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ショートシナリオ「第二江戸係」

「憎しみ」をテーマに昔試作したショートシナリオ。SFものです。最近「時間」について思索をしていて、そういえば昔からタイムトラベル系に興味があったんだなと思い出して蔵出し。
ふいに思いついた「第二江戸係」というタイトルから無理やりストーリーを発想するという珍しい趣向で書いてみたシナリオでした。いつもは苦労するのにこのシナリオはジャストアイディアでさらさらっと書いた記憶がある。
一回読んだだけで意味がわかるのだろうか。当初はあまりの出来の悪さにまったく納得できず、ゼミでも読まずにお蔵入りさせたのだった。アイディアは悪くはないと思うが、登場人物の誰にも共感できない内容になってしまったのが悔やまれる。


■登場人物
小田桐洋介(33) 出国審査官
小田桐美紀(31) 洋介の妻
坂本理緒(25) 洋介の同僚

■本文

○東京・全景
   近未来的なビル群の間を無数の飛行自動車が行きかっている。
   テロップ「二○一一年 日本」

○羽田空港・第三ターミナル・全景
   テロップ「羽田空港 第三ターミナル」
   多数の飛行船が飛び交っている。

○同・出国審査窓口
   「出国審査(Immigration)」の文字が書かれたゲート。
   旅行者たちの列。
   小田桐洋介(33)が座る窓口カウンター。
   行列の先頭の旅行者が窓口に近づき、パスポートを手渡す。
小田桐「今回ご旅行なさる目的は?」
   パスポートを確認して訊ねる小田桐。
旅行者「あ、観光です。関ヶ原の戦いの」
小田桐「すみませんが、こちらは江戸後期、
 徳川吉宗以降の時代専用となっております」
旅行者「あれ、そうなの?」
小田桐「関ヶ原の戦いでしたら、
 第一江戸係の窓口へお願いします」
   小田桐、右手を挙げて隣を指し示す。
   隣では坂本理緒(25)が応対をしている。
   胸元には「第一江戸係 坂本」の名札。
旅行者「なんだよ、紛らわしいなあ」
小田桐「申し訳ございません」
   パスポートを返して謝る小田桐。
   旅行者の後ろから小田桐美紀(31)が現れる。
   手にはキャリーバッグ。
美紀「(微笑んで)あなた、久しぶりね」
小田桐「み、美紀……どうしたの急に?」
   うろたえる小田桐。
   隣の理緒もはっとした表情。
美紀「どうしたのって、出国の審査よ」
   美紀、笑ってパスポートを差し出す。
小田桐「どこかへ行くの?」
美紀「夫の帰ってこないマンションに
 一人きりでいてもしょうがないでしょう」
小田桐「(気まずそうに)悪いと思ってる。
 でも……分かってほしいんだ」
美紀「子どもを産めない私が悪いのよ」
小田桐「違う……美紀は悪くないよ」
美紀「はい、これが欲しかったんでしょ?」
   美紀、離婚届を差し出す。
小田桐「(驚いて)美紀……」
   隣の理緒は、窓口対応をしながらも
   二人の様子をちらちら気にしている。
美紀「私のサインはしてあるから」
小田桐「本当に、いいの?」
美紀「私も悪あがきはしたくないしね」
   美紀、悲しげに苦笑い。
美紀「ほら、傷心旅行の手続きしてくれる」
小田桐「……幕末に、行くのか?」
   小田桐、パスポートを見ながら訊ねる。
美紀「前から行きたかったところだしね」
小田桐「そっか。くれぐれも気をつけて」
美紀「うん……(洋介を見つめて)洋介……」
小田桐「ん?」
美紀「(ため息)何でもない
 ……最後に洋介の顔が見れて良かった
 ……(涙ぐんで)彼女と、お幸せにね。さよなら」
小田桐「美紀、ありがとう」
   美紀、ゲートを抜けて去っていく。

○同・カフェ
   空港内のカフェ。
   銀色の給仕ロボットがホール内を動き回っている。
   ランチを取る小田桐と理緒。
理緒「はぁ〜、さっきはマジで焦ったよー」
   理緒、深くため息を吐く。
小田桐「そりゃこっちのセリフだって。
 まさか職場に乗り込んでくるなんてさ」
理緒「洋介が放置してるからだよー」
   理緒、ふくれて洋介をにらむ。
小田桐「話し合いはしてたんだよ。
 理緒こそ、嫌がってたじゃん、おれが彼女と会うの」
理緒「そりゃあ普通に嫌だよ」
小田桐「でも良かったよ。
 すんなり離婚オーケーしてくれて」
   小田桐、離婚届を見せる。
理緒「(満足そうに)うふ。私たち、やっと結婚できるの?」
小田桐「うん。ずっと待たせてごめんな」
理緒「嬉しい!」
小田桐「おれも!」
   二人、微笑む。
   ロボットが二人のグラスに水を注ぐ。
理緒「ね、新婚旅行、どうする?」
小田桐「うーん。やっぱ、鎌倉かな」
理緒「うそ。鎌倉って、弁慶とか?」
小田桐「バカ、弁慶は平安時代だよ。
 それに、おれが言ってるのは時間軸の鎌倉じゃないよ」
理緒「何? 空間軸のほう?」
小田桐「そ、江ノ電に大仏……いいだろ?」
理緒「うわーっ、センス渋すぎ」
   二人、笑い合う。
理緒「洋介、あのさー……」
   理緒、嬉しそうな顔で洋介を見る。
小田桐「ん? 何?」
理緒「やっぱ……後で話すね」
小田桐「何ー? 気になるなあ」
理緒「ふふ。仕事終わってからのお楽しみ」
   理緒、一人で楽しそうに笑う。

○同・出国審査窓口(夕)
   小田桐と理緒が窓口対応している。
   ざわめきの中、女性の悲鳴が響き渡る。
小田桐「(声の方を見て)……理緒!」
   理緒、真っ青な顔で手元を見ている。
旅行者「お、おい……あれ見ろよ」
   旅行者たちも戸惑いの表情で
   理緒の手元を覗き込んでいる。
理緒「洋介……これ、何?」
   理緒が泣きそうな顔で洋介を見る。
小田桐「どうした?」
   小田桐、理緒の元へ駆けつけ、
小田桐「え!?」
   小田桐、理緒の両手を見て絶句する。
   理緒の手首から先がなくなっている。
小田桐「お、おい、理緒! 脚!」
   小田桐が叫ぶ。
   理緒の脚先が半透明になっている。
   悲鳴を上げる理緒。
理緒「私、どうしちゃったの……?」
   後ろでけたたましい笑い声が響く。
   小田桐と理緒が振り向く。
   美紀が不敵な笑みをたたえている。
美紀「ふふ……思った通りね」
   美紀、理緒のもとへ歩み寄る。
小田桐「あの、美紀…実は、理緒とおれ…」
美紀「私が知らないとでも思った?
 (理緒に)歴史から抹殺されるってどんな気分?」
理緒「え!?」
   理緒が手足から徐々に薄くなっていく。
小田桐「抹殺? これ、美紀がやったのか?」
   小田桐が美紀に詰め寄る。
美紀「ちょっと情報提供しただけよ」
小田桐「情報提供?」
美紀「あなたのこと、調べさせてもらった」
   美紀、理緒に向かって書類をかざす。
美紀「随分筋の良い家系なのね、坂本家って。
 おかげで調査の手間が省けたわ」
理緒「み、美紀さん……私……」
美紀「私の名前を気安く呼ばないでよ」
   美紀、理緒をにらみつける。
美紀「あなたの遠い先祖にお尋ね者がいたでしょう?
 ……一八六七年一二月一○日
 ……みんな、血眼になって探してた
 ……だから私、教えてあげたの。彼の隠れ場所を」
小田桐「もしかして、そのために幕末に?」
美紀「あら、傷心旅行のついでよ」
小田桐「まさか、過去に干渉したのか?」
   小田桐が美紀につかみかかる。
小田桐「何てことを! 大変なことになるぞ!
 このままじゃ、歴史が書き換えられる」
美紀「歴史なんかどうなったって構わない」
   美紀、小田桐の手を払いのける。
美紀「こんな現実、変えてしまいたいのよ」
小田桐「み、美紀……」
美紀「坂本理緒! あなたの先祖は殺されたの。
 子孫を残す前にね。
 だから、あなたの存在はなかったことになる」
   理緒の体がほとんど消えかかっている。
美紀「ほうら、どんどん消えていく」
   美紀が楽しそうに笑う。
   小田桐、理緒を抱き寄せて、
小田桐「理緒、君の先祖って、まさか……」
理緒「私、歴史のことなんかわかんないよ」
美紀「それでよく出国審査官が務まるわねえ」
小田桐「待ってろ、今、助けるから……」
   小田桐、コンピュータに駆け寄り、
小田桐「あった……これだ!」
   小田桐、受話器を取り、悲痛な声で
小田桐「第二江戸係より緊急連絡!
 一八六七年一二月一○日午後八時頃、
 京都の近江屋で殺人事件が発生した模様。
 被害者は……坂本龍馬他数名。
 これにより歴史に大きな変動が発生する恐れがあります!」
理緒「洋介…私…お腹に赤ちゃんがいるの」
   理緒、涙ぐんで叫ぶ。
小田桐「何だって?……それって、おれの?」
理緒「ごめん、もっと早く言えばよかった
 ……洋介……私と赤ちゃん、どうなるのかな?」
小田桐「おれが、おれが何とかするから……」
   小田桐、理緒に手を伸ばす。
   理緒が消えて見えなくなる。
   小田桐の手が空を切る。
   小田桐、膝から崩れ落ち、うめき声を上げる。
小田桐「理緒が……おれの……子どもが……」
美紀「残念。父親になりそこねたわね」
   美紀が高らかに笑う。
   小田桐、美紀につかみかかる。
   地面が大きく揺れ始める。
   光が全体を包み込み、ホワイトアウト。

○東京・全景(夕)
   近未来的なビル群が消え失せ、
   見慣れた現在の東京の風景が映し出される。


■まとめ
・初のSFに挑戦。時代物も少し入れてみた。
・タイトルから無理やりストーリーを構築。
・坂本龍馬が暗殺されなかったら日本は今より発展しているかもしれない、
 という発想からスタート。
・独りよがりで観客置いてけぼり。
・美紀を主人公にして憎しみを描いた方が良かったか?
・坂本龍馬の縁者の方、不快なを思いをさせてしまったらすみません。

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