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『ラークシャサの家系』最終話

◇「Just accident」

 その後、オレたちは、アチュートたちと、再度一戦交えることはなかった。向こうも、それを望んでいないようだった。少し拍子抜けしたような感じだが、こんな結末が、最も平和的解決なのかもしれない。

「メツキ、とりあえず俺たちはここから消える。七瀬やキダに知られた以上、この上野村に残ることは得策ではない。」
「勝手にしなさい。いずれ何かの会議で、また顔を合わせることになるのでしょ? それまで楽しみにしているわ。恵子も元気にね。それじゃ私はここで・・・ごきげんよう。」

”ヒューン・・・・・・・バラバラバラバラバラバラ・・・・・・”

 ずいぶんとあっさり帰ってしまった。メツキの乗った戦闘ヘリのヴァイパーは、あっという間に、満天の星空に消えていった。

 気づいたら、いつの間にか、恵子と2匹のアチュートの姿も見えなくなっていた。

”七瀬氏、キダ氏 井村氏 我々もそろそろお暇とさせていただく では!”
”バイバイー”
”おつかれ・・・”
”それでは、みなさん ご苦労様でした”

なんだかweb会議が終わった時みたいだな・・・


 先ほどまでの騒がしさが嘘のようだ。
 澄み切った夜空には星がきらめき、懐かしくも悲しげな虫たちの声が静かに響き渡る。

「ところで、キダ。あの男たちは、なぜ、山崎を成敗?に来たのか教えてくれないか。」
「あぁ・・・そのことね。おまえたち、以前に浦和でトレーナーを獲らなかったか? なんとか坂46っていう、地元のアイドルグループのコンサートで。」
「?・・・はっきりとは覚えてないな。」
「山崎正が、相当ご執心だったようだ。ファンから奪ったトレーナーは、この世に一枚しかないもので、ファンにとっては、とても貴重なトレーナーだったらしい。トレーナーを獲られた若者たちは、お前の名前は知らなかったようだが、それよりも、山崎正からは、この件に限らず、以前から色々と嫌がらせを受けていたらしい。それで、あの復讐サイトのオニベンジャーに成敗の依頼を送って・・・その依頼を受けたオニベンジャーを名乗る6人、リーダーは小久保って言うんだが、そいつらが、偶然、お前が居る時の山崎正のアパートへ来たようだ。」
「そうか・・・偶然か・・・」
「逆に聞きたいのだが、日航機の墜落は・・・」
「あれは不幸な事故だ。それ以上でも以下でもない。123便に偶然乗り合わせた母と妹、墜落現場に偶然居合わせた2匹のアチュート。そして母とアチュートが偶然戦闘状態になって、いち早く現場に駆け付けた米軍が、偶然それに巻き込まれた。色々と憶測が飛び交っているが、全て偶然だ。」
「そうか・・・じゃもう一ついいか?」
「あぁ。」
「アチュートは、もともとお前たちの仲間だったのか?」
「いや。たまたま墜落現場にいた野良のアチュートだ。昔から、この上野村の山奥に住んでいて、村人の守り神として崇められていたようだ。墜落でケガをしたアキコの、”助けて欲しい”という強い気持ちが、念となって奴らに届き、奴らはそれに応じただけらしい。どうもその時から、アキコは、あのアチュートを思い通りに動かせられるようになったようだ。」
「なるほど・・・」
「もいいだろう。そろそろ俺は行くよ。妹・・・明子をよろしく。またどこかで、お前とは会うことになるのだろうな・・・」
 山野は、七瀬と井村明子に軽く手を挙げて挨拶をした。そして来るときに乗ってきた白のバンには乗らず、そのまま漆黒の森の中へ消えていった。

 その後、帰りの車中、七瀬、井村明子、アーク、オレで他愛のない反省会をしたが、その内容はよく覚えていない。メツキが拵えた半鬼、つまり井村明子の兄妹は、いったい何人いるのか?とか、バラモンはどうやって自分の遺伝子から選択的に能力を継承させるのか?とか・・・疑問はたくさんあるが、これも今はいいか・・・



 あれから数日が経った。結局、あの2匹のアチュートに対するお咎めは無しとなった。政府としては、起きてしまった事実よりも、その中身を取ったようだ。素行の悪い人間と半鬼よりも、知力向上の実験中で、将来、人間との共生が期待されるアチュートの命を取ったらしい。
 そのお礼かどうかは知らないが、墜落直後から行方が分からなくなっていた日航機の垂直尾翼が、今朝がた、上野村の慰霊の園にあるモニュメントに、そっと立て掛けてあったらしい。戻ってきた垂直尾翼は、36年前のものとは思えないほど綺麗で、とても大切にされていたようだったらしい・・・

おわり


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◇あとがき+作者紹介

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