ショートショート『残り物と最後の一つ』
今日は初めての結婚記念日。
こんな日でも定時に仕事を終えられず、クタクタになりながら帰路につく。
毎日帰宅が遅いもんだから、一緒に夜ご飯を食べることもあまりできない。
そんなたくやに対してあかりはいつも、
「お帰りなさい!」
と笑顔で迎えてくれるのだ。
あかりはとても気が利いて、綺麗で、それでいてちょっと抜けている可愛い女性。
対してたくやは超がつくほど普通で、あかりは自分のどこを好きになってくれたのだろう?と事あるごとに思っていた。
すっかりプレゼントを買い忘れていたたくやは駅前の商業ビルへと足早に向かった。
「何か良さそうなものはないか・・・」
すると、普段はあまり気にかけたことがなかった花屋の前で立ち止まった。
『女子=花』
疲れきった頭からはそんなベタベタな発想しか思いつかなかった。
「すいません。プレゼント用の花を探しているんですけど」
「いらっしゃいませ。今日はもうこのお花しか残っていなくて・・・」
そこには赤と白のチューリップがちょうど1束分ほど残っていた。
花に詳しいわけでもないたくやからすると、チューリップが良いチョイスなのかもわからなかったし、こんな時間だしそりゃそうか、とも思った。
「それじゃあ、これください」
店を出るとたくやは、
「・・・そういえば、こういう時ってバラじゃない?」
と自問自答しながら歩き始めた。
次第に、なんでチューリップなのかを聞かれたらどうしようという焦りと、そもそも初めての結婚記念日になんで残業しているんだという悲しさで、玄関につく頃には自分でもよく分からないそわそわした気持ちになっていた。
「ただいまー」
おそるおそるドアを開けると、
「お帰りなさい!どうしたの?このお花?」
「今日、結婚記念日だから。あかりにプレゼント」
「ありがとう!!!」
「じゃーん!みて!私も夜ご飯作ったの!」
そこにはいつもより豪華な手料理が並んでいた。
「うまそう!」
そわそわが段々と嬉しさに変わり、なんだかおなかも減ってきた。
喜ぶ顔をみれてよかったと思いながら、上手に包まれたオムライスを食べていると、
「こんな時間でもお花屋さんやってたの?」
「うん。閉店間際でもう残っている分しかなくて」
「そうなんだ」
タクヤはスプーンの手を止め、ハッ!と思った。
(しまった!気が緩んで、完全に余計なこと言っちゃったよ)
ゆっくりと皿からあかりの顔に目を向けると、
「最後の一つだったんだね!ラッキーだ!」
「チューリップってなんだか、たくやっぽいよね!」
「そう?」
(なぜプレゼントした側の俺に似合うみたいな言い方なんだ?いや、むしろイジられている?)
たくやは、こういうとこあるよな、とあかりに気づかれないよう笑っていた。
ご飯を食べ終わったあと、あかりはニコニコしながら花瓶にチューリップを飾り、写真を撮っていた。
翌日、同僚と昼ご飯を食べながら、あかりのインスタを見ると昨日のチューリップの写真がアップされていた。
「何?結婚記念日だったの?」
「うん。この写真の花あげたんだけど、喜んでくれたみたいで」
「偉いじゃん。うちは結婚記念日も、誕生日も、特に何もあげないからな〜」
「へぇ〜、そういうところもあるんだ」
よく見ると、インスタには喜びを綴った文章とハッシュタグが載っていた。
#最後の一つをゲット
#ありがとう
#チューリップ
#花言葉
「花言葉?なんだろ?」
しばらくスマホを眺めたたくやは
「そっちだよ」
と微笑んでいた。
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※ショートショート執筆挑戦中
読んで下さってありがとうございます!
ちなみにチューリップの花言葉は「思いやり」です。
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