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令和2年一級建築士設計製図試験|「高齢者介護施設」本試験の講評と解答例の閲覧

1.A2の紙面構成の試行錯誤は今後も続くのか!

A2サイズの問題用紙になって3年目の試験となりますが、A2の紙面をどう使うかの試行錯誤は続いているようです。昨年と違った紙面構成を試験開始直後に先制して示すことで、受験者を動揺させようという意図はないとは思います。しかしながら、受験者からしたら見慣れぬものを見せられれば、心穏やかにというわけにはいかなくなることを想像します。

A2の紙面を4列で構成し、昨年までは、Ⅰ.2.(4)要求室までを1列目に記載していました。平成30年、令和元年とも1列目の行数に余裕がないことは見て取れますので、出題者は紙面による制約を受けながら問題文を書く必要があったと思います。今回、Ⅰ.2.(5)要求室を2列目に移したことで、出題者は要求室の表を書き進める上で、紙面による制約から解放されたことになります。3列目と4列目に関しては、Ⅱ.2.面積表の位置に違いはありますが、昨年までの2列目と3列目の紙面構成と変わっておらず、ここには出題者が使える紙面の余裕を残しています。また、今回Ⅰ.2.(4)に設備についての記載が加わっていますが、平成20年までの旧試験において定番であったものが復活した形になります。

来年以降も、こうした試行錯誤が続いていくのかは定かではありませんが、問題用紙の紙面構成は、問題文の情報量に一定のブレーキをかける役割もあると思います。敷地図の周辺状況を図示する範囲によって、令和2年型の紙面構成としたり、令和元年型の紙面構成に戻したりと、一定ではない可能性も残るようにも思いますが、平成29年から続いている試行錯誤も、そろそろ落ち着かせて欲しいものです。

2.道路からの後退距離と採光上の水平距離を確保するせめぎ合い

前面道路の反対側の南側と東側の隣地がともに住宅地で、道路からの後退距離の確保と、基準法が求める採光上の水平距離の確保との間で、せめぎ合う条件設定にしていたと言えます。まさに「あちらを立てればこちらが立たず」の中、どう折りあうかと言ったところだと思います。スパン割りと建築物の配置計画をはじめにしっかり検討しておかないと、後になって取り返しがつかなくなる法的な問題を生じさせることになりかねない出題であったと言えます。

解答例においては、当塾課題5の解答例のユニット階の空間構成、模擬試験でのライトコートによる自然採光の確保をベースにして、主に東・西面に個室と宿泊室を配置し、共同生活室とデイルームについてはライトコートによって自然光を取り込む想定で、スパン割りと立体構成の検討を行いました。法的に採光が必要となる要求室は、採光補正係数上有利な西側と北側、加えて隣地境界線からの水平距離を確保して東側に配置していく構想となります。

東西方向を5スパン(8・7・7・7・8m)、南北方向を4スパン(7・7・7・7m)とすることで、居住部門と居宅サービス部門の要求室を2階と3階に配置できる見通しを立てています。東・西のバルコニーまでの離隔を5mずつ確保することで、西側の道路斜線、東側の採光の確保と住宅地とのプライバシーの干渉に配慮することを可能にしています。北側は車寄せを計画することから建築物を後退させる必要があり南側に寄った配置となってきますので、南面は法的に採光の義務がない要求室を配置していくよう利用者ゾーンとサービスゾーンの構成を検討しました。

3.それぞれの玄関の設置により求められる空間構成

辞書によれば、『玄関とは建物の主要な出入口』となりますので、外部からの出入口をイメージする言葉であると思います。平成28年の『子ども・子育て支援センター』の要求室にも「保育所玄関」がありましたが、『保育所部門へは、エントランスホールから保育所玄関を経由して、アクセスできるようにする。』と特記されていましたので、エントランスホールから保育所部門への「入口」を求めていると解釈できました。

今回、居住部門に対してではなく、ユニットA~Cに対し「ユニット玄関」が要求されていますので、各ユニットへの「入口」が求められていると解釈できます。ユニットの性質上、ユニットAを通過しないとユニットBに行けないといった空間構成は避ける必要がありますので、適切なユニット単位の空間構成を求める手段として、「玄関(入口)」をそれぞれのユニットに求めていたと推測します。

当塾解答例を例にすると、1階北側のエレベーターホールへの入口に名称を付ければ「居住部門玄関」になると言えます。2階と3階には、各ユニットへの入口のある空間構成としており、各平面図に記入の通り、それぞれが「ユニット玄関」となります。
それぞれのユニットに「ユニット玄関」と呼べるところがない場合は、空間構成に起因する問題であると言えます。これに対して、居住部門への入口を「ユニット玄関」としてしまったけれど、それぞれのユニットに「ユニット玄関」と呼べる入口が計画できている場合は、図面表記上のミスであって空間構成に起因する問題とは分けて扱う必要があると考えます。

当塾解答例では、通所利用の高齢者が日々利用する居宅サービス部門は、1階に「居宅サービス玄関」を設け、専用の寝台用エレベーターで2階へ上がる計画としました。「訪問介護スタッフルーム」が同部門に要求されていますが、各家庭を日々訪問する訪問介護員の日常的な出入りを考慮すれば、1階に設けた方がいいと言えますので、『共用・管理部門に設けてもよい。』と特記しているものと思われます。以上、通所利用者や訪問介護員の日々の利用形態を踏まえ、「居宅サービス玄関」を1階に設け、居宅サービス部門内の1階に「訪問介護スタッフルーム」と専用の寝台用エレベーターを計画することとしています。

4.各平面図から読み取る架構形式と耐震計算ルートとの整合性

計画の要点等の(4)で、採用した耐震計算ルートが問われています。鉄筋コンクリート造を採用した場合、建築物の高さだけでなく、架構形式に応じて強度型か、靭性型かの違いが生じ、それぞれを対象とする耐震計算ルートが決まってくることになります。

ルート1より耐力壁等の要求量は少なくなりますが、ルート2-1は耐力壁の多い建築物を対象とします。ルート2-2は、大きな開口部のある壁や袖壁等の多い建築物を対象としますが、ルート1、ルート2-1と同様、耐震強度を確保するために耐力壁や柱に一定以上の断面を求める強度型になります。

当塾解答例では、ルート3を採用し、耐力壁を設けない純ラーメン架構とすることで靭性によって耐震性を確保することとし、耐力壁を設けていない各平面図との整合性を考慮しています。

5.最後の試練

毎年言えることですが、合格者でも難点はかかえているし、プランも一様ではありません。多くの人が同じように考えていることは、それが一般的なあり方で現実的な姿だと言えるかもしれませんが、大事なことは「なぜそうしているのか?」という理由が図面等から読み取れること、つまり考えを採点者に伝えられるかどうかだと思います。考えを伝えるためには、明確な考えをもって計画していくことが必要ですし、図面中に簡潔な文章や矢印等で補足し伝えることを可能にしています。

特定の要求室等の配置だけをみてプランは評価できるものではありませんし、他の要求室等との位置関係など…、様々な条件が絡んでいく中で全体の構成は決まっていくものです。それゆえに、各要求室については、全体つまり空間構成からみた評価と部分的にみた評価が必要であり、これらを混同してしまうと適切な評価はできないと言えます。人によって捉え方の分かれる漠然とした条件提示に対し、「ここだ」「これだ」といった決めつけから入るのではなく、可能性のあることを選択肢としてリストアップし、全体の構成を見据えながら取捨選択をしエスキースを進めていくことが大切だと考えます。両立が難しい「不可能」なことを、無理矢理可能としたように見せかけたところで、そこには「不自然」だけが残るものです。

後になれば色々な不安が出てくるでしょうが、結果は発表まで確定できるものではありませんので「待つ」ことが建築士の試験の最後の試練ではないでしょうか。


✳解答例(図面・計画の要点等)については、以下のホームページより無料で閲覧できます。

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