【前編】俳優・松尾彩加(となりの芝)インタビュー「最初は普通に照明会社に就職しようと思ってた」
俳優の松尾彩加は昨年同じく俳優のこうのゆうか、三嶋悠莉と共に演劇ユニット「となりの芝」を結成した。演劇に限らず多方面で精力的に活動している彼女のモチベーションの源はどこにあるのか、また舞台に携わり始めた頃から今日に至るまでの環境や心境の変化について話してもらった。
彼女と私は日本大学芸術学部演劇学科卒(松尾は照明コース、アリマは劇作コース)の同期で、私は在学中から彼女のことを愛称である「あやかし」と呼んでいたため、本インタビューでの呼称も以下全て「あやかし」で統一している。
私が面白そう、楽しそうと感じて引き寄せられる場所にいつでもあやかしがいた。だから卒業してからも敢えて待ち合わせしなくても定期的に会えてしまう不思議な友達だった。時々重なる景色が彼女の側からはどう見えていたのかにも迫りたく、今回のインタビューを敢行した。
卒業して6年
大学卒業してからもう何年経った?
ー22で卒業したから6年か。
6年か。こっわー。
ーあやかしに対する私の第一印象、「すごい可愛いのに演技コースじゃないんだ。照明コースなんだ。」と思って。
いや、全然。照明コースらしい照明コースだったよ!笑
ーであれなんだよね。私は大学1年ぐらいの頃、同期が主催した公演に主演として出ているあやかしを見たのが最初だった。
あ、そうそう懐かしい。もうないもんあそこの劇場。
ーえ、ないの?
結構前になくなってた。
ー知らなかった。でもまさかそこから今あやかしがこういう風に色んな活動をすると思ってなかった。誰も思ってなかったと思うけど。
誰も思ってない!私もあんまり思ってなかった。でもほんと最初は普通に照明会社に就職しようと思ってた。
ーそうなんだ。
しようと思ってたけど、やっぱなんか一回表に出てちょっとやりたいなーと思って。
照明コースに入ってよかった
ー高校時代は別に照明のスタッフをやってたわけじゃないんだよね?
じゃなかった。中学生の頃ダンスやりたすぎて、勉強したくないダンス踊りたいって言ってたら、「そういう学校が公立高校であるよ」って同じダンススクールの子から聞いて、「じゃあそこがいい!」みたいなほんと軽い気持ちで受けて、入学して。でも高校だからもちろん普通の勉強もしつつ、ダンスと演技とか、全部一通りやった。その時に照明もやって、なんか面白いなあと思って。高3の時に非常勤講師の照明の先生に「照明面白いです。大学別に行く気ないけど日芸の演技コースか照明コースには行ってみたいな」って言って。その照明の先生が日芸の先生でもあったんだけど「じゃあ照明コース来れば」ってそそのかされて、普通に一般入試で受けて。
ーそのお誘いも照明コースに入るきっかけだったんだ
そうずっと悩んでて。どっちがいいかなみたいな。担任とかにも話してて。で担任にも演技は倍率が高いよとか言われて、まあそうですよねみたいな。先生も照明に来ればって勧めてくれるし、照明面白いと思ってたから照明にした。
ー照明はどういうところが面白く感じた?
光の三原色を使って自分の作りたいように作るところ?絵の具と違って光の三原色だから作り方がまた絵とは違うし、それによって出来ることが変わってきて、「絵じゃないからこそ逆にこういう風にできるんだ」っていうのが面白くて。あと稽古場でやってたことを本番の舞台の上に持ってきた時に、照明とか音響とか装置が入るとぐっと世界観が出来上がるから、それ見て面白いなと思って。普通に美術も元々好きだったし。それで照明にしてみた。最終的にまた今結局演技やってるけど。だから卒業する時に先生にもごめんなさいって言ったんだけど「いややりたいことやりな」みたいな風に言ってもらえて。
ーでも最終的には役者に行き着いたにせよ、大学で照明コースを選んだことがあやかしにとってはすごく良いことだったって感じがしない?
うん、思ってる。照明として外の現場に行くようになって他の役者さんの裏でのあり方っていうか、見てて「なるほど」って思った部分もあったし。そういうの客観的な立場で見られたのも良かったなあと思う。役者だけやってても多分、スタッフがどういう作業をしていてこれは何の待ちなのかとか、あんまわかんないとこあるじゃん。今何待ち?みたいな。でもスタッフの経験があると「これは今この作業があって」みたいなのが大体分かるから。どっちのこともわかるようになったから、照明コースに入って良かった。
私が超有名な女優だったらこんなこと言われないのかもしれない
興味あることは大体やったかな。スーパーで早朝にサラダを作る人をやったり。
ーどうしてそれはやりたいと思ったの?
なんかやってみたかった。早朝のスーパーの開店前の雰囲気とか見てみたかったから。あとやったことないことやりたかった。でも固定シフトの人が多かったからシフトの融通が効かなくて…。やっぱこっちも急遽オーディションでダメになったりするからさ、「この日はダメで」って話にどうしてもなるじゃん。でも最初面接の時にそれは話してはいて。「じゃうちは合わないかもね」「そうですか」ってやりとりがあったから、落ちたわと思ってたら受かってて。でも働いたら結局そういうこと言われて、いや言うたやんみたいに思いつつ。
―確かに。
でそれも悔し泣きした。「はああ?」とか言って。役者やってますって話はちゃんとしてたし、それでも受かったのにさ、結局そのことで責められて、「話違うじゃん!結局こういう風に邪険にされる…」とか「私が超有名な女優だったらこんなこと言われないのかもしれない」とか思いながら。有名な女優さんが「映画の役作りのためにちょっと働きたいんです」とか言えば邪険にされないじゃん絶対。でも「なにくそ」って思わせてくれる人がいるって事自体はありがたいけどね。
全てのスケジュールを舞台に合わせてるから
―今も色々やってるけど本業は俳優っていう意識がある?
うん。全てのスケジュールを舞台に合わせてるから。第一優先。私も自分で今演劇ユニット立ち上げて。となりの芝。
―となりの芝もそうだけど、やっぱり舞台とか小劇場の世界以外での人との出会いや経験も生きてる感じがすごいいいなと思ってて。
そうだね。一つの事だけをというより色んなことを。何でもやってみたいと思ったらすぐやっちゃう。聞くよりなにより経験した方がいいかなと思ってやってみてる。その色々好奇心に従った結果、初めて仕事で海外に行けたり、色んな経験出来てるから結果オーライかなって。
―私は演劇一本とか俳優一本とかよりも絶対その方がいいなって思う。
でもやっぱさその一本でやってるっていう方が、ストイックだし、美徳というか。
―美徳とされがちだけどさ、だからと言って演劇以外の世界の流行や文化を全くわかっていないのはダサい気がして。だからあやかしの表現を見てると、そういう演劇以外の色んな世界のトレンドとか「こういうのが格好いい」みたいなのがしっかり取り込まれてる感じがしていいなと思う。経験が生きてるなって。
全然まだまだだなって思う。もちろん。でもほら歌舞伎もさ今じゃ古典として扱われているけど歌舞伎って昔から元々粋なものだから。最近だとナウシカもやってるしね。歌舞伎俳優の人も、洋楽とかスポーツとか自分が好きなもの取り入れたりしてるから、私も演劇一本じゃなくて視野広げてもいいんじゃないかなって思える。小劇場好きな人にしか小劇場って見てもらえないからこのままだと。だからできれば小劇場に今まで足を運んだことのない人に見てもらいたいって気持ちでやってる。
でも私も別に計画性ないからさ、その時々「これしよう」みたいな流れに身を任せてるところもあって。一応ゴールはあっても、そこに行くまでにはなんとかなるっしょって言ってて、話来たから「それやりますこれやります」みたいな、基本イエスマンのことが多いかも。あんまり案件を断らない。お仕事もそうだけど、そういう風に話が来たって事は縁があるんだろうなと思ってやってみる。やってみて違って向こうから切られたら「ああそうですか」って言って終わっていく。そういうところは行き当たりばったりだから。
―その時々選び取ったもので未来を作っていってる感じ。
そう…かも。ただそういう時二択になると悩むね。でも基本的には先に声かけられた方をっていうのが私のポリシー。
「口開けて待ってるよりは自分たちで動いて」となりの芝のDIY精神
となりの芝もメンバーの三嶋悠莉ちゃんと私どっちも事務所に入ってるんだけど、事務所入ってたって案件来ない時は来ないから、そういう時に「仕事来ないな~」なんて言って口開けて待ってるよりは自分たちで動いて、それぞれ今まで関係したプロデューサーとか色んな人呼んで、舞台見てもらって「こういう芝居するんです。私達こういうもの作ってるんです」っていうそういう発表の場プラス3人の売り込みをしようって言って結成して。こうのも三嶋ちゃんも、みんな趣味つながりだったから3人ともお互いの芝居見たことないのに結成して。笑 でも「なんとかなるだろう。普段皆こういう人間だしこういう話が合うって事は大丈夫、やってみようか」って。で普段「この人のこの作品出たい。この作品やりたい。こんな役やりたい」とかあっても自分に来るとは限らないから、自分たちで作ればそういう役に挑戦することもできるんじゃない?っていう意図もあって。
―そういう自分たちで企画からやってっていうのが、私はすごくコンカフェぽさを感じてぐっと来る。コンカフェで自分のバースデーイベント、コンセプトや当日のメニューから自分で企画するようなDIY精神というか。
確かにコンカフェで働いた経験も役立っている。
―そんな感じがして、一つ一つの経験が生きている感じがすごくいいなあって。
となりの芝で一緒にやってるこうのゆうかは、彼女もコンカフェを経てDJやったり、自分の自主団体…、自主団体いっぱい作ってるから自分でも訳わかんなくなってるみたいだけど。そのこうのが去年、「クリスマスイブ暇だね」って言ったのをきっかけにイベントをやることになって。うちらも暇だったし。基本は何だろうオフ会と言うかバー営業でうちらがバーテンして、来てくれたお客さんと普通にお話ししつつ時間が来たら朗読をするっていうイベント。そういうのも、コンカフェ勤務時代のノウハウが生かされてるなと思うし。演劇ってさ最後に面会のある公演だったら面会で話すけど、その時間って限られるし、そんなにいっぱい話せなかったりするから。演劇の世界でもそういう風にカフェイベントとかで交流できたらもうちょっと色々話せるなって。もうちょっとどうやったらそういうコンカフェ的な文化を演劇の世界に持ち込めるのかなっていうのは今考えてる。でも確かにコンカフェを経験してないとなかなかそういうの企画するのも難しいよね。やっぱりやったことあるのとないのでは違う。
―ノウハウの有無でね。
そう。役立ってるね。やろうと思えば一人ででもできるし。レンタルスペース借りてお客さんの予約とって、あれが必要これが必要って準備して。分かってればやりやすいから。
後編へ続く
松尾彩加
ブルースカイウォーカーズ所属
1991年11月24日生まれ 埼玉県出身
日本大学藝術学部照明コース卒業
趣味は観劇・映画鑑賞・日本史・お城巡り・アニメ。
特技は乗馬・スキー・ダンス
ジャンル問わず舞台を中心に芝居をしている。
となりの芝
松尾彩加、三嶋悠莉、こうのゆうかの3人の俳優による演劇ユニット。自分たちの可能性を追求するため、2019年1月に活動開始。
「今は隣の芝が青く見える私たちが、いつか隣の芝になれるように」 2019年7月、旗揚げ公演を新宿シアター・ミラクルにて上演。
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