見出し画像

電話

一日の終わりに電話をする約束をした日。
一日の嫌なこと全てが、これをクリアすればあの人の声が聞けるんだと思って頑張れたりした。

そんな日に限って焦らすような呼出音がいつまでも鳴る。
もどかしい気持ちを抱えつつ繋がる瞬間を今か今かと、どきどきしながら待っている。
でもその人の声は一向に聞こえる気配がなく、
楽しみにしていたのは自分だけなのかと悲しくなる。
もしかしたらまたかかってくるかもしれない。
そんなことを思ったりしてみたり。

まだ5分も経っていないのに、何度も時計を見ては全然かかってこないなぁと思っている自分に少し笑ってしまう。きっともう寝てしまったのだろう。今日は諦めよう。きっと明日の朝になれば連絡が来るはずだ。

突然震えたスマホの画面に映し出された名前に、さっきまでの暗い気持ちは嘘のように簡単に消え去るのだ。反射するように電話に出ようとして手が止まる。
あまりにも出るのが早すぎると、まっていたのがバレそうだ。さすがの私もキモい奴にはなりたくない。でも早く話したい。その葛藤に耐えながら3コール目で我慢の限界。電話を取る。

今私が1番聞きたかった声でその人は、
「お疲れ様。すぐに取れなくてごめんね」と言った。
たかが電話一つでこんなにも感情が振り回されるのだ。時代は進み、何事も便利になっていく。

それなのに私の心は厄介で難しく、絡まっている。電話を繋げているあなたは今何を見ているのだろう。そして何を着てどんな顔でその言葉を言ったのだろう。どんな匂いでどんな温もりで。

でも、そこまでは分からない。

今はあなたの声が聞こえること。
それだけでもうなんでもいいやと思えてしまう。
私の心は私が思っているよりももっと簡単なのかもしれない。