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7arts|特別展「きもの KIMONO」(東京国立博物館)

日本の伝統衣装であるきものの展覧会が、東京国立博物館で開催中です。

ドレスやファッションの展示はあれど、今回のように約300点の関連作品が展示される大規模なきものの展覧会は、なかなかありません。ただし、布地や染料はデリケートな素材ということもあり、5〜6日間単位・計8回の展示替えを行うようです(全期展示や複数期にまたがって展示される作品がほとんどです)。
チケットは若干当日券の用意があるものの、基本的に事前予約制(日時指定券)を専用のウェブサイトから予約。当日は指定された日時の間に来館し、入口での混雑を避けるために少人数ずつの案内で会場入りします。

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見どころ3選

きものを取り巻く絵画たち
きものの描かれた屏風や浮世絵、受注する際のカタログ「ひいなかた」などは、当時のきもの需要を今に伝えます。浮世絵は流行を伝えるメディアでしたし、「ひいなかた」は文様に込められた意味やパターンの変遷を研究するのに役立ちます。また、さまざまな柄を描き分けられるのは、絵師の力量をはかるポイントの一つでもありました。
きものを人物が身につけた状態ではなく衣桁(ハンガーラックのような形状のもの)に掛けられた状態で描いた「誰が袖図(たがそでず)」の屏風も、きものを描いたユニークな作品です。会場では、布地が直接貼られている《誰が袖図屏風》もありました。今で言うと、贔屓のスポーツチームのユニフォームを飾る感覚でしょうか。

粋な男の勝負服!火消半纏
弁慶やスサノオ、鵺退治をした源頼政といった豪傑たちが背中いっぱいに描かれた半纏(はんてん)。分厚く重ねられた生地には、びっしりと刺し子(生地面全体に縫い目を入れる技法)が施されています。仕事着としての丈夫さはもちろん、火消の誇りをアピールできるデザインです。会場には10着ほどが展示され、壮観でした。
以前、浅草にボロ着のコレクションを展示するアミューズミュージアム(昨年閉館)があったのですが、そこで感じた生活に根付く衣服の魅力に再び触れることができました。

モダニズムきもの・ファッションショー
大正・昭和のきものが展示されている4章に入ると、トルソーに着付けられた着物がランウェイのようにずらりと並びます。広げた着物を絵画的に見るだけでなく、トータルコーディネートをみられるのは嬉しい演出です。その上にはシャンデリアが吊り下げられ、乙女心をくすぐります。
ビビッドな色と個性的な模様が特徴の銘仙は、現代でもアンティーク着物として人気があります。展示室では黒い縁取りのされた展示ケースの中で、鮮烈な色を背景に展示されていました。ファッション誌のようなハイセンスな見せ方です。

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私のおすすめ作品3選

頭の数字は目録の作品番号です。

51 菱川師宣筆《風俗図巻》(個人蔵)
《見返り美人図》で有名な師宣が、器楽演奏や舞踊に興じる人々を描いた作品です。踊る人々の多彩なファッション、躍動感のあるポーズや手先・足先の繊細な表現は見応えがあります。
私が注目したのは、踊る人々のフォルム。揺れる袂(たもと)や折り曲げた膝はしなやかなカーブを描き、S字に曲げられた体は雲型定規のようです。流線形にデフォルメされた人物のフォルムが、完成度が高く美しいのです。そうした人物が連なる様子はみていて心地よく、画中の人々の愉快な気持ちを追体験しているようでした。

62 《小袖 淡黄縮緬地桜樹文字模様》(女子美術大学美術館)
友禅染めの桜の木に刺繍で文字が表された小袖です。余白を多く配し、抽象化された桜の木や文字を際立たせています。実物はリンクの写真よりも薄桃色でした。
染め部分の淡い色合いや滑らかなグラデーションに見入っていると、鉛筆描きのような下絵だけの葉がちらほら見受けられました。
衣服のデザイン一つに対して思案を重ね、繊細な技が駆使されているのだと感じることができる1着でした。

92 尾形光琳筆《小袖白綾地秋草模様》(東京国立博物館)
本展の目玉の一つでもある光琳直筆の小袖。花や葉の色の濃淡は、奥行きとともに秋雨の湿り気が伝わってきます。すっきりと洗練された印象ですが、秋草の細い葉や素早い筆致で描かれた菊の花弁が生々しく、本物を前にするとゾクゾクしました。
本作品はきもの展終了後に修復作業に入ります。会場内のショップで販売されている初音ミクコラボグッズの購入や1階ロビー横のフォトスポット脇にある募金箱にて、修復費用を寄付できます。

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展覧会で展示されているきものは絢爛豪華で、近代のもの以外は一般市民の普段着とは言い難いです。それでも、かつての日本人はこんなにも色鮮やかな衣服を柄×柄で着こなしていたのだと思うと、優れた美的センスに驚かされます。
会場には着物姿や和柄の洋服を着た方、柄物のワンピースを着た方もいました。ノームコアなファッションも流行りましたが、現代の私たちも、きものが着たい欲求や色柄ものに惹かれる遺伝子を持ち合わせているのではないでしょうか。

そんな私の夏のワードローブは、ドラTと電車Tです。

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