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Aesopの新作Virēre発売。アザートピアスの悪夢は終わったのか

私にとってバーナベ・フィリオンらしさとは、草、木、土、水といった自然の恵みと人間の五感を結びつける才能です。

イソップのフレグランスに失望してはや3年。2023年9月、アザートピアスコレクションが終わり、予想よりも早く新作「Virēre(ヴィレーレ)」がオンラインショップで先行発売されました。

イソップの11作目、フィリオンによる10作目のフレグランス。私にとって、過去の失望を払拭する作品になるのか否か。バーナベ・フィリオンが生み出す香りのファンとして、試香せずに購入するという賭けに出ました。その結果も含めたレビューをお届けします。

イソップのこれまでの香水については、別の記事で詳しく紹介しています。

Virēre | ヴィレーレ

https://www.aesop.com/jp/p/fragrance/fresh/vir-re-eau-de-parfum/

風薫る初夏の朝、新緑の香りに誘われるように、この香水は静かに物語を紡ぎ始める。

乾いた茶葉の芳香が、まるで茶園に踏み入った瞬間のように、静かに空気を満たす。バーナベ・フィリオンが織り綴ってきたイソップの世界。その入り口から漂う、散歩へ誘われるかのような緑の香り。深呼吸すれば、かすかな柑橘の苦みが顔を覗かせる。控えめながら深遠な物語を紡ぐその存在感は、フィリオンの繊細な調香技術を物語っている。

茶葉の奥底に潜むガルバナムのシャープな草の香りは、記憶の中の草原を駆け抜けた少年時代を蘇らせる。主要調香として名を連ねるフィグの直接的な香りこそないものの、そのクリーミーさは確かに存在し、香りに奥行きを与えている。

時が経つにつれ、シャープな茶葉の香りが和らぎ、まさにイソップの世界観そのものと言えるアーシーでハーバルな香りが立ち昇る。肌の上で長く香る調香技術と現代の感性を融合。ナチュラルな微笑みを放ち、肌に優しく寄り添う余韻。茶葉をいぶしたようなスモーキーさは、やがて大地の匂いへと変化していく。フィリオンがイソップとともに作り上げてきた、独創的な香りの変遷が感じられる。

グリーンティーを中心に、グリーンマテやヘイなど、さまざまな「緑」の香りが織りなす交響曲。時折感じられる苦みのある柑橘の香りは、物語の終わりに差し挟まれたほろ苦い現実の一片のよう。生命力溢れる草原の中を歩いているかのような感覚を起こさせるこの香りは、都会の喧騒を遠ざけ心に平穏を取り戻してくれる。

嗅覚を中心とした五感から言語へと昇華した文学作品。写真家の顔も持つフィリオンらしい感性が、この香りの中に見事に結実している。

調香師:Barnabé Fillion(バーナベ・フィリオン)
香りの強さ:★★★★☆
香りの持続時間:★★★★☆

まとめ

好きな調香師の新作を心待ちする気分は、好きなアーティストの新譜発売とまったく同じ感覚ですね。イソップがVirēreで「イソップらしさ」へ原点回帰したことをうれしく思います。

振り返るとアザートピアスは、結果的にバーナベ・フィリオンにとって不可解なコンセプトに対する新たなチャレンジになったのかもしれません。

Virēreにイソップらしさを期待している方々へ。これは紛れもなくバーナベ・フィリオンの調香です。ミドルノート中盤以降にヒュイルと似ている時間があります。ただ、それ以外はこれまでのどの作品とも似ていません。月曜日に店頭発売が始まりますので、そこで試してから購入を検討するのがよいでしょう🙋‍♂️

さて、次の話をするのは時期尚早かもしれませんが、私はイソップが将来、再び不可解なコレクションを展開すると予想します。今回のVirēreは価格から見てクラシックラインに分類されるはずです。クラシックラインのフレグランスは、香りの個性とクオリティの高さから見て、他のブランドよりも明らかに割安なのです。

ビジネスサイドの話を香りのレビューに書きたくはなかったですが、企業として、より利益を追求するコレクションを生み出すのは宿命といえるでしょう。だからきっと、再び悪夢は訪れます。

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