終電車

ユダヤ人演出家が劇場の地下に隠れてた

 戦中のパリ。ドイツに占領されていて、演出家の男は劇場の地下に隠れている。妻のカトリーヌ・ドヌーブがかくまいながら、脱出の機会をうかがう。そんな中でも劇場では公演が続けられており、寒さをしのぐためむしろ大入り満員なんだそうだ。

 「戦時中」というと、爆撃におびえながら、明日をも知れぬ命をかろうじてつないでいるのかと思っていた。ましてやユダヤ人となると、息をする音にも敏感になるくらい神経を疲れさせてたのかと思っていた。

でも考えてみれば、攻撃する側だって四六時中、爆弾を落とし続けていては資金が持たない。戦時下にあっても生業に勤しみ、芝居を楽しむ程度の日常はあったはずだ。今のウクライナだって、日本にいてニュースで見るのは爆撃シーンばかりだから、そんなところになんで住み続けるのかと思うが、キーウの町の映像を見ても、崩れてない建物がまだ残っている。東京大空襲や広島長崎みたいな、見渡す限り焼野原になるのは最終段階なのだと、おそらく戦争がある国においては当たり前のことに、いまさらながら気付くような体たらくだ。

 演出家が地下に潜んでいるのが見つからないか、誰かが密告しないか、という日常のかくれんぼのようなスリル。捜査員が来た時の、とっさに地下室の生活感を隠す時のドキドキ。戦闘はないがスリリングで、ドヌーブが嫌っていると思っていた相手役の男優に実は惹かれていたりと、最後まで眠くさせずに見せた。

でも、また何度も見たいとは思わない。やはり戦争の話は楽しくない。どんな状況にあっても、人の営みにドラマはあるし、たくましく生きる力が感じられもする。とはいえ、楽しくはない。いろんなことを考えさせてくれ、生きるとは何かを突き詰める材料は与えられる。けど、見ていてきつい。せっかく時間を作って見る映画なんだから、できれば、ひと時でも浮き世を忘れられるような作品がいい。

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