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一緒にいてくれてありがとうって言ってくれない世界なんて

ありんごです

8年ほど前の夏、河川敷でBBQをした

ギラギラ太陽照りつける日だった

サングラスなしでは周りが白く飛んで見えるほど眩しかった

「お待たせ!」

白いワンピースでその日が誕生日の紗南がやってきた

その日は予備校の仲間でBBQ、遅れて到着する紗南の誕生日をサプライズでお祝いする段取りだった

だから肉!!!野菜!!!焼きそば!!!というラインナップで埋め尽くされているように見えて、ひっそりと隠されたクーラーボックスにはケーキだって入っていた

段取り通りケーキが取り出されて近づいていくけれど、風に煽られた長い黒髪を顔から払っている紗南は気づいていない様子だった

「野中!お誕生日おめでとう!!!」

予備校仲間はみんな互いに苗字呼び、というわけでもなかったが紗南はとっても可愛いのに仲間内では苗字で呼ばれていたサバサバガールだった

「わーーーありがとう!!!!」

どうにかかき分けた髪の先に「紗南ちゃんお誕生日おめでとう」のプレートを認めて紗南はふわっと笑った

プレートは下の名前なんだなと私は側からみて面白く思っていた

真顔も美人だけど笑うとさらに可愛い紗南のこと、怒ると怖かったり、なんだかんだ毒舌な紗南のこと、誰もが好きだった

紗南は同じ予備校で知り合った太郎くんと付き合い始めて半年ほど経っていて、BBQにも太郎くんは先に参加してサプライズする側に加わっていた

爽やかな美男美女カップルで、みんなにけしかけられて太郎くんがケーキを紗南に食べさせようとする様子も、微笑ましかった

紗南は基本的にツンツンだから、相変わらずサバサバと太郎くんに対応していて面白い

サプライズが一段落すると、みんなはBBQでの飲食に再度集中を始めた

予備校ではかなり仲良くしてもらっていたものの、高校卒業以来紗南と会っていなかった私は、久しぶりの再会で話に花を咲かせた

今日は紗南と当時から一番仲良かった美月も来ていたので、予備校時代同様、2人のところに自分のタイミングで私が入って気ままに話していた

「りんご浮いた話ないのー?本当にー?」

紗南がまつ毛の長い目を細める。女子あるあるの恋バナってやつだ。私はやれやれと首を横に振って、真実を述べている旨を再度示した

「野中と太郎くんに憧れちゃうよねえ」

美月が悪戯っぽい顔で言い出した

「澤田ほんとに思ってるー?」

紗南ちゃんが美月を見やると

「野中と違って私は別れてずいぶん経ちますよー良いなあ野中は!」

と美月が舌を出す

「澤田ったら、だいぶ二郎のこと吹っ切れてるくせに、私に当たり強いんだよなあ」

紗南は口を尖らせる

「吹っ切れたけれど、野中と太郎くんがラブラブなのを見ると!率直に羨ましい!です!お肉食べる!」

美月はケラケラだと笑ってお肉ゾーンへ飛び立っていった

「美月、やっぱりいいね」

私が思わず笑顔になると、紗南は口を尖らせたまま、

「澤田のやつ色気より食い気だな。別に私たちラブラブじゃないんだけどなー」

と真顔になった

「え、すごい楽しそうに話してて、2人のいるところだけ明るく見えたから、そういうのラブラブって解釈してた!」

私が言うと、

「りんご、甘いよ。喧嘩ばっかりよ」

と返ってきた

「またまたー非リアに気を使ってるんでしょ。そういうところ好きよ」

「ちがうって。そんなに良いもんじゃないよ」

「ツンデレカップルに見えて、2人きりだと一緒にいてくれてありがとうとか言い合ってるんでしょ?良いなあー私が紗南と一緒にいたら事あるごとに言っちゃうなあ」

わたしが笑って紗南を見やると、紗南が一瞬目を見張った

「なにそれ、りんごそんなこと言ってくれるの」

「言うよー。一緒にいてくれてありがとうでしょ。言い合いたいし大切にしたいじゃない」

「良いなあ」

何への良いなあだ?と思ったけれど、紗南はそのままもう一度

「良いなあそういうの。言って欲しいなあ」

と噛み締めるように言った

そんなシリアスに良いなあなんて言われると思わなかった私は

「ええ?!紗南相手に一緒にいてくれてありがとう言わないなんてなんてもったいない!むしろ私が言うー」

と本気で力説した

紗南は少し俯いて、それから顔を上げた

「一緒にいてくれてありがとうなんて言ってくれる人、いないよ」

私を真っ直ぐに見つめた後、視線は滑っていってちらりとこんなTシャツを着た太郎くんをとらえ、憂いを帯びた眼差しは川面へ向かっていった

「私、そう言ってくれる人じゃなきゃ嫌ーー」

私が思わず口に出すと紗南は切なげに笑って

「そうだよね」

と言った

「うんーー」

なんだか胸がギュッとなって私は少し俯いた

私たちは多分、ふたりで少しでも佇みたかった

でも、

「野中!太郎のところ来いよ」

誰かに呼びかけられて、紗南は立ち上がる

白いワンピースがはためく

歩き出そうとして立ち止まった紗南が何か言いたげに私を振り返る

「野中!」

もう一度呼ばれてしまって紗南は小さな声でこう言った

「また話したい」

私は答えた

「喜んで」

紗南に向かい風が吹く

私は咄嗟に髪を押さえながら、青と白のコントラストを眺める

私は、一緒にいてくれてありがとうって言ってくれない世界なんて、要らないの


ありんご








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