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山岳部を知ってほしい!

まえおき

映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」を観てきた。

高校2年生の主人公たちの「ザ・青春」感に引っ張られて、
懐かしくなったり戻りたくなったり。

自分が高校2年生のときはどうだったっけ...?と思い返したとき、


そこにあるのは圧倒的に「山」だった。

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山岳部。決してメジャーとはいえない部活動である。

登山部なのか、山岳部なのか?
たまにワンダーフォーゲルなんてのもあるから、
もう名前からしてよくわからない。
(高校時代には山岳部が運動部なのか文化部なのか分からなかった)

活動内容は自明かもしれない。

山に登ること、である。もちろん。

でも、じゃあ普段はどんな練習をしているのか?
大会では何を競っているのか?
というところまでは、知らない人が多いんじゃないだろうか。

登山をする人も、しない人も、
(とある女子高校の山岳部員だった私の視点からで恐縮だが)

高校の山岳競技がどんなものなのか、ぜひ知ってほしい。


山岳部のひと

山岳部なんかに入るやつは、みんな変人である。

入る前から変なのか、入ってから変になるのかは知らないが、
少なくともみんな変人の素質は持って入部してくるのだと私は思っている。

女子校の山岳部ともなれば、女子高生山女という2つの属性を持つ者たちの集まりなわけで。混迷ここに極まれり、である。

そんな山岳部に出会い、血迷ってそこに入ってしまった私の高校生活は見事山まみれになった。高校生活を振り返っても、8割が山の記憶である。

でも。それも仕方がないな、と思うほどに山岳部での毎日は魅力的だった。

山に登るだけでも非日常だが
山登りで全国上位を目指す、という世界はさらに非日常である。
そしてその非日常に揉まれた女子高生は山ガール、否、山女へとたくましく成長を遂げる。

山や階段や笹の葉を「イケメン!」と愛で、
空を見上げれば「あれは積乱雲!あれは絹積雲!」と雲の分類を始め、
ヒルに血を吸われても、イノシシに出会っても笑顔で山を登る。

そんな山女 兼 女子高生 がキラキラしているのが

そう、山岳部である。

大会

私たちの所属する県では、大きな大会が2つあった。

1つ目は総体
勝ち進めばインターハイにつながる、大きな大会である。
(これはメインなので後述する。)

そしてもう1つが新人戦
内容はまた違って、簡単に言えばマラソン大会だ。
山を走るのである。
「走らない運動部」を求めて山岳部に入部した私の期待はまずここで打ち砕かれたのだが、この大会それだけではない。

荷物があるのである。
女子は6kg、男子は8kgの荷物を背負ってのマラソン大会。
いや何事?…と思うのも訳があって、登山の一部だからだったりする。
1人1人が各自の飲み物、食糧、医療用具や非常食などを持って走る。

6kg背負ってスキー場の斜面を駆けあがれ!と言われた時は面食らったが、全ては山で自分の命を守るためなのだ。
実際に山ではテント場に大きい荷物を置いて、同じ6~8kgの装備で行動することがある。遭難しても大丈夫な最低限の装備なのである。
こういった、筋の通ったルールがあるところが山岳競技の魅力でもあると思う。

トレーニング

そんなわけで、日々のトレーニングもまた山から無事に帰ってくるためにある。もっと言えば、余裕を持って山を楽しむためかもしれない。

私たちの山岳部は週3×1時間という練習量で、
運動部の中ではゆるい方だったと思う。
だけど、それはあくまで量の話。

トレーニング初日、私は
部員をおんぶしながら階段を上り下りする先輩たちを見て
あっけにとられた。
おんぶが終われば次は肩車である。
最初は先輩を背負うのもうまく背中にしがみつくのにも もたついていたが、
数ヶ月立つ頃には余裕も出てきて楽しいトレーニングになった。

そこで3年間過ごして、慣れてしまった私は
(ちょっと大げさに書きすぎかな…
おんぶも肩車も別に普通のトレーニングかもしれない)
と今不安になりながら書いているが、ここは当時の衝撃を尊重したい。

これらに筋トレと週1のランニング(しっかりタイムを測る坂道ラン...めちゃくちゃ走るじゃん!)を加え、毎月1回は実際に山に登りに行く。
これが私たちの主なトレーニングだった。

総体

最初、入部したばかりの頃は体力に自信がなかった私も
画期的な(?)トレーニングのおかげで、実際に山に登るのが楽しみになっていた。トレーニングが辛いときは、早く山に行って景色を楽しみたいという思いが自分を励ましもした。
こんだけトレーニングしたら登山もどうにかなるはず!
総体では約20kgの荷物を背負って登るのだが、
それでも女子高生を背負うよりは軽いだろう。

高校1年生は入部してトレーニングを始め、1ヶ月ほどでもう初めての総体の時期を迎える。
正直1年生の頃は自分が完歩することでいっぱいいっぱいだった。
全国大会を目指す先輩たちが、文字通り足並み揃えてすごいスピードで歩いていくのを、憧れと「よくわからん」を抱えて見ていたような気がする。

よく分からないのも当然で、山岳部の採点方法は結構複雑だ。
100点満点で得点が高いチームから順位がついていくのだが、
採点項目は以下の11個あり、0.1点刻みで点数が付けられるのである。

体力
歩行技術
装備
設営・撤収
炊事 
天気図
課題テスト
計画書
行動記録
読図技術
マナー・自然保護

しかも県大会と全国大会、また年度によってルールが違うこともあるので、
大会はまず各校に配られた要項を、目を皿のようにして読むことから始まる。

だから私が知っているのは私の代の大会のルールなのだが、
それを思い出を交えながら各項目を紹介していこうと思う。

体力

これはもう、その通りである。
100点中40点が配分されている、重要な項目。
歩き方やスピード、リズムなどで判断されると思われるが、
明確な基準が公開されているわけではないので結構難しい。
陸上競技のように数字で現れない以上、審査員に与える印象が得点に影響するとも思われるからだ。

ちなみに審査員は顧問の先生方から選ばれるのだと記憶しているが、
彼らは審査のため、道中木や岩の陰に隠れている
階段や急な登りの途中にいて、選手たちがどれだけ体力に余裕を持って歩いているかを見るのである。
こちらも先頭が審査員を見つけ次第「前向いて行こー!」とか声掛けをして、暗号のようにチームに審査員の存在を知らせる。心持ち元気に見えるように歩くのだが、審査員も隠れるのがうまく、また体力的に辛い箇所にちゃんといるのでここは一進一退の攻防である。
(ちなみに私は県大会も終わりがけ、口パクならバレないだろうと無音で歌を歌いながら歩いていたら草陰で体育座りしていた我が校の顧問と目が合い、ニヤッとされヒヤッとしたことがある。)

息が切れているか、とか 歩く速度が早いか、などはもちろんだが、
いかに「余裕で」歩いている印象を与えるか、は各校でバラバラなようだ。
私達は笑顔で、時折話しながら楽しそうに登るようにしていた(実際楽しかった)。あとは4人のチームで左右の足を揃えたり、背負った荷物があんまりぐらぐらしない、安定した歩き方を練習する、荷物をどさっと降ろさない、など。疲れは細部に出るものである。


歩行技術


「安全に歩く」技術の項目である。
体力と同じように、隠れ審査員によって採点される。

例えば滑りやすいところで安定した足場を確保できているか、
ぐらぐらした石を踏んで体勢を崩したりしていないか、などである。
審査員の目の前で滑って転んだ日にはもう、後々までからかわれることになる。

安全な登山を実践できるように、
岩に手をかけて登る時に軍手をきちんとしているか、
上に木や落石の危険があるときは「頭上注意です」と声掛けをして、気をつけて歩いているか、などもここに含まれる。


装備

大体20kg前後の荷物が、それぞれのザックに詰まっている。
ザックの外側に何かをぶら下げたりすることは、引っかかるので安全性の面でダメである。以下に綺麗に詰められるか、パッキングの技術も必要だ。
県大会では最低重量が決まっているが、インターハイでは無制限なので少しでも軽くしたほうが有利である。
とはいえ必要な荷物を削ってしまえば、得点も削られることになる。

必要な荷物は時計やコンパスなどの基本的なものから飲み薬などの医療用具、ラジオ用の予備電池、補修用のガムテープ、非常食といったものまで細かく決まっていて、
休憩箇所で抜き打ちで「〇〇出して」とチェックされる。

持っているだけでは意味がないので、その場で使えるように使い方も知っている必要があるし、数ある医薬品は使用期限が切れていないか、個数が充分かなど細かく事前にチェックする。

個人の荷物とは別にチームで分担して持つ荷物もあり、
それは重さが均等になるようにチーム内で事前に担当を決めていた。
テントの布部分、骨の部分、医療用具、炊事用の鍋、といったように。
最初はじゃんけんで少しでも軽いものを選んでいたが、だんだんと愛着が出てきて「私テント担当ね!」みたいになってくる。何十回も荷物を詰めていると、次第に自分のリュックの中の定位置みたいなものが定まってくるのだ。(荷物が上手く詰められててザックの形が綺麗だとみんなに褒められる、これも山岳部あるあるだ)

装備も細かいところまで工夫がされている。だって少しでも軽くしたい。
飲む用の水はきちんと確保したほうが良いけど多すぎても重いので、自分にちょうど良いラインを探したり。食器を水で洗えないから拭く用のトイレットペーパーを持っていったり。炊事用のガスボンベを多すぎず不足しないように調整したり。

休憩時に食べるおやつも、山に慣れるに連れ変わっていった。食べるのが1番の楽しみだった1年生の頃は遠足みたいに色々、チョコとかゼリーとかドーナツとかだったし、実際それで楽しかった。なんと言ったって登山は通常の倍のカロリーを消費する。普段より2000kcal多く摂取しなくちゃならないのだ。それだけ好きに食べれる、とも言える。
それでも1,2年経つに連れ内容はバナナチップスの大袋とか、せんべいとかになる。飽きないもので、いかにカロリーを摂取できるか。
(私達の代のキャプテンはふわふわしたかわいい子だったけど、最終的には「水と塩さえあればいい」と言い始めていた。本当に女子高生か?)

設営・撤収

なんのこと?...テントである。

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テントは設営の時間があり、それぞれのチーム用に区画が作られ一斉スタートになる。
時間は10分、学校によっては5分くらいで完成させる。
テントの下に石が無いよう取り除く「整地」から始まり
風向きを見て入口の方向を決め、
テントを張って中をきれいに整えて、タープがしっかり張ってあるか、ペグの角度と深さは適切か確認するところまでが一連の流れ。
その間にも「ポール挿すよ」「荷物入れるね」などの声掛けや
テント、シート類が風で飛ばないように抑えることを忘れない。
雨の場合と晴れの場合では設営の仕方が違うので、大会前にはそれぞれのバージョンを校庭で練習した。

設営し終わった後は区画の外に出て張ったテントを審査されるのを見守るのだが、特に県大会の先生方はほとんどが顔見知りで、しかもみんな山をすいすい登っていくとてもかっこいい方々だったので「私達のテントがあんなレジェンドの先生方に見られている...!」とこっそりきゃっきゃしていた。

炊事 

炊事。もちろんだが、登山中の食事は全て自分たちの手で作る。
これはまだ実家暮らしがほとんどの高校生にとっては新しい経験だった、と思う。
しかもただ作れば良いわけではない。献立があるのである。
栄養が偏らないように、カロリーが足りるように、事前に計算して献立を考える。もちろん美味しくて飽きないほうが良い。

入部した頃はガスボンベの使い方もわからず、ライターもあまり使ったことがなかった私たちだが、徐々にガスでも米を美味しく炊けるようになり。メニューもカレーや雑炊だったものがミートボール、ちらしずし、さらにはキッシュまで考案して作るようになった。野菜が傷むこと、重いことを解決するために乾燥野菜を考案したチームメートがいて、それで作ったカレーはとても美味しかったことを覚えている。

審査されるのは献立だけではなく、実際の手際もだ。
火を扱う時にきちんと軍手をしているか、ガスボンベとコンロの上に乗った鍋から手が離れ不安定な状態になっていないか。地面でレジャーシートを敷いて料理するのだが、過去にはその上に乗った砂を放置して減点されたチームがあった。
入部した頃は「家でもあんまり料理作らない」状態だった山岳部員たちは高校3年生ともなれば「勝手に手が動いちゃう」という手際で炊事ができるようになっていく。

大会の話からは逸れるが毎年3泊4日ほどで行く夏山合宿では、日程の長さからいつも以上に気を使って献立を立てた。4日間まるまる自分たちで食事を作ったのは初めてだろう。
私は下宿だったので下山後そこに帰宅したのだが、いつものように夕食を作ってもらった時に涙が出てきてびっくりした。「何もしなくても温かいご飯が出てくる」ことの有り難さを、心より先に体が実感したのかもしれない。


天気図


天気図!これは入部するまで知らなかったものである。
ラジオの放送を聞いて天気図を書き、翌日の天気を予想する。
時期によってはお昼休みにみんなで集まって録音したラジオ放送を聞き、
時間制限を設けて描く練習をした。

地図上にある地点の天気や風向、風速などを聴いて書き取り、
台風や低気圧、前線の状況を知ることで次の日の天気を予想する。
合宿などではこの予想をもとに次の日のルートが変更されることもあり、
登山する上で実践的な知識でもあった。

これによってハバロフスクやセベロクリリスクという地名に親近感を覚えるという副産物も生まれたので、いつか絶対に行ってやろうと思っている。

天気図

(↑の用紙に書いて/↓が完成形)

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課題テスト

これは声を大にして言いたい。テストがある!!!
山岳部が運動部なのか文化部なのかよく分からないゆえんである。
しかも100点満点、最終的には圧縮されるがちゃんとした試験である。
教室で行われるテストと、行動中に行われる植物や動物名、ロープや三角巾の使い方のテストなどもある。
内容は山の成り立ちから地域の歴史、地図記号、周辺の山の名前など。風速と体感温度の計算問題や、骨折のときの処置など医療の問題も含まれている。

実践的かという視点で見ると、これは登山に役立つ基礎知識を身につけるほか、山に関する興味を持つのにも役立った。例えば、歩いている横の木々にカバーが付けられているのはなぜだろう(鹿害)とか、道にある碑はどんな歴史を示しているんだろう、とか。点数を得るためにも、その土地の歴史や文化に普段から興味を持つことが有効なのである。

その影響もあってか、登山中に話す内容は3年間で大きく変わったと思う。
初めての山行のときは、決まったばかりのそれぞれのクラスや授業内容について話していた。それがだんだん「この花なんだろう」とか「あの雲、巻積雲だよね!えっと...いわし雲だっけ?」とかになり、最後のインターハイでは「この後尾根が見えてきて、この前印つけたポイントに着くんだよね」みたいなことになった。
チームのメンバーもそれぞれが自分の好きな分野を発揮し、鳥の鳴き声を聞いて名前を教えてくれたり、植物の名前をクイズにしてくれたりした。
(余談だけど、歩きながら「なんか面白い話してよ」と雑なフリをした私に、「あ、今足元に咲いてるのがね..」と言ってオトギリソウの名前の由来を話してくれた最高な友達がいる。)


計画書

まあ、「山のしおり」である。
チームメンバーの名前や連絡先から献立表、行動予定表、動植物の図鑑、周囲の山が分かる展望図、尾根や沢が分かる概念図、コースの高低差が分かる断面図など、必要な項目ごとに審査される。

これもめちゃくちゃ細かいのだけど
ニッチすぎて写真がないと説明できないので割愛。
(いつか写真を貼って追記します)


行動記録

登山中、休憩ポイントに着くたびにその地点やそれまでのコースの状況を記録する。これも項目が多くて、天気や気温、風向きと風速、雲、動植物、標高、メンバーの体調などである。

休憩箇所で審査があったら「審査があった」と書く必要があるし、
雨で地面がどろどろになっていたら「足場が悪い」と書く必要がある。
特に大会では事前準備も重要で、配られた要項に「富士山が見える」と書いてある場所に行って富士山が見えなかったら、「曇っていて富士山は見えなかった」と書かなければいけないのである。

30分〜1時間ほど歩いて休憩は10分程なので、(もちろんザックを下ろしたり地図に目を通して次の行程を考えたりする時間も含める)その中で行動記録をつけるのはけっこう大変である。
インハイでは1人が記録を提出すればよかったので、担当を決めて1人が特に丁寧に記録を書き、残りの3人で彼女の口におやつを詰め込んだりなどしていた。もごもご。


読図技術

地図読み。これは最後まで一番難しかった。
それだけに重要な項目であり、普通に登山する上でも絶対に必要なスキルである。
地図上の尾根や沢、ピークを把握し、自分が今どこにいるのかを地図に書き込むのである。読図ポイントには目印が置いてあって、それを1ミリ以上の誤差を出さずに地図に落とすことが求められた。
必要なのは尾根や沢などの地形を把握する能力、地図上の距離を縮尺を踏まえて計算して距離を考える能力、そしていざ読図ポイントが来た時に慌てないよう、次にどんな地形が来るのか地図から予想する先読みの能力である。

採点する以上特徴がある地形がポイントとして選ばれるのだが、何しろ同じような尾根や沢が続くとわからなくなる。体力的に余裕がないときであればなおさらである。

インターハイでは歩きながら地図を読んではいけないし場に留まっている時間も惜しいので、地図を暗記するという方法をとった。地図上に何十個と細かくポイントをつけ、番号を振って覚えていく。何度も歩くうちに自分が今どこにいるのか把握して歩けるようになり、次にどんな地形が目の前に開けるかを予想できるようになるのである。


マナー・自然保護

ぶっちゃけテント泊は楽しい。だって遠足だしキャンプである。
女子高生4人が同じテントで寝る、となったら当然話が盛り上がるわけで。(山岳部が他の部活に比べて圧倒的に早く仲良くなるのも、月に2日とか3日とか生活を共にするからだと思う)
大体は寝袋に潜ってわーきゃーしていて、その様子は外で見ていた先生が「テントが揺れていた」というほどであった。

でも、消灯時間になったらパッと静まるのである。
(消灯時間5分前じゃなきゃ遅いと怒られたこともあるし、実際大会はさすがに騒いだりできなかった)
大会では消灯時間と起床時間が決められていて、その間に会話したり行動したりしてはいけない。寝言で減点された、みたいな経緯で揉めたこともあるくらい。

厳しいようだが、普通の登山でも隣のテントがうるさくて眠れなかったら次の日の行動に響くわけで。特に団体で行動する山岳部は、他の登山者に迷惑をかけないよう細心の注意を払う必要がある。そういう意味ではこちらも筋の通ったルールである。

山岳部

長くなったが、以上が大会のルールの紹介である。
ひとくちに山岳部といっても、インターハイを部活動のメインにしている学校もあれば、大会そのものに参加しない学校もある。そんな中で私達の母校は全国上位を目標にしながら、あくまでメインは普段の登山だったように思う。
インハイのルールは概して山を安全に楽しく登るための基準である。だからこそ毎月の登山の延長線上に全国上位はあると考えて楽しく登ろうとしていた。
「楽しく登る」ことと「大会上位を目指す」ことのズレを目前に、どうしようねと放課後ファミレスで何時間も喋ったこともあった。

今考えてみると、「ヘンな世界」だったなとは思う。
制服に登山靴にザックで闊歩する、「女子高生としてヘン」だったのか
山を純粋に楽しむだけでなく点数を追う「登山者としてヘン」だったのか
24時間×3,4日審査され続ける「部活の大会としてヘン」だったのか
それはわからない。たぶん全部だと思う。

でもその「ヘン」さを私たちは楽しんでいたような気がする。
急斜面や階段を前に心躍らせ、
「山男の歌」や「雪山讃歌」を好んで歌い。
部員の家に遊びに行っては「布団あるよ」と言ってくれる彼女の母の言葉を断って、庭でテントを張って寝る。
みんなで「ガスボンベで美味しいご飯を炊けるようになりたいね」と、部室にガスボンベを持ち込んで昼休みにこっそり米を炊く。

そしてそんな私たちを醸成したのが、「山岳」という環境である。
夏山を歩いているときの人工物が1つもない景色、
ただただ後ろに歩いてきた道が何kmも連なっているのが見えたこと。
午前3時起きで完全な暗闇の中を登る怖さ、
振り返ったらみんなの頭のライトが1列に続いている光景。

非日常が日常になった3年間。
そんな山まみれの高校生活を、私は過ごした。

終わりに

いかがだっただろうか。一個人としての体験、記録として偏りはあるものの、雰囲気を感じ取っていただければ幸いである。

山岳競技、まだまだマイナーなスポーツである。
実はこの夏、地元の高校が男女ともに全国2位という快挙を達成したのだが
地元紙にさえ「登山 団体最終成績 ②〇〇高校 ○点」みたいな、まさに最低限の情報しか書かれていない不遇な扱いだった。

それが悔しくて、ついついこうやって記事を書きはじめてしまった。
山岳競技は、登山というスポーツ自体はもちろん、
その競技内容も実践的で考えられた魅力的な競技である。
さらには、それぞれの高校には生徒の安全に心を砕きながら、自身も高校生を超える強靭な体力でにこにこ山を登っていかれるかっこいい先生方、
3年という短い期間でたくましく成長を遂げる山岳部員たちがいる。
そんな山岳部が、山岳競技が注目されないなんてもったいない!!

読んでくれたあなたに、少しでも魅力が伝われば最高である。




*薄れた記憶を補うための情報と写真を以下の資料から拝借しました





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