップ、道具一式…もらうね。今度は私の番か…』
と、彼女はゴトっと何かの頭骨っぽい水晶を出してきた。
『これはね…水晶化した肉食獣の頭骨なんだけど、私の住む里では長の家で肉食獣を飼う風習があって肉食獣は長とともに狩りに出て、儀式に参加し、一生を共に暮らすんだよ。
その肉食獣が天に召されると、里に伝わる製法により、数年をかけて頭骨を水晶化して、水晶化した頭骨は里の祭でくじにより選ばれた人の家に贈られた水晶化した頭骨は、その家を守ってくれるんだよ。お守りだね。』
確かに何かの頭っぽい。有り難く受け取った。
『…ムーンライトの導きにより盟約は成立致しました。ムーンライトの光よ…八百の神々よ、全ての生きるもの達よ、感謝いたします。…はい、これで契約成立ね。
ねぇ、そろそろここから離れる時期じゃない?貴女はここで終わるような未来じゃないと思うし、まだまだ貴女を待っている人は沢山いる。
ここが貴女の終焉で安住の地だ、と言うのなら私はこれ以上は言わない。それにそれを選ぶならここで大事な物を生きている限りずっと探し続けなければいけない…目の前の幸せか未来に訪れる真の終焉…どちらがいいか、貴女にはわかっているはず。ムーンライトが輝き続ける限りね…私は明日の朝早くにここを出るから今が最後の夜…もう会えないと思う…よく考えてみてね。』
次の日の翌朝、彼女がいた部屋に床上げに部屋に行ってみると誰もいなく…使った気配もないくらいな感じでまるで使う前の感じだった。ただ私の部屋には茶碗と茶器はなく、頭骨の水晶はあった。
私は悩んだ…昨日なこさんに言われた事を。目先の幸せか、近い未来に訪れる、真の幸せを求めるか…を。一日中、日頃の仕事をしながら私は考える…妖怪さん、私は…ここを出る事にする。真の幸せを求めて、ね!
すると頭に痛みを感じふと床に落ちている丸いものを見つけたのだが、それは胡桃の実だった。
“私は妖怪じゃないよ!エルフだよ、エ・ル・フ!”
何処からかエルフのなこさんの声が聞こえた。
さて今回のクリエーター、なこ(nAco)様、可愛いイラスト、有難う御座いました!
・利休が残した不思議な茶碗と幸せになれる茶葉、茶器一式→肉食獣の頭骨の水晶
・熊のぬいぐるみ
・不思議な地図
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