【後編】俳優・松尾彩加(となりの芝)インタビュー「結果的に間違ってなかった」
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生身の私だったらやっぱり自信ないかなって思う
男女関係なく好かれたいんだけど、女の子に好きって言ってもらえるの嬉しいなと思う。結構私なんだろう、女の子ウケいいとうれしいと思うから。そう、やっぱ女の子に好かれる女の子になりたいから!別にイケメンキャラでもないしさ、女の子が憧れる女の子っていうわけではないんだろうなって思うけど。
―いや私女の子達があやかしのこと好きになるのわかるよ。
自分の事おじさんだと思ってるから、なんで?って思うけど。
―今もちろん美しさ可愛さに磨きがかかってるけど、でも最初から、出会った19とか20歳の頃からずっと可愛いから。
いやいや今もう見たくない!昔の写真。闇に葬り去りたい!笑 なんか元々自己肯定って言うか、自分が嫌いなのが根底にあるから。自分の容姿も嫌いだし、あれこれ嫌いなんだけど。元々自分に自信がないから。だけど日芸賞受賞した役者さんが大学にいらっしゃってお会いできた時に「お前自信はあるのか」って聞かれて、「いや、ないです!」って言ったら、「自信ないなら役者やめちまえ!」って言われて「あります!!あります!!」って言い直して。笑 それからは人前に立ってる時はお金もいただいてるし、自信はあるって言えるようにしてる。でも根底の自分、役も何もない自分、生身の私だったらやっぱり自信ないかなって思う。
―私すごい印象に残ってるのが、結構前に私が深夜に「健やかな家庭に生まれ育った人には一生勝てない気がする。」みたいなことを呟いた時にあやかしが反応してくれたことで。「あやかしもその気持ちが分かる側の人なんだ」って。
そうだね。だって生まれた時から自己肯定力が強かったらそれだけで最強じゃん。
―わかる。
色んな考え方とかもさ。きっと色んなことをポジティブに受け取れるし、言葉一つ、普通に言われた褒め言葉でも、自己肯定力が高い人はそれを素直に受け取れるのかもしれないけど、こっちは「いやでも実はこういう風に思ってて気遣ってのこうなんじゃないか」と素直に受け止められなかったりとか、「むしろ今の褒め言葉って私ができてないから敢えてそう言ったのかな?」とか気になっちゃうし。やっぱ性格って環境によって作られていくなって思うから。
うちも母子家庭だった時期もあるし、おばあちゃんに育てられた時期もあったりとかしたけど、もはや悲観もしてない。何不自由なく健やかに育った子に対しては、自己肯定感がちゃんとあって順風満帆な感じなんだろうなと思ってしまう一方で、こっちにはわからない何か苦労もあったのかもしれないし。それでもその子達がお金を払ってでも経験できないようなことはこっちも経験してるから。と思うと逆にそれは強みかなって思う。だからまあいっかって。苦労は金を払ってでもしろって言うから!笑
―そうね、そうね。
ポジティブに受け取るしかない。でもなんか結果的に良かったかなって。笑 なんか私「結果的に良かったかな」っていうことにしかならなくて。
―それもすごいいいなと思う。
おばあちゃんに育てられる機会があったのも、おばあちゃん達とも過ごす機会が出来たっていうのも良かったし、すごいいまだに「考え方古風だね」ってめっちゃ言われるけど、それゆえに「お育ちがいいね」って言われたりもするし。それもおばあちゃんがしつけてくれたからかなとか思えたり。春に菜の花摘みに行っておひたしにしたりさ。
―いいね。
雑草摘んで草かんむり作ったり。田舎だったから。家から小学校まで3キロとかだし、小1の頃身長順で一番前だったの。
―3キロ歩くの大変じゃん。
その身長の小ささで、大きいランドセル背負って3キロ歩いてたから根性を育てられ。しかもいじめっ子に体ちっちゃいからやっぱりいじめられて。ガキ大将みたいなのいるじゃん。その子に田んぼに落とされて。泥沼から足が抜けなくなって。でもやっぱ都会に住んでるお金持ちの子には分からない経験だからいいかなって。いつか芝居で役に立つかもしれないし。
―やっぱそれがいいよね俳優というか、表現をする人は。
生かされると言うか。
―「この感情何かに使えるかも」ってなるからね。
なんか、ね。ケチ!笑 「今の感情は取っておこう!」みたいな。転んでもただでは起き上がらないじゃないけど、泣いている時とかも冷静に「今どこでどんな風に呼吸してるんだろう」とか「どういう呼吸の乱れで、どう泣いてるんだろう」みたいな分析をし始めちゃう。「こんな感じか~」って冷静に判断して、「これは引き出しにしまっておこう」みたいな。だから楽しいのかも人生が。笑
―大事なことだよね。私は昔から結構ずっとあやかしのことが好きなんだけど、なんかやっぱ今のあやかしのことがやっぱ一番好きで。もちろん昔も昔で好きだったけど、前はもうちょっとなんか自分の弱さとかコンプレックスとかを「なかったことにする」方向で強く居ようとする、みたいなイメージだったんだけど、今はそうじゃなくて、それらを受け入れたり飲み込んだり自分なりの解釈を重ねて折り合いをつけて行った上で初めて手に入れる強さみたいなものを感じて。
何か開き直ったのかも。確かにね。自分がこうなのももう私も歳だし折り合い付けておこうって。昔は気にしてた部分ももどうでもよくなってきて「まいっか」って。
―今のそのコンプレックスとの向き合い方が素敵だなって思う。そういう風に心境が変わる転機とかきっかけみたいなことって何かあったりする?なんとなく気づいてたらそうなっていった?
さっき話した日芸賞での役者さんとの「自信あるのか?」って言う会話だったり…。あと大学卒業してから1年間ぐらいとある劇団の舞台に出ていた時に、そこの演出家の方がめっちゃ厳しくて。本当ボロクソ言われたけど、そこで打たれ強くなったかな。めっちゃトレーニングみたいなレベルの稽古だった。「お客さん呼べない役者は舞台に立つ資格がない」とか言われたり。理不尽な事言われる時もあるけど、「それもまあ一理あるな」とか、「それはその通りだな言い方はアレだけど」とか、そういうのが結構あって。やっぱそこで「心がついていけない」っていなくなる役者も結構いたけど「これは言ってることは間違ってない」みたいな選別が私は自分でできるようになってきて。「この言葉は心にしまっておこう」とか、「これはいいこと聞いたなー」って思えることはどんどん吸収していって。
―じゃあそこでの経験がやっぱり大きかった?
この1年間は確かに大きかった。稽古!本番!稽古!本番!みたいな感じで、9作品ぐらい連続でずっとやっててハードだった。あの頃お金全然なかったかも。笑 働く暇がなかった。
―そうだねそれだけ続くとね。
そうそう。その時はまあでも実家に住んでたし、死にはしなかったけど。だからそこで打たれ強くなったかも。
―やっぱり社会に出ると揉まれるってことだよね。
揉まれる~。でも今の子って…って言うといババアみたいな言い方になるけど!笑 若い子とか見てても思うけど、若い子もしがみつく子はすごいしがみついたりしてるけど、なんか「ちょっと合わないな」ってなるとそこでふっていなくなる子もいるから。例えばバイトとかも私飛んで辞めちゃう人の感覚わかんない。なんでちゃんと辞めないんだろうみたいな。一週間とかで飛ぶ人とかもうわけがわからない。
―ああ、いるよね。
私はとことん話し合わないと気が済まないタイプかもしれない。「こっちはこう思ってるけど、じゃああなたはそれに対してどう思いますか」みたいな。話した末に「根本的に考え方違いますね。じゃあもういいです」ってなることはあるけど。だからそれも負けず嫌いってことなのかな?しがみついてる。
―でもそういうやな人というか、厳しいことをたくさん言う人がいて、そういう人たちに対してどう向き合ってきたかってすごく人間性に出る気がしてる。いつも逃げてきた人って、話してても「この人すぐ逃げる人だな」ってわかっちゃうじゃん。
舞台では演出家のダメ出しが絶対だし、その演出家から何も言われなくなった時って諦められてしまった時だなと思うから。根性ないとやってらんないよねこんなこと。
だから役者は合ってるんだと思う
ーあとあやかしのすごいなと思うところはさ、私だったら月に一回だけ行く現場とかすごい所在なさげにしちゃうと思うんけど、あやかしは「いやいつもここで働いてますよ!」っていう空気を出して堂々とできるのが、能力というか技術というかを感じて、すごい。堂々とするって仕事する上で一番大事なことだと思うから。
最初の頃に少ない回数しか入ってないとちっちゃくなるけどね。心許せる人が1人でも2人でもできるとやっぱ違うかなって。
―じゃあ別にそこはすごい意識してそういう風に振る舞ってるっていうわけではない?
結果的にそこはもう慣れた。
―昔からやっぱり色々バイトしてるっていう経験も生きてるのかな。
そうだね。派遣で初めて行くところに行かされたりとかもしてたから、そういうのはまあまあ。
―大丈夫?
人見知りはするけど、私はここにこういう目的で来たんです!とか舞台だったら私はこの役をやるためにここにいるので!と言えるものがあれば平気かなみたいな。でも完全に生身の私として、誰かと初めて会いますとかだったら緊張しちゃう。だから役者は合ってるんだと思う。だって「私」じゃないんだもん。名前も生まれも自分と違う、舞台上で演じる役を通してだったらこの言葉が言えるし、目の前の人と上手く接することができる。でも休憩!ってなった瞬間にスン…みたいな。笑
―休憩中はどう過ごしてるの?
おにぎり食べてる。燃費が悪いから。でもそんなことしてたら他の共演者とかに「あやかしっていっつも何か食べてるね」って向こうから話しかけてくれたりする。
お母さんについて
―お母さんと仲良いよね。
めっちゃ仲良い。私が「好きな作品のこのキャラクターがね」っていう話をしても一応聞いてくれはする。理解はあるけど、諦めてるのかな。
―ツイートで見た情報でしかあやかしのお母さんって知らないけど、傍から話だけ聞いてると結構ズバズバなんでも言うタイプ?お顔のこととかも指摘じゃないけど色々言うみたいな話を聞いて…。
言う言う。すごい私のことはめっちゃ言う。だから小さい頃とかダンスの発表会とかすっごい母親が一番ダメ出ししてくるから。
―そうなんだ。
ステージママなわけじゃないんだけど、「ここがこうだったよ」とか表情がとかめっちゃ言われて。だから舞台やってる時も母親が来るのが一番緊張してた。何言われるかなみたいな。今はもう別に平気なんだけど。
―そこで嫌いにならないのがすごい。
でもその通りだなあってなるから。あと一緒にドラマとか見てても、後ろのエキストラ動きすぎ!とか、動きがうるさいとか、自分が目立とうとしてるとか、瞬きが多いとか、言ってること正しいのなんか。むしろ一般人なのによくそこまで気づけるなみたいな。まあうるさいんだけど慣れちゃってそれも。
―すごいディープな話ししてるね。
めっちゃそういうことばっか言ってる。で私に対しても厳しい。そういう容姿とかに対しても言ってくる。だから余計自分のことは好きじゃないんだけど。
―そのお母さんとの関わり方とかも聞いてても大人だなと思う。多分私だったら普通に一生憎しんでる。そんなこと言いやがって!みたいな。
―いやでもうちのお母さんの場合は「ここ直した方がいいんじゃない?」みたいな。顔のことで悩んでた時とかも「ここがこうなんだよね」って言ったら色々調べてくれて。最近は「ほっぺに肉があった方がいいよ。ヒアルロン酸入れてきたら?」って言われたり。
―そんな勧めまで…。
言われる。「それかもうブスなんだから3枚目でやりなよ」って。笑
―全然そんなことないのに!
いやでもなんかすごい友達みたいな感じだから。
―うん。その感じは伝わってくる。
隙あらばカウンセリングしてくるから。諦めてる。まあ分かるしね言ってる意味は。
―言ってる意味がわかるって言えるのがすごい。
でも俳優って仕事柄もあるし自分のこと客観視というか、自己プロデュースができないといけないから。まあ結果的に色々結果オーライ。間違ってなかったかなみたいな。
―いいね。なんか。
昔前髪ぱっつんだったんだけど。
―ああ、そのイメージある。
「前髪ぱっつんだと顔見えないし、お前に似合わないからやめなよ」って。
―それもお母さん?
それもお母さんに言われて。不本意ながら前髪ぱっつんやめて、流せって言われたから流してたんだけど。でもやっぱり外の現場行った時とか、演出家さんだったりが他の男の子に「顔見えないから。前髪ぱっつんは表情も顔見えないから。売れてる役者だったらいいけど、誰もお前のことなんて知らないんだから、前髪で顔を隠すのやめろ!」みたいなことを言ってて、やっぱそうだよねって思って。実際分かるし自分が見てても。印象に残らない。顔が見えないと何してんのかわからないからっていうのはわかるなあと思って。しょうがない職業柄。「お前が松坂桃李なら前髪それでもいいけどよ」みたいに言われてて。 確かになあ。顔見えないもんなーって。
―そっかそっか。
だからまあ間違っちゃいないんだよね。その時「ん~!」とか思っても、じゃあとりあえずやってみるよって言ってやってみて、それが合ってたって思ったら信じるかなーみたいな。
―大人。
うちの母親も綺麗な顔が好きだから。顔が綺麗な友達と一緒に変顔撮って母親に送ったら、「いやこの友達本当に綺麗な顔してるね。変顔してても綺麗だわ」って言うんだけど、その友達本人は全然そういうの気にしてないから。やっぱりこっちは死ぬほど気にする人間…。コンプレックスの塊だから研究するけど、元から生まれ持って顔が綺麗な人は無頓着なんだって思って。
―なんか私は逆に顔綺麗な人ほどそんなミリ単位で顔を気にするんだって思う。別業のあやかしの同僚の子とかと話してて。
でもなんか彼女も彼女で丸顔に憧れてるからね。私と彼女は両方とも丸顔に憧れてるからね。二人とも顔シュッとしてるから。
―丸顔がいいんだ。
好きなキャラクターとかも可愛い系とか好きだし。「丸顔になりたい」って。「好きでここまで尖ってるわけじゃない」みたいなお互い。別にまあもう割り切ったけどみたいな。今はね。でもなれるものならこっちの可愛い系の顔になりたい、いいなみたいな憧れはあるけど。どうせ私たちはもうそれにはなれないから、今世では諦めよう。一番自分に似合うベストな状態を探そうみたいな感じだから。結局ないものねだりだから、どっかで折り合いつけないと。
今後について
―今後やりたいこととかこうなりたいとかある?
やっぱ映像。映像からはこっちに歩み寄ってくれないので。機会やご縁がなかなかないからもはや映像を自分達で作りたいな。私去年その自分が劇団旗揚げしてから、コンカフェ界隈とか舞台に今まで縁のなかった人達に舞台に来てもらえるようにしたいっていうのは結構あって。去年となりの芝でやったクラウドファンディングを通して知ってくれて、これまで舞台全然見たことなかった人もそこからとなりの芝3人がそれぞれ出てる舞台を見に来てくれてハマってくれて、とかもあるから。だから映像作品を作ってそれも舞台にも来てくれる一つの入口になったらいいなとも思って。別に舞台に呼ぶための手段ってだけじゃなくてちゃんと映像は映像でやりたいのが第一なんだけど、一方で舞台あの生の空間を一回でも味わってほしい気持ちも大きいから。
松尾彩加
ブルースカイウォーカーズ所属
1991年11月24日生まれ 埼玉県出身
日本大学藝術学部照明コース卒業
趣味は観劇・映画鑑賞・日本史・お城巡り・アニメ。
特技は乗馬・スキー・ダンス
ジャンル問わず舞台を中心に芝居をしている。
となりの芝
松尾彩加、三嶋悠莉、こうのゆうかの3人の俳優による演劇ユニット。自分たちの可能性を追求するため、2019年1月に活動開始。
「今は隣の芝が青く見える私たちが、いつか隣の芝になれるように」 2019年7月、旗揚げ公演を新宿シアター・ミラクルにて上演。
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