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~読むアロマ~「クララとお日さま」カズオ・イシグロ

物語の世界観を香り(精油)で表現する「読むアロマ」。「読むアロマ」は、思わず手に取ってしまう美しい装丁のように、イメージを香りでデザインしたもの。物語と、精油が持つ香りや働き、様々なエピソードをつなげて、オリジナルのアロマブレンドを作ります。

新旧、ジャンル問わず、好きな物語、気になる話をランダムにピックアップして、作った香りのご紹介です。


クララ読むアロマ写真

    (クララとお日さま/カズオ・イシグロ著/早川書房))


この作品を読んでとにかく感じたことは、

「無償の愛と不協和音」

それを「クララとお日さま」の香りのテーマにしたいと思いました。

人工知能を搭載したAF(人工親友)のクララは、親友ジョジーがさびしい思いをしないよう、ただそれだけを使命として全力で勤めを果たそうとします。

細やかな感情の機微を読みとり、ジョジーやその周りにいる人々をつぶさに観察し、最善は何かをつねに考えて、そして行動する。

それは、「自分自身をを犠牲にし、ジョジーを最優先にすることで、自分の存在を担保する」ような生半可で上っ面のものではなく、正真正銘の、1ミリの迷いのないクララの願い。

そんな風にいられるのは、そうプログラミングされたロボットだから?

ロボットだから可能と思えるその無欲な姿が際立つのは、ジョジーを含め、人間たちがそれはそれは「自我」にまみれているから。

「あなたのために」という言葉の、なんと罪深いこと。


物語は、クララの目を通して語られるので、視覚情報は多量に細かく描写される一方で、人々が置かれている状況や理由といった説明は空白が多く、どこか居心地の悪さを感じさせます。

その不安定な感覚は、「AFを作り出し、利用し、廃棄する」私たちの未来、そう遠くないかもしれない未来の予感をはらんでいて、背中をスッと鋭利な刃物でなぞられたよう。

だって、言葉を話し、感情を理解する「クララ」を廃品置き場にあっさりと送ることができるものなの?人間って、そういうものなの??


だからでしょうか。お日さまからエネルギーをもらい、畏敬の念を抱いているクララの姿は、人間よりも植物に近い存在のような気がします。

そう思って表紙をみたら、クララも草花と一緒に大地とつながっていました。

人間は、自然界のどんなものよりも立場が上で、自然は利用し、支配するものという考え方が今の世界を作ったとしたならば、もうそろそろ、本気で目を覚まさないといけない。

不協和音の正体は「わたしたち」

連中がやることをやり、言うことを言うと、そのたびに、この世でいちばん大切にしているものが自分の中から奪われていく気がする

ジョジーの父親が、クララに心のなかの恐れを打ちあけた時の言葉です。

私たちは、感情という、複雑でやっかいな、でもだからこそ、世界を「特別」と感じられる“機能”を搭載しているのだから、それを光で満たしてあげたいと思いました。


<読むアロマ「クララとお日さま」ブレンド>

・ベルガモット
・オレンジスイート
・シナモン
・カモミールローマン
・バジル
・ネロリ
・サンダルウッド

ベルガモットは大人じゃない、でももう子供でもない物語の中心であるジョジーとその親友クララ。
お日さまとかさねたオレンジスイートとともに、その温かさ、光模様をシトラスの香りが誘います。

カモミールローマンは、献身的な愛を。周囲の植物の病気を治すことから“植物のお医者さん”と呼ばれていますが、逆境に負けない強さも秘めています。

カモミールローマンとともに主題をになうのは、ネロリ。孤独、寂しさを癒し、魂をなぐさめる精油。

バジルはクララの知性を。観察し察知する能力は、外にむかって拡げた葉のよう。そして、光を受け取る場所でもあります。

ベースをささえるサンダルウッドは、周囲の木に寄生して育つ半寄生性をもつ植物。居場所、サポートを意味するもの。

そして、ほんの少しのシナモンは、「目を覚ませ」の合図。
安らぎ、癒し、安心のなかにそっとしのばせた目印です。


私たちの孤独を癒し、人間もこの世界の住人のひとりだということをもう一度思い出せますように。

そんな思いを込めたブレンドになりました。


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