弁護士の事務所選び

 72期の弁護士が生まれたタイミングのようです。72期、というより、73期以降の方の就職先選びの参考になればな、という記事です(転職を考える72期にも参考にはなるかもしれませんが)。
 ちょっと時間をかけて、私が転々としてきた事務所の良かったこと悪かったことをまとめて、じゃあどんな事務所が良いんだろうか、というような記事を書いていたんですが……容易に特定ができそうな事務所の問題点を長々と書いてしまうのは、一応前にいた事務所に悪いかなと思い、投稿をやめてしまいました。
 そこで、正直説得力は失せるかもしれませんが、弁護士としてまだ数年しか経験の無い若手でありながら、次々全く傾向の異なる事務所を経験してきた私が今到達している考え方だけを書いていくことにします。

1 報酬は大事なのか
 最初の事務所選びでは、正直ここが一番注目されるポイントかもしれません。たくさんもらえるに越したことはないです、間違いありません。報酬と労働時間は必ずしもリンクしませんから、めちゃくちゃ働かされて薄給、ということもあると思います。
 ただし、報酬が充実しているということをメインの理由にして事務所を選ぶのは間違いなくやめたほうがいいと思います、時間を無駄にします。私は最初いた事務所の報酬はかなり良かったですし、その次の事務所もかなり良かったですが、それらを捨ててでも(実際月額の給与は下がりました)やっぱり他の事務所が良いと判断しました、そしてそれを一切後悔していません。その理由は、2以下の要素です。

2 事務所の経営はうまくいっているか(最重要だと思います)
 正直入ってみないとなんとも分からない要素だとは思いますが、この点は極めて重要だと、働いてみて感じました。働くまでは全くこの観点はなく、むしろ仕事量が少ない方が最高なんじゃないかとまで思っていた馬鹿でした
 最初は皆さんアソシエイトとして働くと思いますが、パートナーが充実した仕事を取ってこれる方でないと、正直、何もかもうまくいきません。経営がうまく行かない事務所が何をするかというと、アソシエイトを縛ります。個人事件を禁止し、全てを事務所事件として受任させ、報酬を上納させるのが王道コースです。最初個人事件は自由とか、許可制だけど原則許可するとか、そういうことを言っていても正直信用できたものではありません。この点は徹底して探るべきだと思います。
 また、パートナーが営業がうまくないと、アソシエイト自身も営業を学ぶ場面が無いという意味でも極めて問題だと思います。最終的には弁護士は自力で仕事を確保できなければ生きていけません。数年間アソシエイトをやっていて、気づいたら、孤立してどうしようもなくなってしまいます(インハウスにでもなれない限り)。

3 書籍は充実しているか
 弁護士の基本は、徹底したリサーチにあると思います。ろくに法律・判例・実務動向を調べられない環境では、①依頼者に最善のプロダクトを提供できない、②自分自身も勉強(OJT・座学問わず)ができない、③そういう舐めた態度での仕事が基本だと思うようになってしまう、等と問題が極めて多いです。そして、大手法律事務所でないと、このような書籍の充実や判例検索システムの充実が疎かになっている例は往々にしてあると思います。
 当然、自分で本を買うのも大事なのですが、限界もあると思います。事務所に充実した本があるか、無いとしても買ってもらえるか、買ってもらえないとしても気軽に秘書に図書館で取得してきてもらえるか、そのあたりも気にかけると良いと思います。

4 人間関係はどうか
 弁護士の仕事はしんどいことが非常に多いです。そんな中、職場にまでストレスがあったら目も当てられません。弁護士同士はもちろん、秘書同士はどうか、弁護士と秘書の間はどうか、そのあたりも非常に重要な要素です。私は超体育会系縦社会の事務所にいたこともありましたが、それはとてつもなく苦痛でした(具体的エピソードはとても面白いのですが割愛します)。

5 ボスの人柄はどうか
 4と同じような話かもしれませんが、ボス(あるいはパートナー)の人柄はとても大事だと思います。アソシエイトを単なる労働力だと思っているのか、1人のプロフェッショナルだと思っているのか。アソシエイトがミスをしたときどんな態度を取るのか(対内的により、対外的にのほうが重要です)。将来の事務所のビジョンをどう考えている人なのか、それをアソシエイトと共有してくれる人なのか。
 私はボスとあまりに合わな過ぎて辞めた事務所もありました。その事務所はすべてをアソシエイトに丸投げし、アソシエイトの作業をチェックすらしていなかったことを棚に上げて、アソシエイトに当たり散らしていました。信頼関係の築けない相手と仕事なんて、できないですよね(弁護士の多くは準委任契約で働いていますが、準委任契約は、いつでも、どちらからでも、理由を問わず、解除できるのが大原則です)。

6 最後に
 (冒頭に書きましたとおり)正直書いてない要素はたくさんあり、もっと詳しく話を聞きたいという奇特な若手法曹・法曹志望者がいればいくらでも口頭でお話ししますが、今私は、いくつか働いてきた中でも一番忙しい事務所で、そこまでで一番多いわけではない報酬をもらいながら働いています。「コスパ」を考えれば微妙なのかもしれません。夜遅いし土日も仕事してるし、ブラックなのかもしれません。
 でも、最高に自分が成長できてるように感じられて、勉強になって、楽しいです。仕事を充実して取ってきてくれるボスがいること、優秀なボスやシニアアソシエイトに熱心に指導もしてもらえること、本をいくらでも買ってくれて、論文や判例のリサーチを徹底的にやれと日々言ってくれること、どれも本当に素晴らしいと思えています(早く帰りたいのは事実ですけどね笑)。私は楽にたくさん報酬がもらえるホワイトな事務所が最高なのではと昔は思っていましたが、その頃の自分と今の自分、おそらく数年経てば、別人のように力の差があると思います。自分の力がまったくついていないと思って精神的につらくなることも以前はありましたが、それも無くなりました。
 最後は単なる今の事務所に対するノロケですが、ただ報酬がよくて労働時間が短くて…といったことだけで事務所を考えて、私のようにしばらく放浪するという経験をされる方が少しでも減ると嬉しいです。経験は無駄ではなかったとは思いますが、転職を重ねるのは、非常に疲れました。

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