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令和4年一級建築士設計製図試験|「事務所ビル」本試験の講評と解答例の閲覧

1.設計の自由度を高める出題⎯ 試験内容の見直し時の言葉その①⎯

平成21年試験内容の見直し時の公表内容にあった「設計の自由度を高める出題」という言葉に、改めて注目してみます。昨年は例外になりますが、平成23年以降、構造種別は全て「自由」として出題されてきています。「自由」とは言いつつ、無柱空間が求められた平成22年の標準解答例①の構造種別が「鉄筋コンクリート造(一部プレストレストコンクリート梁)」とされていたことから、以降は、与条件に無柱空間とあれば、プレストレストコンクリート梁が定番となっている感があるのは否定できないところです。

今回、階数が「自由」とされていましたが、基準階型で各階が大きな事務室で構成される「事務所ビル」だからこそ、できる出題の仕方だと思います。実際、当塾においても、設計の自由度を高める最初の年となる平成21年の「貸事務所ビル」の模擬試験は階数「自由」で出題していました。そして今年の「事務所ビル」でも、課題5を階数「自由」で出題しています。

来年以降、床面積の合計は、この2年間のように容積率の限度のみが条件になる可能性はありそうですが、階数が「自由」になる可能性はあるのか?……繰り返しになりますが、基準階型かつ事務所ビルだからこそ、できた出題の仕方だと考えます。

2.室構成や床面積を大括りの設定⎯ 試験内容の見直し時の言葉その②⎯

見直し時の公表内容に、設計の自由度を高める出題の例として「室構成や床面積を大括りの設定とする」とあります。昨年の「学習塾」と今年の「シェアオフィス」の出題の仕方は、大括りの設定と言えるように思います。シェアオフィスは、要求室の1つとして出題されていますが、特記事項に示される①~⑦までの室等をシェアオフィス内に計画する必要がありますので、シェアオフィスゾーンの中に、各室を計画することが求められていると解釈してもいいのかもしれません。ただし、シェアオフィスもテナントの一つと考えることができますので、セキュリティの区分を明確にするため、出入口を図示することが求められていたと思われます。

要求室の床面積の条件を、適宜以外、「○○㎡以上」と全て下限値を示す形にしていることも、今年の出題の特徴的なところです。「以上」とはいえ、10㎡以上と要求される常駐1人の「管理人室」が100㎡もあったら、それは「異常」になりますので「下限値付き適宜」の面があるのも、「以上」のもつ意味ではないかと思います。

そんな中、「基準階の合計3,000㎡以上」という表現がありました。ここだけ切り取ると、文字通り「基準階の合計が……」となりますが、記載されている欄は、そもそも要求室である貸事務室Aと貸事務室Bの床面積として読解しなければならないところです。出題者は、わかりやすくするつもりで、「基準階の合計」と補足していたのだろうと想像しますが、平成29年の客室に対する要求のように「計」を用いて「計3,000㎡以上」としておいた方が、緊張感漂う状況下で反射的に生じる誤解は少なかったように思います。1,536㎡の敷地に貸事務室AとBを合わせて1フロアで3,000㎡以上計画することは不可能なわけですから、「計」の解釈は難しくはなかったと考えます。

3.部門構成⎯ 昨年と今年の共通点⎯

昨年は、表向き「集合住宅」として課題名が公表されましたが、問題の冒頭、実は「テナントを併設した賃貸集合住宅」であったことを明かしています。今年も同様、「事務所ビル」とは表向きのことで、実は「レストランを併設した貸事務所ビル」であったことが、問題の冒頭でわかります。

要求室の部門構成も、昨年が「住宅部門・テナント部門・設備」であったのに対し、今年は「事務所・レストラン・設備」と、異なる機能を併設してはいますが、共用部門がないことが共通しています。この辺は、出題者が描く空間構成の好みというか、特徴的なところだと言えそうです。

昨年の標準解答例は、①②とも住宅部門とテナント部門とは屋内での繋がりをもたせていません。部門構成の特徴が類似した出題であることから、事務所とレストランとの屋内での繋がりをもたせる必要はないと考えます。つまり「事務所のエントランスホール」からレストランへ直接アプローチできてもできなくてもよく、利用者の利便性から各自で判断すればよいことだと思います。

4.塔屋を除く建築物の高さ⎯ 6年ぶりの要求⎯

南-北断面図の特記事項で記入を求めているのが、「建築物の最高の高さ」ではなく「塔屋を除く建築物の高さ」になっていますが、この要求は平成28年以来となります。果たしてこの要求がもつ意味は何なのか?少し考えてみます。

「太陽光発電設備を除く屋上設備スペース」と「塔屋」からなる「屋上部分」の面積が建築面積の1/8以内であれば、「屋上部分」は高さに算入しなくてよいことになります。仮に塔屋が道路斜線にかかったとしても、建築物の高さに不算入となる「屋上部分」であれば、法不適合にはなりません。

「屋上部分」の面積が建築面積の1/8以内であるかどうかは要求図面では不明であることを前提に、パラペットが道路斜線にかかっていないことをもって、公平に道路高さ制限への適合を確認する、こんな採点上の意図があって「塔屋を除く建築物の高さ」を記入させているのではないかと想像します。

とはいえ、塔屋が道路斜線にかかる答案には勇気がいります。やむを得ず……という場合には、「屋上部分を建築面積の1/8以内で計画」との補足はしておきたいところだと思います。

5.最小後退距離の算定⎯ 採点上の庇の扱い⎯

「岐阜県建築基準法運用指針」では、「後退距離は、壁、柱、庇、バルコニー、出窓、屋外階段等を含めた、建築物から前面道路までの最小水平距離とする。」とし、令第130条の12第二号の「ポーチその他これに類する建築物の部分」の扱いを以下のように定めています。
 ア.車寄せは該当する用途とする。
 イ.庇は非該当の用途とする。
つまり、後退距離の算定において、「車寄せ」はポーチに類するものとして令第130条の12第二号の緩和規定を適用するが、「庇」は緩和の対象としないことになると思われます。

また、「大阪市建築基準法取扱い」でも、「ひさし、バルコニー、出窓及び面格子等の建築物と一体となった部分は、後退距離として建築物から除く部分にならない。」としています。

岐阜県や大阪市の後退距離の取扱いに照らして、令和元年再試験(12月8日実施)の標準解答例①と②にある「厨房・ポンプ室・荷解き室」の出入口に注目してみます。標準解答例②では、3室とも出入口が公園側にあり、その上部には庇が設けられています。

これに対し標準解答例①は、②と異なり3室の出入口とも道路側にありますが、出入口の上部を見ると3箇所とも庇を設けていません。仮に②と同様に庇を設けたとしても、庇の幅を合計した間口率は1/5以下になりますが、それでも庇を設けていません。また、断面図には道路斜線が図示されていますが、パラペットとの差325mmと余裕のない設計であることが見てとれます。
ここで、標準解答例②と同様に3室の出入口上部に庇を設け、最小後退距離が庇までの2mだと仮定して道路高さ制限を計算してみます。
 (2+8+2.65)×1.25=15.8m<16.3mとなり、パラペットが道路斜線にかかってしまいます。

標準解答例①と②に見られる庇の有無の違いが、道路高さ制限に係る最小後退距離の算定において、庇はポーチに類する建築物の部分として扱わず、後退距離として建築物から除く部分にならないことを示唆したものであるのか?……採点上の取扱いは想像の域を出ることができません。

岐阜県や大阪市の後退距離の取扱い、令和元年再試験の標準解答例を踏まえ、当塾では、令和2年より要求図面の特記事項で、下記の通り平面図に最小後退距離の記入を求め、庇はポーチとは異なる扱いで後退距離を算定するものとして、安全側の指導をしてきています。
 ・建築物の最小後退距離〔道路高さ制限における建築物(壁、柱、庇、バルコニー、屋外階段等を含む。)から道路の境界線までの水平距離のうちそれぞれ最小のもの〕

昨年の標準解答例②では、庇を最小後退距離の対象にしていますが、間口率が1/5以下でないため、庇をポーチに類する建築物の部分として扱えるのか扱えないのか、採点上の見解が示されたものにはなっていません。この点について、今年も標準解答例に記載されるであろう「今後の学習に向けて」で、法令に関する採点上の考え方として明らかにして欲しいものです。

6.最後の試練⎯ 恒例の締めくくり⎯

毎年言えることですが、合格者でも難点はかかえているし、プランも一様ではありません。多くの人が同じように考えていることは、それが一般的なあり方で現実的な姿だと言えるかもしれませんが、大事なことは「なぜそうしているのか?」という理由が図面等から読み取れること、つまり考えを採点者に伝えられるかどうかだと思います。考えを伝えるためには、明確な考えをもって計画していくことが必要ですし、図面中に簡潔な文章や矢印等で補足し伝えることを可能にしています。

特定の要求室等の配置だけをみてプランは評価できるものではありませんし、他の要求室等との位置関係など……、様々な条件が絡んでいく中で全体の構成は決まっていくものです。それゆえに、各要求室については、全体つまり空間構成からみた評価と部分的にみた評価が必要であり、これらを混同してしまうと適切な評価はできないと言えます。人によって捉え方の分かれる漠然とした条件提示に対し、「ここだ」「これだ」といった決めつけから入るのではなく、可能性のあることを選択肢としてリストアップし、全体の構成を見据えながら取捨選択をしエスキースを進めていくことが大切だと考えます。両立が難しい「不可能」なことを、無理矢理可能としたように見せかけたところで、そこには「不自然」だけが残るものです。

後になれば色々な不安が出てくるでしょうが、結果は発表まで確定できるものではありませんので「待つ」ことが建築士の試験の最後の試練ではないでしょうか。


*解答例(図面・計画の要点等)については、以下をタップ又はクリックすると無料で閲覧できます。

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