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57arts|日常アップデート(東京都渋谷公園通りギャラリー)

毎日は新たな体験の記憶の繰り返し、そうした日常をさまざまな観点で表現する6名の作家の展覧会が、東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中です。

同ギャラリーは、東京におけるアール・ブリュットなどの振興の拠点として展示やワークショップを行う施設で、展覧会は基本無料です。渋谷パルコの近く、渋谷区立勤労福祉会館の建物内にあります。

宮田篤(みやたあつし)

壁一面に冊子の入った封筒がずらり。来場者は、気になる冊子を手に取って読むことができます。

宮田篤さんの《微分帖》(びぶんちょう)は、二つ折りにした紙にお話をかき、その内側に他の人が物語を加えていく体験型の作品です。リレー形式で増えていくページのかき手は性別も年齢もさまざまです。

絵本のようにユニークな絵で落とす(オチにする)作品もあれば、文字のみで語る作品もあり。子どもの始めた微笑ましい話が、中盤で青春小説のような語り口になったり。分厚い冊子を読み進めても、たいして物語が進展しなかったり。
元のお話に沿ってつないだ作品も、ギャップのある作品も、それぞれの面白さがあります。

小学生の時、班のメンバーで文章リレーをする授業があったのを思い出しました。
私が始めた学園探偵ものが未解決で終わってしまって、しょんぼりだったんですよね。

関口忠司(せきぐちただし)

味のある書道作品ですが、格言でしょうか。名詞や慣用句から、「かてメロス」「メロスサボるな」といった叱咤激励、「ちゅうぶらりん」のような語感の面白い言葉まで、たくさんあります。「エレベーターさわぎ」って何だ。(笑)
関口さんは、日々の会話の中でひらめいた言葉、テレビで聞いて耳に残った言葉など、気になった言葉を書いているそう。

筆で文字を書くとなると肩肘を張って、立派なものを書こうと考えてしまいがちですが、何も気にせず自由に書いてもいいのだなと励まされるようでした。

土谷紘加(つちたにひろか)

アイロンビーズを使った土谷さんによる作品も、壁をカラフルに彩っています。

アイロンビーズとは、短い円筒型のビーズをトゲのある板に並べて模様や形をつくり、シートを被せた上からアイロンをかけるとビーズ同士がくっつくというもの。
(「お水でシュッ」は違う原理でくっつける別商品でした)

複数の色を使ったQRコードのようなもの、一色だけのもの、ビーズ向きを揃えずに固めたもの。アイロンを当てすぎて溶けすぎたものは、ビーズの穴が残っているものから平らになっているもの、3Dプリンタの出力が失敗した時のような糸を引いているものまで。

本来であれば、ハートや花、動物といった何らかのモチーフをつくるところですが、メーカー側もみる側も想定外の表現には驚きです。

ユ・ソラ

テーブルやソファ、クッション、その周りに置かれた本や牛乳パックといったものが実寸大で置かれています。真っ白なそれらの輪郭や印字は黒い糸で刺繍され、その糸はところどころ切れて垂れ下がっています。

何気ない日用品が立体に起こされ、その輪郭や印字が縫われていると、あらためてその形や存在を意識してしまいます。

こんなカフェありますよね、韓国発のやつ。

一方で、白地に白の糸で縫われた作品は、モチーフの存在感が薄れているようです。中綿が入って、ぷっくりと盛り上がっていますが、色の効果が立体感を掻き消しています。

複数のモチーフが組み合わされている図は、よく観察しないと、何が表現されているのかわかりません。

触れる作品も

原田郁(はらだいく)

原田さんは、コンピュータ内に理想の街や展示室をつくり、その風景を絵画化しています。雑に言うと、マインクラフトの絵を描いている感じです。
絵画は窓に見立てられ、白い窓枠の外にパキッとした色の木や積み木のような構造物が見えます。まるで自分がバーチャル空間に入り込んだかのようです。

古くから「絵画=窓」の図式はあり、鑑賞者を「建物から外の風景を眺める」「外から家の中の出来事をのぞく」感覚にさせる作品が描かれてきました。
そのトリックの現代版と言ったところでしょうか。

アップで撮ると、窓枠が開いているようにみえますね。

今回の展示では、原田さんがつくったバーチャル展示室の絵を描くワークショップも行われ、その展示室の映像も展示されています。

飯川雄大(いいかわたけひろ)

飯川さんは、巨大なピンクのネコ(名前は小林さん)でご存知の方も多いのではないでしょうか?
「言葉や映像、遊具のような装置を使い、鑑賞者が作品に触ったり、動かしたりすることで思いがけない場所で新たな体験を作るインスタレーション「デコレータークラブ」(2007—)を展開している」とのことですが、はて?

そういえば展示室には、ボストンバッグやキャリーバッグがいくつか置かれています。インバウンドのお客さんのものかと思っていたら、どうやら作品のようです。

2022年、国立国際美術館(大阪)と兵庫県立美術館との連携企画で使われた作品です。それは、観客が18kgもある「重いカバン(ベリーヘビーバッグ)」を持って、ふたつの美術館館の展示室の間を運ぶというもの。
渋谷の会場で観客がカバンを動かすことで、その旅路の一環に参加できるのですね。

何かの業者のよう

展示室の壁からロープが出ています。このロープを観客が引っ張ることで、何かが起こるそう。
すでに限界まで引っ張られていたロープを穴に戻す筆者。おそらく展示室のどこかに連携した仕掛けがあって、それを作動させるとロープが簡単に戻りそうではある……。

これは別の仕掛けで、ハンドルを回すとどこかで何かが変化するとのこと。それは展示室ないかもしれないし、外かもしれない。(スタッフさんが答えを教えてくれます)

ハンドルはしっかりと手応えがあって、チキチキと大きな音がします。絶対大きめの変化が起こっているはずですが、周囲を見渡してもわかりません。
途中で横から出ている赤い糸がシュルッと引っ込みましたが、タイミングを考えると別の仕掛けのはず。

変化する場所を教えてもらって確認しにいくと、こんな大層な仕掛けを展覧会のために仕掛けたのかと驚きますが、気付かない人の方が多そうですね。


展覧会は2024年9⽉1⽇まで開催しているので、涼を求めるついでに、面白い体験をするのはいかがでしょうか?

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