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#2 数字で読み解く「アート鑑賞は何の役に立つ?」

さて、みなさんは普段どれくらいアートを鑑賞しますか?
また、何のために鑑賞しますか?

よほどのアートファンでない限り、
「年に1~2回、誘われたら行くかなぁ」
という方が多いのではないでしょうか。

美術展に列をなして並ぶ人々や
毎月博物館に行く人種を見て、
「なんでその選択肢なんだろう?」
「何が楽しいのか私も知りたい!」
と思われた方も少なくないと思います。

さて、冒頭の質問
「アートをどれくらい/何のために鑑賞する?」に戻って、
文化庁実施の調査結果から
日本のアート鑑賞の実情を把握してみましょう。

●どれくらいアートを鑑賞する?

調査時点から過去1年間に
何らかの文化芸術を鑑賞した人の割合は 53.9%
全体の10.5%は月1回以上鑑賞しています。

図2

まったく・ほとんど鑑賞していない人の割合は 46.1%
40代、50代男性において鑑賞しない人の割合が多いです。

鑑賞率の高い属性は
学生や自営業主、自由業、農林漁業などの
比較的時間に自由のある層や、
世帯年収が高い層でした。

鑑賞ジャンルの上位を見てみると、
美術(45.3%)>映画(43.6%)>
ポップスなど(31.5%)>歴史的な建物や文化財(29.6%)

あれ?意外と美術が多いなと思いましたが、
回答者属性を見てみると70歳以上が多いのですね。

世代別にみると、
30代までは 映画が一位、ポップスなどが二位
50代までは 映画が一位、美術が二位
となっています。
文化庁世論調査(平成31年)より)


●何のためのアート鑑賞?

美術品を鑑賞することのプラスの効果について
肯定的回答(そう思う、どちらかと言えばそう思う)
が多かった項目と割合は、

● リラックス・気分転換・ストレスの軽減(64%)
● 教養の習得 (59%)

その他の肯定的回答者が半数を上回った項目は、
「日本・他国の文化認識・理解」「創造力の養成」
「自身の嗜好の認識・理解」でした。

図1

ビジネスに関連しそうな項目を抜粋すると、

● 社会問題・課題の認識・理解 (27%)
● ビジネス上のコミュニケーションの促進 (21%)

と、2~3割程度の人が効果を感じています。

また、「芸術的視点は、あなたの仕事において重要である」
という設問に肯定的回答を示した回答者属性は、

● 年  代: 低いほど肯定的
● 個人年収: 年収200万円以上
● 職  種: 商品企画・開発
         企業等の経営者・役員
         個人事業主・店主

という特徴がありました。
文化庁・一般社団法人アート東京
「日本のアート産業に関する市場レポート(2019年)
」より)

なるほど、経営者はアート教養が豊富という通説とも共通します。

それにしても、この調査結果だけみると
リラックスや気分転換は他のコンテンツで十分だし、
社会問題の認識やビジネスコミュニケーションも他でいいような…

自分はもう若くもないし、
商品開発してるわけでも経営者でもないぞ
となれば、
「アートをわざわざ訓練する必要ないのでは?」
という気持ちになります。

(そもそもアンケートの設問が微妙ですよね。
 私でも選択しようと思う項目なかったでござる。
 文化庁・アート東京様ごめんなさい。
 アンケート作る大変さもよくわかります)

●アートは市場価値が高い?

でも、アートオークションでは一作品あたり
何十億、何百億といった取引がなされているのを
たびたび見聞きしますよね。

例えば、かのゴッホ作『ひまわり』の落札額は53億円(1987年)
落札者は安田火災海上保険(現・損保ジャパン日本興亜)です。

企業がそんな高額投資すべきほどに、
アートの市場規模・スケール可能性は大きいのでしょうか?

結論から言うと、
アートの市場規模(特に日本)は小さく、
過去10年ほとんどスケールしていません。

雑誌penの記事がざっくりまとめてくれているのですが、

● 世界のアート市場規模は 7兆1344億円
● 日本のアート産業規模は   3260億円
● 世界美術品市場のうち日本の割合は 約2.8%
(2018年数値。5%くらいという説もあり、
 色んな算出方法があるのであくまで参考値です。)

比較対象として、日本のスポーツ市場は

・2012年時点で約5.5兆円
・2020年に10.9兆円を目指す

とスポーツ庁が発表しており、
日本のアート市場(3260億円)の小ささが伺えるかと思います。

(私の前職のグループ総売上を見てみたのですが、
 日本のアート市場の2倍くらいありました。)

アートは普段多くの人にとって接触機会が少ないうえ、
インフラ産業でもなければ、産業規模も大きくないため、
有事の際は真っ先に削られる分野でもあります。(今とか)

リーマンショック直後の市場推移をみてみると
2009年世界のアート市場は前年比 約60%にまで縮小しました。

今来年度は、COVID-19(新型コロナ)の影響で
その規模はより大幅に縮小するでしょう。

一方、今後はアジア市場やオンライン取引の成長が期待されることや、
ドイツのグリュッタース文化相が

「私たちの民主主義社会は、少し前までは想像も及ばなかったこの歴史的な状況の中で、独特で多様な文化的およびメディア媒体を必要としている。クリエイティブな人々のクリエイティブな勇気は危機を克服するのに役立つ。私たちは未来のために良いものを創造するあらゆる機会をつかむべきだ。そのため、次のことが言える。アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。特に今は」

と発言し、アーティストや文化産業に対する
コロナ対策支援が政府的最優先事項であると、
国家レベルで手厚いサポートを約束し、
注目と賛否両論を集めたことも見逃せません。

●改めて、アートの鑑賞の効果とは?

さて、これまで見てきたように
他のコンテンツと比べても圧倒的魅力があるとは言えず、
市場規模としてもインパクトの大きくないアートが
一体何の効果をもち、昨今なぜ注目されているのでしょうか?

私が実感しているアート鑑賞の効果は
大きく下記の3つです。

●インプット力 ●消化力 ●アウトプット力

次回からは、それぞれの項目を
実際に作品鑑賞しながら説明していきたいと思います。

※じゃあなんで高額投資対象になってるの?
 というお話しや、
 世界各国の文化政策を見るのもおもしろいので、
 また機会を改めて紹介しますね。

《質問募集》
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