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一級建築士設計製図試験で求める「延焼ライン」記入の変遷と基礎的な不適合

建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分の位置(延焼ライン)と防火設備の記入を求めるようになったのは、平成30年の本試験からになります。

5年目となる令和4年、「延焼ライン」の記入に対する記載内容を、言葉を濁すことなく改めてきましたので、与条件で求めてきたことの変遷を整理しておきます。

また、延焼ラインが未記入であれば、明らかに与条件に反することになりますので、採点上、どう扱われるのか考察してみます。

1.「留意事項」における要求の変遷

(平成30年・令和元年・2年・3年)
・建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分には、所定の防火設備を適切に計画する。

(令和4年)
延焼ライン(建築物の延焼のおそれのある部分の位置)を記入する。必要に応じて、延焼ライン及び防火区画(面積区画、竪穴区画等)に要求される所定の防火設備を適切に計画する。

当初は、法令に適合させるために所定の防火設備を設けることが主目的で、この根拠を示すものとして延焼ラインの記入があったと思われます。問題に記載される「留意事項」においては、上記の通り令和3年までの4年間、記載内容は変わらずでした。

令和4年になって、延焼ラインを記入することを、まず求める形に改めてきています。その上で、法令上必要がある外壁の開口部には所定の防火設備を設けるというニュアンスの表現に変わっています。延焼ラインの記入を独立させ、格上げしたような要求の仕方に改めているように思います。

2.「各平面図」に記入する特記事項の変遷

(平成30年・令和元年)
・建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分の位置及び防火設備

(令和2年)

・建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分の位置及び当該部分に設ける防火設備

(令和3年)

・建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分の位置(延焼ライン)及び防火設備

(令和4年)

・延焼ライン(建築物の延焼のおそれのある部分の有無にかかわらず必ず記入する。
・延焼ライン及び防火区画に用いる防火設備の位置及び種別

「各平面図(要求図面)」においても、令和3年までは多少の表現の違いはありますが、「延焼ライン」と「防火設備」の記入を対で求めていることは共通していると思います。

対は2つ揃ってということになりますので、「建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分が存在する場合」(問題の凡例にある表現を拝借)は、「延焼ライン」と「防火設備」を対で記入する必要があったと解釈できます。これを裏づけるものとして、令和元年本試験(10月13日実施)の標準解答例②にある「この計画においては、1階は敷地境界線から3m以内に建築物の部分がないため、延焼ラインの図示を省略している。」という記載が挙げられます。

令和4年の問題においては、「留意事項」と整合させる内容で、上記の通り「延焼ライン」と「防火設備」を切り離して、それぞれの記入について特記しています。

3.「延焼ライン」未記入の扱いについて考えてみる

すでに述べた通り令和4年の問題では、延焼ラインは「建築物の延焼のおそれのある部分の有無にかかわらず必ず記入する。」ものだと、明確な表現で要求されました。

ここで、令和4年の敷地条件に照らしてみます。
東側は公園ですから延焼ラインが発生しません。
北側と南側は、ともに幅員10mの道路で、2階以上の延焼ラインは、ちょうど道路境界線になりますが、境界線上に建築物の外壁の開口部が計画されることはまずありません。
したがって、建築物の平面的なボリュームから建築物に延焼のおそれのある部分が存在する可能性は、西側のみになると言えるでしょう。

有無にかかわらず必ず記入する。」とあるうち、建築物の延焼のおそれのある部分が「有」になるのが西側だとすると、「無」に当たるのは北側と南側しかありません。道路境界線上の延焼ラインも記入しなければ、要求通り必ず記入したことにならないと解釈することもできます。

「必ず記入する」ことを求める最初の年で、よりによって道路境界線上になるような延焼ラインの設定としたことの意図は何なんだろう?と思います。ただし、建築物の西側に延焼のおそれのある部分が有っても無くてもという意味で「必ず記入する」としている可能性もあり、これは出題者のみ知るところです。

昨年の合格発表時に受験者の答案の解答状況として、「設計条件に関する基礎的な不適合」「法令への重大な不適合」が公表されています。「道路高さ制限への適合が確認できる情報の未記載」が一例として挙げられていますが、「設計条件に関する基礎的な不適合」であって、「法令への重大な不適合」という扱いではありませんでした。当然「道路高さ制限」は、「法令への重大な不適合」の一例に別途挙げられています。未記載と不適合(道路斜線にかかる)は、当然評価が違うことがわかります。

ここから考えると、「延焼ラインの未記入」「設計条件に関する基礎的な不適合」とされる可能性はありますが、「法令への重大な不適合」と判断されるものではないと思います。建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分が存在する西側において、延焼ラインに用いる防火設備の位置及び種別が記入されていない場合は、当然「法令への重大な不適合」という判断になるでしょう。これが、未記入と不適合の評価の違いになります。

4.「設計条件に関する基礎的な不適合」について考えてみる

(令和元年)
「要求されている室の欠落」や「要求されている主要な室等の床面積の不適合」

(令和2年)
「各ユニットのゾーニング等が不適切」、「要求している室の欠落」、「要求している主要な室等の床面積の不適合」等

(令和3年)

「要求している主要な室等の床面積の不適合」、「道路高さ制限への適合が確認できる情報の未記載」

以上が、合格発表時に受験者の答案の解答状況が公表されるようになってからの3年間の内容です。「ランクⅢ及びランクⅣに該当するものが多く、具体的には以下のようなものを挙げる ことができる。」として、公表されているものです。

上記に挙げられたものは「法令への重大な不適合」を除いたものとなりますので、ランクⅣの該当要件のうち、以下の何れかに当てはまらなければ、即ランクⅣで失格と判断されることはないと考えます。
・合格発表時に指定の要求室・施設等のいずれかが計画されていないもの
・設計条件を著しく逸脱しているもの

「要求されている室の欠落」については、合格発表時に指定された室でなければ、即ランクⅣにはならないはずです。ランクⅢに近づく要因(減点)にはなっても、そのことだけをもって即ランクⅢにはならず、ここがランクⅣと異なるところだと推測します。勿論、指定された室の欠落なら即ランクⅣとなります。

令和元年の本試験、200㎡以上と要求された多目的展示室を196㎡で計画して合格している人もいました。「要求されている主要な室等の床面積の不適合」に該当し減点されていると思われますが、この不適合が即ランクⅣと判断されるものではなかったことは明らかです。つまり、「設計条件に関する基礎的な不適合」があっても、これだけで不合格が決まるものではないと言えそうです。

「設計条件に関する基礎的な不適合」と括られているものは、「設計条件を著しく逸脱しているもの」ばかりではなく、不合格者に限らず、合格者の答案にも見られるものであるように思います。

「道路高さ制限への適合が確認できる情報の未記載」を含む「設計条件に関する基礎的な不適合」、仮に建築物の外壁にかからない「延焼ラインの未記入」がこれに当たるとしても、減点に留まり、これだけで不合格になるものではないと考えます。


以下の記事も参考にしてみて下さい。


*以下にある「webサポート資料室|設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。


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