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同級生

喫茶店で今度、仕事で新しく使おうと思っている脳機能検査法の論文と大格闘をしていると、携帯電話が鳴った。高校時代の同級生S君が営んでいる居酒屋からだった。


なんだろう?と思いつつ電話に出ると、「同級生Tが今店に飲みに来ているので、お前もこい」というものだった。T君とは確かに同じクラスだったが、高校時代あまり話したこともなく、ああ、いたなぁ。そんなやつ。という程度のものだ。多分、向こうもそうだろう。


しかし、相手(T君)はかなり酔いが回っている様子。電話越しでもわかるほどだった。これは行った方がいいものか?行かざるべきか?

しかし・・・・。このT君2週間前にもS君の店で飲んでいて、私に電話をかけてきている。その時は少し用事があったので、丁重にお断りした。という経緯がある。しかも今日は、忙しいといっても少しの時間、飲みに行くぐらい行けないこともない。


ん~~~。悩ましい。


まぁ、二回も誘ってくれたわけだし。ということで、義理と人情に篤い私は、高校の同級生T君に30年ぶりに会うべく、S君の経営する居酒屋へと向かったのだった。


店に着くとお客さんが大勢入っていて、まさに大盛況中だった。「おう」とS君とT君に軽く挨拶してカウンターで飲んでいたT君の横に座った。とりあえずビールを頼み乾杯。


S君は大忙しで走り回っていた。T君は忙しく走り回るS君に話しかけまくっている。生返事を繰り返しT君の会話をいなしながら仕事にいそしむS君。


あ~。なるほど。ポン。


S君が仕事中に話しかけまくってくる酔っ払い(T君)の相手がうっとうしくて私に白羽の矢が立ち、S君から電話がかかってきたのだと、すぐさま理解した。


T君はかなりお酒が入っているようで、上機嫌この上ない状態だった。


「Aちゃん(私のこと)久しぶりやな」


から始まって、近況伝達を互いにしあう。まぁ、ここまでは普通の流れ。


それからが、少し変わっていた。


「Aちゃん。高校の時俺とあんまりしゃべったことないよな」


とT君が切り出し。

それから、延々


「高校のやつらと俺、あんまり話したことないし多分嫌われてるやろうから、別にええねんけどな」


と、突然ヤサグレ始めた。


「そんなことないやろ。S君と仲良しやんけ。それに俺も嫌やったら今日来てへんで」


と、大人な対応をする私の言葉を聞いているのかいないのかT君のヤサグレ会話が止まらない。


「俺は高校のやつらなんかどうでもええねん。あんなアホ高校のやつらどうでもええねん」


「Aちゃんもアホやったもんなぁ」


終始こんな具合。確かに高校時代アホやったのは自覚しているが、他人に言われるとちょっともやっとする(笑)


エライ言われようだ。そのアホアホ高校にあなたもいたのだよ。と思いつつ。私は、静かにビールをちびりと啜っていた。


「高校時代俺は孤独だった」とか、「高校には無心で勉強だけしに行っていたので、友達を作る気もなかった。」と、なんだか、よくわからない展開になってきた。


やっぱりこなきゃよかったと、後悔の念が押し寄せる。後悔先に立たず!!

今日は致し方あるまい。うん。うん。と静かにT君の会話に耳を傾ける。


「俺の会社は年商10億円なんだ」「1億は手元に残るのだ!!」


と、剛毅な話にT君の会話は進んでいった。


「凄いね~」と、私が感心していると


「こいつ、リーマンショックで全財産無くなってもうて、会社潰しよってん」


と、少し手の空いたS君が話に割って入ってきた。


T君はいち度倒産した会社をもう一度再生させて、今の地位があるのだという。


なかなかの頑張り屋さんじゃないか。


しかし、高校時代の同級生の誰誰が嫌いだった。とか、話もしたことが無い。あんな奴らに会いたくもない。と、要所要所で、高校のディスリが入るのだった。


返すがえす、疑問が残る。どうして、私を呼んだのだ?


はたまた、T君はとても学歴重視な意見の持ち主で、「東大」教の信者だった。「東大は凄い」「東大以外のやつらはクズだ」と終始、教祖様を立て祀るが如く、「東大」「東大」と繰り返していた。


ちなみにT君は慶応ボーイだ。

東大と言えば、演劇界の重鎮野田マップ野田 秀樹。東大の俳優と言えば、白鶴まる!矢崎滋。東大が生んだ偉大な作家。私の敬愛する畑 正憲先生。
みんな、みんな東大だ。有名人だらけです。


確かにT君の言うように「東大」は凄いとは思うが、私自身はあまり、学歴にこだわりなく生きてきたので、正直よくわからない。


「大学卒が偉い」とか「大学も出てないような奴らは人間じゃない」と言われてもピンとこない。


大学に行ってなくても、一部上場企業の社長をしておられる人もいるし、家庭の事情で教育水準が低く、文字が読めない人で立派に子供を何人も育てている人だって沢山いる。70歳近くになってから、「文字を習いたい!」といって、小学生の漢字ドリルを頑張ってしている人のことを私は心の底から凄い。と思う。(ちなみにその方は文字の読み書きはできないが、仕事が評価されて時の総理大臣から表彰を受けている凄い人)私にはT君の価値観がちょっと理解できないでいた。


医療職を長年やってきているので、医師であれ看護師であれ我々理学療法士であれ卒業後免許を取ってから、どれだけ、自分の腕を上げるように勉強し研鑽を積むかが、大事な世界。出身校の偏差値なんて考えたこともなかった。私自身が世間一般とずれがあるのだろうか?


まぁ、そういう考え方の人もいるのか~。と、考えさせらる1日だった。


彼が頑張って大学に入ったことや何度も挫折しながら、何億ものお金を稼げる企業を作り出したことも、すべて本当に凄いことだと思う。彼(T君)の努力の結果だと思う。彼の価値観は彼の成功体験からくるものだから、決して間違っていないのだろう。もしかしたら、世間的には大成功を収めている彼が言っていることは、すこぶる正しいのかもしれない。


でも、もう次からは、T君のお誘いは・・・・わたし的にはないかな?でも、違う価値観の人の意見をきくことも大事だと思うし、次誘われたときどうしようかな。でも、T君には申し訳ないが、あんな飲み会だったら、論文の一つでも多く読んでいた方が、患者さんのためになる。私の人生においてはそっちの方が大事。・・・でもなぁ。秀吉と利休の例もあるしな~。どうしようかな。ん~。悩ましい。まぁ。そん時の気分ってことで(笑)


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