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一級建築士設計製図試験において床面積を記入すべき要求室

要求図面の特記事項にある「要求室の床面積の記入」について、旧試験から平成21年・22年の新試験までと、平成23年以降とでは、要求内容に違いがあります。そして受験資格等試験制度が改められた令和2年の試験では、再び平成22年以前のような要求内容に戻しています。

こうした変遷に基づき、要求図面の特記事項の記載内容と標準解答例とを照らして、床面積を記入すべき要求室について整理しておきます。

1.平成22年まで

平成22年「小都市に建つ美術館」を例に見ていきます。

<要求図面の特記事項>
①1階平面図兼配置図及び2階平面図には、次のものを図示又は記入する。
ト.常設展示室、市民ギャラリー、ホワイエ、収蔵庫、搬入・荷解き室、エントランスホール、ミュージアムショップ、アトリエ、研修室、レストラン、事務室及び設備機械室の床面積

要求室は全17室になり、このうち上の12室について床面積の記入を求めています。標準解答例①②を見てみると、床面積の記入を求めていない5室については、床面積の記入はありません。

以上により、要求図面の特記事項で指定されている要求室のみ床面積を記入すればよいと解釈することができます。

2.平成29年まで

平成23年以降は「要求室の床面積」について下記のように要求されてきていました。平成22年までと比較すれば、文字通り全ての要求室に対して、床面積の記入を求めていると読めます。

平成29年「小規模なリゾートホテル」を例に見ていきます。

<要求図面の特記事項>
①各平面図には、次のものを図示又は記入する。
ハ.要求室の床面積

要求室は全18室になり、標準解答例①②を見てみると、「多機能トイレ」を例外(従来より原則便所は未記入)としますが、「リネン室」や「エントランスホール」を含めた17室について床面積が記入されています。

以上により、便所は例外として、全ての要求室について床面積を記入する必要があると解釈することができます。

3.平成30年と令和元年

問題用紙をA2サイズに変更するなど、出題に試行錯誤が見られるようになっていますが、床面積の記入については、平成29年までと同じ要求になります。しかし、同じ要求でありながらも、平成30年「健康づくりのためのスポーツ施設」の標準解答例①②とも、「エントランスホール」の床面積を、なぜか?記入しなくなっています。

さらに令和元年「美術館の分館」の本試験と再試験の4つの標準解答例においては、前年同様「エントランスホール」の床面積の未記入に加え、「講師控室」や「ショップ」の床面積を記入していたりいなかったりと、平成29年までとは異なり、床面積の記入に対する要求をストレートに解釈できない度合いを高めています。

要求図面の特記事項を読めば、平成29年までと同じように要求室の床面積の記入を求めていることに違いはありません。しかし、標準解答例では、おそらく意図的に全ての要求室に床面積を記入しておらず、何を記入すべきか?受験者としては、困惑するしかなかったと言えます。

4.そして令和2年

平成30年と令和元年は、これまでと同じ特記事項で要求しておきながらも、採点する上では限られた要求室への記入のみ見ているのだと、標準解答例によって試行錯誤をほのめかし、令和2年の新たな出題に向けた伏線を張っていたというのは勘繰り過ぎでしょうか?

以上のような変遷を踏まえ、令和2年「高齢者介護施設」における要求図面の特記事項を見ていきます。

<要求図面の特記事項>
①各平面図には、次のものを図示又は記入する。
ハ.個室、共同生活室、スタッフルーム、宿泊室、デイルーム、事務室、地域交流スペース、消火ポンプ室及び受水槽室の床面積その範囲

平成22年までと同様に、指定された上の9室について床面積を記入すればよいと解釈することができます。

また、「その範囲」とありますが、これについては「デイルーム」や「地域交流スペース」のように、壁と扉で区画された室でないスペースになる場合、点線等で範囲を明示しておかないと、床面積の根拠をどのように考えているのかが伝わらないため要求しているものと思われます。下図に示す令和元年再試験の標準解答例②の「50㎡のホワイエ」の図示の仕方から、「その範囲」を求めている意図を察することができるのではないかと思います。点線がなく、「ホワイエ(50㎡)」とだけあっても、その範囲がわからないということです。

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(公財)建築技術教育普及センターHPより

5.記入漏れをなくす対策

安全策としては、全ての要求室に床面積を記入しておく習慣が一つあると思います。採点する立場としても、記入してあった方が図面情報として助かる面もあります。

しかし、試験の答案として考えると、指定された要求室の床面積の記入漏れは避けなくてはなりません。皮肉なもので、1室だけあった記入漏れに限って、それが指定された要求室であったりすることもないとは言えません。

作図の手順もあるでしょうから、全ての要求室の床面積をまず記入する習慣も一つあると思います。ただし、この場合でも、記入漏れのチェックは、指定された要求室に限るのが得策ではないかと考えます。チェック漏れを避けるため、チェックを絞り込むという考え方です。


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