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卒業論文をやり直す会②|2022年3月

3月某日、第2回オンラインミーティング(飲み会)にてテーマ発表を行いました。
飲み会のノリで進める予定が、トップバッターの私がパワポを用意して発表をしてしまったせいか、しっかりと質疑応答いたしました。
みんな美術ガチ勢だから……。

テーマ発表

あさの|ルネ・ラリック つむじ風

ルネ・ラリック《つむじ風》1926 大一美術館蔵ほか

卒論は「ルネ・ラリックのジュエリー」でしたが、範囲が広すぎて論旨がまとまらず。加えて、作品の魅力を伝えようと思って書いたため、そもそも論文にはなっていませんでした。(ライターとしては正解でしょうか?)
今回は作品を絞り、「論文」を書くことを意識して進めていきたいと思います。

テーマは、フランスの工芸家ルネ・ラリック(1860-1945)《つむじ風》。
原語では《Tourbillons(渦)/Whirlpools(渦潮)》という作品名が付けられ、ラリックのウェブサイトなどでは、シダの花(の動き)/movement of the fern blossom」をモチーフにしたとあります。この渦巻きの造形は、植物なのか、風なのか、渦巻く水なのか。モチーフの発想はどこから来たのかを解き明かします。

メンバーからは、このモチーフを採用した理由を探るといいのでは、とアドバイスをいただきました。流行のモチーフだったのか、ラリックの一存か工房の方針か。前年に現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称アール・デコ博)があったので、そこにもヒントがありそうです。また、渦巻きモチーフの前例を調査する提案もいただきました。

TTR|グスタフ・クリムト メーダ・プリマヴェージの肖像

グスタフ・クリムト《メーダ・プリマヴェージの肖像》1912–13
Gift of André and Clara Mertens, in memory of her mother, Jenny Pulitzer Steiner, 1964

卒論に引き続き、扱う作品はオーストリアの画家グスタフ・クリムト(1862-1918)《メーダ・プリマヴェージの肖像》。クリムトが子どもを描いた作品は、姪をモデルにした横顔の肖像画《ヘレーネ・クリムトの肖像》(1898)と、9歳になる実業家の娘をモデルにした本作のみだそうです。
かわいいけれど、どこか生意気な印象でもある本作を、肖像画の歴史や子どもの肖像の観点から論じます。

肖像画の歴史では、古来は特徴が表現しやすい横顔が主流で、正面から描かれるのはキリストのみでした。それが徐々に、四分の三正面から正面へと変化していきました。クリムトの肖像画では、大人の女性の象徴としてカツラをイメージしたかまぼこ型の図形が頭部に描かれています。

メンバーからは、子どもの概念・子ども観の始まりを調べるといいのではと意見が出ました。「小さな人」ではなく「子ども」という概念が生まれたことで、大人と子どもを区別して考えるようになり、子どものための服や教育も登場しました。
当時の子どもに対する考え方を知ることで、クリムトがメーダをどう捉えたのかが見えてきそうです。

Kちゃん|アントニオ・カノーヴァ アモルの接吻で蘇るプシュケ

アントニオ・カノーヴァ《アモルの接吻で蘇るプシュケ》1787 - 1793
© 2011 RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / René-Gabriel Ojéda

ギリシア神話に登場する「アモルとプシュケ」のモチーフを論じます。
卒論では、フランスの画家ウィリアム・アドルフ・ブグロー(1825-1905)《アムールとプシュケー、子供たち》を取り上げましたが、個人蔵で先行研究もなく、研究は難航したそうです。今回は、イタリアの彫刻家アントニオ・カノーヴァ(1757-1822)の《アモルの接吻で蘇るプシュケ》に変更して進めます。

「アモルとプシュケ」のエピソードは、古くは2世紀にローマの作家アプレイウスが記した『変身物語』(通称『黄金の驢馬』)に登場し、18世紀にウィリアム・モリスが翻案した小説により、再び注目されました。なんと「美女と野獣」の原型でもあるそうです。美術の世界でも、カノーヴァ作品の複製・模倣をはじめ、物語のあらゆる場面が絵画や彫刻で表現されました。
さまざまな芸術分野において、たいへん流行したモチーフだったのです。

今後の方針として、まずは本モチーフが流行した歴史やその広がりを把握すべく、年表をつくることになりました。一人では大変なので、M氏も手伝ってくれるそう。私も何かできることがあれば手伝うぞ!

M氏|美術と社会のつながり〜ゴヤと鴨居玲を始まりとして〜

鴨居玲《1982年 私》1982 石川県立美術館蔵

卒論では、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤ(1746-1828)《日傘》を題材にアジアとの関係を探りましたが、特に関係性は見出せませんでした。
その後、M氏はゴヤの作品群「黒の絵」に興味を持ちます。これはゴヤが宮廷画家を引退した後に暮らした「聾者の家」の壁面に描いたもので、有名な《我が子を食らうサトゥルヌス》もその一つ。制作意図は不明なものの、醜く悪魔的な風貌の人物や狂気に駆られる人物は、人の心にある闇の側面を鑑賞者に突き付けます。

日本の洋画家、鴨居玲(1928-1985)も、ゴヤと似たものを持っていました。ユーモアのある会話と人懐っこい笑顔で人を魅了する反面、酒に溺れて自殺未遂を繰り返していた鴨居は、老人や酔っ払いに自分を重ねて人間の弱さや醜さを描きました。没後も定期的に個展が開催され、会場には若いファンも多いそうです。
どちらの作品も、現代の私たちの心を揺さぶる強い引力を持っています。誰かの依頼ではなく自分のために描いた不気味な絵は、同じように絶望や孤独を抱く人の心に寄り添うものとなっているのかもしれません。

今回は、自分のための作品から誰かのための作品への移行、美術と社会のつながりを論じます。作家や作品は近代〜現代を想定していますが、まずゴヤと鴨居の間に時間的な隔たりがあります。また、自分のために描いたゴヤや鴨居から、社会との関わりを意識して活動する現代の作家につなげるには、飛躍があるでしょう。
どんな作家や作品を扱うか、どのように話を持っていくかが焦点となりそうです。

総括

テーマ発表を終えて、作品や論旨を絞れていなかったこと、難易度の高い作品・テーマ設定が共通の敗因だとわかりました。好きな作家や作品を選んだことに後悔はありませんが、リサーチや論文執筆のスキルを充分に鍛えるのは、学部の段階では難しいのではないか、というのが正直な感想です。
4年次に、卒論と学芸員実習or教育実習と就活or院活、全部やるのは無理があると思います……!

ですが、油彩画や彫刻、工芸から社会史的なアプローチまで、多彩なテーマが揃ったことにワクワクする気持ちも湧いてきました。
まだ調査が必要なところ、方向性が見えないところはありますが、ひとまず書けるところから、手を付けられるところから始めていきたいと思います。

次回のミーティングでは、主にGWに向けての活動予定を報告する予定です。


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