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いなくなった人は最初からいなかったことにする世界

児童精神科病棟、児相の一時保護所、施設など本来いない方がいい場所を転々としているが、どこも揃って”いなくなった人の話をしてはいけない”という暗黙の了解があった。

病院では退院した人の話、保護所では退所した人の話を残された人間たちとしていると大人に怒られた。"残らなければいけない人たちでそんな話をすると羨ましくなるから"という理由らしいが、私にはその理由は建前で、本当は"その人がここで生きた証"を消したいのではないかと感じられた。

今いる施設ではそれがもっと露骨だった。
1人、無断外泊をして警察に保護はされたらしいがそのまま帰ってこなかった子がいた。Mちゃんとしよう。
私がいる施設は治安が悪いので警察が来るのは日常茶飯事で、無断外泊したまま施設に帰って来ない人は多い。それぞれが保護所に戻されて自立にでも行くのか、住所不定で歌舞伎町にでも住んでるのかまではわからないが…。
Mちゃんはコンビニで働いていた。Mちゃんが帰って来なくなってからしばらく経ったある日、そのコンビニの割引クーポンが新聞に挟まっていた。
Mちゃんが働いてたコンビニだなあとは思いつつ、なんとなく職員に「これどこの店舗のですか〜?」と聞いてみた。試し行為だ。
病院と保護所の経験から、「Mちゃんが働いてたところのだよ」と言って欲しかった。でも、職員から帰ってきた言葉は「○丁目のイートインあるとこ」だった。
ああ、Mちゃんがここで生きた証も消えてしまった。たしかにMちゃんは悪い退所の仕方をしてしまったから1人の子供を救えなかった施設にとっても黒歴史で仕方ないのかもしれない。でも…

こうやってこうやって、みんなの生きた証が消えてしまう。
私が病院で生きていた証も保護所で生きていた証ももう消されてしまった。
いつかここで生きていた証も消されてしまうのかな

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