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ビオトープと再生田

皆様お久しぶりです。
梅雨が消し飛んだかと思えば、7月に入って線状降水帯が多発する今年はいかがお過ごしでしょうか。私は水不足に頭を抱えながらそれなりに楽しくやっています。

前回の記事を書いたのがもう4月22日。あのタイミングではまだまだ「これから始めるぞ!」という感じでしたが、そこから3ヶ月。自分でも驚く程に物事は進んできました。

これも協力してくださった皆様のおかげです!

不定期更新の環境保全についての一考察。この3ヶ月の動きについて1度振り返り、考察してみます。



湿地環境の地域性

山間のビオトープ群

4月、山間のビオトープが完成し順調にサンショウウオやヒキガエル達が育っていた頃、同時並行で新たに耕作放棄地再生に向けた取り組みを開始しました。

耕作放棄地再生が何故環境保全に結びつくのか。もちろん水田があるだけでも、両生類や水生昆虫などのある程度の生物は生きていけます。そういう側面からも水田環境を維持するということは大切です。

しかしながら、そこに地域性も加えて考えてみるとさらに重要度は高まります。

地域性の例としては、活動拠点である八頭町船岡地区は水が不足しがちということだったり。私たちが活動させて頂いている旧船岡町は、元々水量が不足しがちなところが多いんだそうです。
そのため、アメリカザリガニなどの侵入が限定的でとても良好な湿地環境な残っているのに、耕作放棄された後はそもそも湿地として維持できない場所が多いので数が限られてしまっています。



1960年代の航空写真を元に水田跡地を片っ端から探して確かめた。現在の状況は湿地や砂防ダム、住宅 地、森、荒地など様々。

五月、良い環境が残ってないかと町内の耕作放棄地にローラー作戦をかけた時に、水の流れの地域性は既に感じていました。

乾燥が進んだ元水田
谷ごと放棄された場所
まるで城跡のような山中の棚田跡地
水があっても畔が崩れて留まらない場所

水田や棚田の跡地は割と沢山ありました。数十年放置されていても何となく田んぼの形がわかるところから、もはや何処に何があったのか分からないところまで。

ただ、多くの場合が「そもそも水がない」のです。川が地面を削って水田跡地に入らないパターンもあれば、そもそもの水量が足りないところまで。

少ないながらもかなり良好な湿地環境もある

多くの湿地環境が維持しようと思って維持しない限り残せないという地域性。

1ヶ月、田植え補助の仕事をしてました

「水が足り苦しい」という側面は6月から1ヶ月間田植え補助の仕事をしていても感じました。
というか、70haくらいの面積で田植作業をしていると、素人目にも少しずつですがその場その場の特性が見えてきます。そして今年のような空梅雨なら尚のこと顕著に見えてきました。

環境保全を考えるならば、まずは「水不足」という地域の特性を理解した上で、ようやく生物の話が出来るわけです。

イノシシが掘った水溜まりとヒキガエルの卵

自然環境に視点を移してみます。
このような小さな湿地は山際などに残っていたりもします。しかし、こういった小さな場所は予期せぬ事態に対処出来ないことも。

例えば、ほとんど雨が降らない“空梅雨”とか。

そして察しの通り、初年度から異常事態を向かえました(ツライ)。


水量が下がりすぎて取水口に達してない川。これ以上水を止めると今度は下流側が枯れる。

今年の空梅雨はえげつなく、山水(小さな沢)が枯れ、本流の水位が下がって取水できないなんてことも多々。

田植えの翌日に干上がった水田

6月時点での水不足は非常に深刻でした。


水がなくなり、取り残されたオタマジャクシ
池の水位が下がり、モリアオガエルのオタマジャクシが孵化しても水がない状況に。

農地がそんな状況なのですから、自然の湿地はもっと酷い状況です。小さな水溜まりは干からび、モリアオガエルが産卵した木の下は陸地に。

外来種の影響が少なく通常時は良好だけれど水不足には弱いという側面もある一長一短なフィールド。

とはいえ、こんな話をすると、水がないなら湿地生物の生息環境として本来適してなかったんじゃないか的なことを思う方もいるかもしれません。その点については「水は多い方ではない」けれど、それでも「水がある湿地環境は水田やため池として既に利用されている」というのが正解です。

その結果、水田ではドジョウやカエル達が住み、その周りの湿地環境にサンショウウオや水草が残っています。

そして水田すらも厳しい今年のようなタイミングでは、周辺の湿地はさらにヤバい。今年はそんなイメージ。

さて、そういうタイミングで私たちのビオトープ群はどのような役割が出来るのでしょうか。


ビオトープの安定した水辺としての役割

ビオトープ周辺の木に産み付けられたモリアオガエルの卵

この2ヶ月でまともに雨が降ったのは10回あるかないかの今年。さらに追い打ちをかけるかの如く秒で走り去った梅雨。

それでもビオトープ群は水を湛えています。理由は立地と構造でしょう。山からの染みだし水を掘り下げた粘土層で受け止め、棚田のような構造でゆっくり流す。
もちろん、それでも水量に対して維持できる水面には限りがありますが、そのまま川に流してしまうよりかは遥かに多くの水を貯められます。
また、この谷の沢の本流からは一切水をとっていないため下流側に与える影響も最小限。

微々たる水を最大限利用する、足りない水を補うには大切なことです。

上陸するヒキガエルたち

6月中頃には無事にヒキガエルやサンインサンショウウオたちが上陸。とくに雪解け水が枯れた5月半ば以後の渇水を乗り越えられたのは嬉しい限り。


トリゲモの仲間

また、埋没種子から復活したのか、トリゲモやヒルムシロの仲間、車軸藻類などが生え始めました。



八頭町周辺の溜池。水底にはミズオオバコやミズユキノシタが繁茂している。

本来この周辺には、こういった植物の豊かな生態系があったことが見て取れます。
現に周辺のアメリカザリガニが侵入していないため池には在来スイレンのヒツジグサ(準絶滅危惧種)をはじめ、フトヒルムシロやホソバミズヒキモ、ミクリ(絶滅危惧種)、車軸藻類などなど、多くの水草が見られます。

一度消え去ったこの場所でも、それらの豊かな植物相は埋没種子という形で残っていました。

陸を歩いて移動してくる両生類に加えて、この場所にかつて栄えていたのであろう水草類の再生。場を整えれば生物多様性は自ずと豊かになっていく、まさにその好例です。


水が入らない区画

ただ、これらのビオトープ群造成にも当然ながら問題点があります。
雪解け水が豊富な3月に作ったビオトープ、季節が進むと水量を維持できない場所も散見されました。
せっかく両生類が産卵しに来てくれても途中で干からびてしまったら本末転倒です。2-6月で水位が維持できない場所は来年の両生類の産卵のタイミングまでには撤去する必要があります。

気候や雨量、利用する生物の特性から考えつつ、まだまだ改善していく必要がありますね。

何はともあれ、無事両生類たちの上陸を見届けることが出来たのは素晴らしい!ビオトープ群造成はとりあえずの目標を達成しました。



耕作放棄地再生と生物多様性保全

4月の時点での耕作放棄地

さて、そんな中での次のステージ。
今、手伝わさせて頂いている農場の代表の仲介と御協力で始めさせて頂いた耕作放棄地の再生です。

生物多様性保全を生物屋だけで完結させることは出来ません。だからこそ、メリットをどのようにして地域に還元出来るかが大切です。そんなことを宣ったところで、実際どんなことが出来るか分かりませんのでやってみるしかないでしょう。

生物多様性保全と農地保全の可能性を探るプロジェクト、スタートです!

まぁ、実地の作業は様々な学びや気付きもあります。それらはおいおい語るとして、前回の記事からの作業の進展を振り返ってみましょう。

とりあえず草刈り。エンジンは偉大。

雪解け後とは思えないどうしようもないほどのススキとイグサを刈り取って、ある程度土地の形が見えるようにしました。

畦はスコップと気力で作る

次に畦を復活させます。
雪解け水と湧水も相まって、瞬く間に湿地に戻りました。なんなら2月時点でサンショウウオも産卵していたので、一面生き物だらけ。

大きな川もなく、小さな山の沢水と湧水だけにも関わらずこの水量。なぜこれ程水が潤沢に使える谷が耕作放棄されたのか不思議になります。

しかしその理由はすぐに分かりました。

トラクタァー!!!

水が豊富な環境、耕起をかけたら即泥濘に。すぐに走行不能に陥ってしまい、ショベルカーで引きずり出すことに。

もはや機械化農業が不可能な場所なのではないかと思いたくなる。これは確かに耕作に向きません。

あてにしていたトラクターが使えなくなり、耕作放棄地再生の計画は頓挫……

仕事終わりから日没まで作業。1日2時間ずつくらい進める。

……させるわけにもいかないので、手作業で代かきをします。
1人がクワで起こし、1人がジョレン(採貝用)で砕き、1人が均す。そんな感じで少しずつ広げていきました。

私らは生物多様性保全がやりたいのであって、決して機械化農業を否定したい訳ではありません。しかしながら、耕作できる状態に戻さないと何も始まらないのでとにかく頑張るしかないのです(ツライ)。

割と田んぼになった

元々の2反(約20a)は無理でしたが、とりあえず7畝(7a)ほどを何とか水田状に。

5月半ばにはこの谷も山水が枯れて水量が減少し始めましたが、それでも湧水をしっかりと受け止める構造にしたので上2段は大体水を残しています。
3段目の奥は水が足りないタイミングもありますが、水を全力で溜める方向に頑張ったので1日雨が降れば4日は大丈夫。


めっちゃ良い感じの湿地

そしてこの3段の上側にはビオトープを造成。山水が枯れても枯れない謎の水源を最大限溜めて湿地状に。両生類と水生昆虫、ドジョウ類の楽園になりました。
しかも、下の段に水を供給するための役割もしっかりと果たしています。

獣害対策は嫌という程したので電柵はお手の物

最後にシカ・イノシシ対策のために電柵を張って準備完了。

トラクターで耕起と代かきやってビオトープと連結させて生物とどこまで共存できるかその可能性を探ろうと始めた耕作放棄地再生。
ここまで尋常じゃないほどの遠回りをしてしまったけれど、ようやくスタートラインに立てました。

いよいよ田植え!

楽しくやろうぜ、それが大切だ!

そして6月中頃、協力してくれた学生や若手の皆と一緒にいよいよ田植え!

集まってくれた皆、ほとんどが生物好き。田植えの最中もドジョウやカエルを見つけて楽しみが絶えません。
なんせこの田んぼ、水生生物が常に残れるような水管理をしていますからハチャメチャな数のドジョウとオタマジャクシがいます。

多少のハプニングはありつつも、7aは手植えをするには丁度良い位で半日で無事?終了。

半数の参加者はこっちがメインなのでは(主催者含め)

最後は田んぼやビオトープで生物採取。
無数に増えた子ドジョウにどっからか湧いてきた子ブナ。水生甲虫などが沢山見れました。

ニシシマドジョウ
湧水周りの冷水にはサンインサンショウウオ

実に多くの生き物が利用してくれています。来月には、すぐ隣の手をつけていない耕作放棄地とこの再生田周辺で種数や個体数を調べ、どのような変化があったのか見てみたいところです。


6月下旬の再生田


7月中旬の再生田

そして今現在、何とか水田は順調です。
7月に入ってから絶望的に水が足りないタイミングもありましたが、何とか昨今の戻り梅雨まで耐えきりました。
本流筋から水が引けない田んぼとしては上出来でしょう。

もちろん無農薬でやってるので、雑草との戦いです。特に7月上旬に山水が枯れる程の絶望的に水がないタイミングがあり、その際にビオトープ死守のために水田に水が行き渡らないタイミングがあったので、干上がったところは雑草が凄まじいことに。
さて、どうやって対処していきましょうか。

何はともあれ、ビオトープと再生田、それぞれ色々ありつつも順調に進んでいます。

他にもこの2ヶ月の間に、若手勢との琵琶湖研修や観察会、単発の保全活動、様々な発見、これからの発展に繋がる動きなんかも多々ありましたがあんまり詰め込み過ぎるとまた1万字超える長文になってしまうので近況報告はこれくらいにしておきます。



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