一級建築士設計製図試験におけるエレベーターの要求とその捉え方
平成21年~令和元年までの新試験を見てみますと、令和元年を例外としますが、エレベーターの欠落は『設計条件・要求図面等に対する重大な不適合』と判断され、ランクⅣに該当することになるとされています。
設計与条件におけるエレベーターの要求のされ方に着目し、そこから読み取れることを考察してみます。
1.エレベーターの用途による分類
はじめに、エレベーターの用途による分類を整理しておきます。
・乗用エレベーター
人の輸送を目的とする
・寝台用エレベーター
ベッドやストレッチャーに乗せた人の輸送を目的とする
・人荷用エレベーター
人と荷物の輸送を目的とする
・荷物用エレベーター
運転者のみが乗り込み荷物の輸送を目的とする
2.エレベーターのゾーニングによる位置づけ
エレベーターは、縦の動線になりますが、それが利用者の動線であれば「利用者用エレベーター」、スタッフや物の動線であれば「サービス用エレベーター」と位置づけられます。
例えば、各階のサービスゾーンを平面上の同じ位置に配置し、同じゾーンを上下階で重ねて立体構成することで、サービスゾーンを貫いてエレベーターを設けることが可能となります。
このように各階において、利用者ゾーンとサービスゾーンを構成し、それぞれのゾーンを上下貫くエレベーターを計画することで、利用者用エレベーターとサービス用エレベーターの位置づけが明快になります。平面的なゾーニングを各階整合させることで、縦の動線計画を行うということです。
3.これまでのエレベーターの要求と標準解答例における計画
平成21~26年までと平成30年では、『エレベーターを適切に設ける。』とだけ要求し、標準解答例においては利用者用エレベーター1基の他、プランによりサービス用エレベーター1基を計画していたりいなかったりとなっています。
以下、令和元年までの新試験における特徴的な要求と標準解答例での計画をあげてみます。
<令和元年>美術館の分館
・乗用エレベーター及び人荷用エレベーターを適切に計画する。(10月の本試験・12月の再試験)
・標準解答例①②(本試験・再試験)
利用者ゾーンに乗用1基
サービスゾーンに人荷用1基
<平成29年>小規模なリゾートホテル
・エレベーターは、客用及びサービス用として、それぞれ1基以上を設ける。
・標準解答例①
利用者ゾーンに客用2基
サービスゾーンにサービス用1基
・標準解答例②
利用者ゾーンに客用1基
サービスゾーンにサービス用1基
令和元年では、屋上設備スペースの特記事項に『機器のメンテナンスに配慮し、階段及び人荷用エレベーターを屋上に通じるように設ける。』とありますので、人荷用エレベーターをサービスゾーンに計画すればいいのだろうとわかります。また、10月の本試験の標準解答例②では、乗用に該当するエレベーターを「客用EV」と記し、利用者ゾーンに計画しています。
平成29年の標準解答例①では、客用エレベーターを2基計画しています。地上1階に設けた客室Cのある宿泊ゾーンから、宿泊者専用の大浴場とトレーニングルームのある地下1階へ直接通じる2基目の客用エレベーターを計画し、縦の宿泊者専用動線を確保しているのが特徴的なところです。
乗用エレベーターかつ人荷用エレベーターということは用途による分類上ありませんが、客用(利用者用)エレベーターかつ乗用エレベーターということはあり得ます。なぜなら、客用(利用者用)エレベーターとして乗用エレベーターを採用したり、サービス用エレベーターとして人荷用エレベーターを採用することはあるからです。
4.令和2年のエレベーターの要求
令和2年「高齢者介護施設」においては、『エレベーターは、寝台用及び人荷用をそれぞれ1台以上設ける。』と要求しています。
エレベーターの用途による分類名称により要求しているのは、令和元年と同じになりますので、同様の捉え方をすれば、利用者ゾーンに寝台用、サービスゾーンに人荷用を設ければよいとの解釈ができます。
平成23年「介護老人保健施設」においては、『エレベーターを適切に設ける。』との要求に対し、標準解答例①②とも利用者ゾーンに1台、サービスゾーンに1台計画しています。このことからも、令和2年では、利用者用エレベーターとして寝台用を採用し、サービス用エレベーターとして人荷用を採用するのが一般的な捉え方ではないかと思います。
人荷用エレベーターの要求をどう捉えるか?に苦慮した、例えばの話をしておきます。利用者ゾーンに寝台用と人荷用エレベーターを1台ずつ、サービスゾーンに任意でサービス用エレベーターを1台計画していた場合、「サービス用EV」と図示しているものを評価するとき人荷用を採用していると善意の解釈ができなくもありません。利用者ゾーンにある「人荷用EV」と記したエレベーターの使用目的に謎を残すマイナス要素はありますが、動線計画に破綻がなければ、寝台用1台と人荷用2台は『エレベーターは、寝台用及び人荷用をそれぞれ1台以上設ける。』という要求に反しているとも言い切れないように思います。
最後は余談になります。エレベーターの助数詞が従来の「基」ではなく、令和2年においては「台」としています。エレベーターを据え付けてある物として数える場合は「1基、2基…」となります。これに対して「台」は車や機械を数える助数詞になり、エレベーターを乗り物として数える場合は「1台、2台…」と数えます。寝台用、人荷用というように、人や荷物を輸送するエレベーターの目的(動線)に重きをおいた出題者のこだわりが助数詞に表れているのかもしれません。
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