40代にしか分からない、静かな寂しさと幸せが全て詰め込まれた「After Life」
2020年5月18日(月)
【Day 60】
最近、日々の英語の勉強の一環に選んでいたNetflixのドラマが「After Life」だ。イギリスが舞台ということで、オージーイングリッシュに近いかもなと思い、何気なく見始めたのだが……
これが、静かな寂しさと静かな幸せを全てそこに詰め込んだような名作だった。
しかもその静けさの中にある感情は、きっと40代にしか理解できないんじゃなかろうかと思う。
主人公は、最愛の妻をガンで亡くした、フリーペーパー「タンベリー・ガゼット」編集長のトニー。妻の死から時間が経ってもそれを乗り越えられない男は、彼を取り巻く全ての人に毒舌を吐きまくる。
同僚や、義理の弟でもある上司、老人ホームに入所している父親の世話をする看護師、郵便配達員、カウンセラー、取材対象者、カフェの店員——
その姿が、すでに途方もなく寂しい。そしてわかりやすく、本来の彼はいいヤツだ。
妻への愛が深すぎて全く前に進めない。その寂しさに押し潰されそうになる自分を、嫌味と皮肉と屁理屈で必死に支えている。同僚からの同情も、受け入れたら最後、崩れてしまうのを知っているから、ひたすら突き放し、毒舌を吐く。
そして、彼を取り巻く登場人物もまた、ことごとく寂しい。大成せず、輝きもせず、それでも日常を続け、その中でささやかな幸せを見つける人もいる。見つけられない人もいる。
主人公を演じたのがコメディアンということもあり、台詞回しは軽妙で、ひっきりなしにジョークが飛び交っているのだが、画面からは常に静かな寂しさが滲み出ている。
大きなアップダウンはほとんどなく、その静かな寂しさと静かな幸せを描くだけのドラマだ。
けれども、シーズン2(シーズン1よりもトニーは善人になっている)を観ているときの僕は、決して号泣はしないけれども、常に目が潤んでいたように思う。トニーや登場人物が内包する寂しさも幸せも、身につまされるからだろう。
各エピソードのエンディング前に、必ずトニーは妻の生前に撮り貯めたビデオを観ながら呑んだくれて女々しい姿を晒す。
妻の死の直前に放たれたトニーの“Also...you’ve never looked so beautiful” という台詞は、ドラマを通じて最も印象的だった。
妻、家族、健康、自分の居場所、本当に大切なもの。死。若くはなく、明日は我が身。登場人物を自分の知っている人間に置き換えて想像したとき、胸が締め付けられる。
トニーを演じたリッキー・ジャーヴェイスの熱演と、挿入のタイミングが絶妙すぎる名曲の数々も含めて、もしあなたが40代(あるいは50代前半)なら、絶対に観ておくべき作品だ。1話30分、2シーズン合計で12話という、サクッと観られるボリュームもちょうどいい。
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