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一級建築士設計製図試験の採点に見られる試行錯誤とその対策

1.不合格者を母集団とする各ランクの占有率

 まず、平成27年から令和元年までの過去5年間について、不合格者を母集団とした場合の各ランク(Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ)での不合格者が占める割合(占有率)を見てみます。
 平成21年の新試験以降、平成28年までは合格率がほぼ一定(平均41%程度)に推移してきていましたが、平成29年以降の3年間は何かが違ってきており、一定とは言えなくなっています。そこで各年の採点の結果を比較するため、不合格者のみを母集団とした場合の各ランクの占有率を出しています。

<H27>Ⅱ:42.3%・Ⅲ:39.2%・Ⅳ:18.5%
<H28>Ⅱ:47.1%・Ⅲ:36.0%・Ⅳ:16.9%
<H29>Ⅱ:34.0%・Ⅲ:48.0%・Ⅳ:18.0%
<H30>Ⅱ:27.8%・Ⅲ:28.1%・Ⅳ:44.1%
<R元>Ⅱ:  6.7%・Ⅲ:47.5%Ⅳ:45.8%

✳採点結果の区分は、下記とされています。
ランクⅡ:「知識及び技能」が不足しているもの
ランクⅢ:「知識及び技能」が著しく不足しているもの
ランクⅣ:設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの

 直近の3年間ランクⅡが減少傾向にありましたが、令和元年では、ガクッと10%を切っています。平成29年から何かが違ってきていると思われる中で、令和元年は台風の影響で、本試験と再試験で2回の実施となりました。10月実施の本試験で衝撃的な採点の結果が出たとき、問題の特徴による極端な例外かとも思いました。しかし、12月実施の再試験でも、例年に比べランクⅡが極端に少ない点は共通しており、各ランクの占有率もほぼ同じ結果になっていました。
 2回の試験とも採点の結果に同じ特徴が見られましたので、問題の特徴による極端な例外ではなく、令和元年の採点の結果の特徴として、本試験と再試験を一つにまとめたものを上に記して、傾向を見ていくことにしています。

2.各ランクの占有率を左右している要因

 各ランクの占有率を左右している要因として、以下の3つが考えられます。
  ①受験者全体のレベル
  ②問題の難易度
  ③採点上の各減点要素の比重の変更

 ①については、受験者全体のレベルが、年によってそう大きくは違わないだろうと思いますので、各ランクの占有率への影響は大きくないと考えます。ランクⅡが減って、その分ランクⅢとⅣが増えている傾向に象徴されるほど、受験者全体のレベルが下がっているとは思えません。むしろ、作図のスピードは、ここ数年間で目まぐるしく進化してきています。スピードだけで合格できるものではありませんが、努力の結果であることに間違いはなく、受験者全体のレベルの低下によって、ランクⅢとⅣが増えてきているとは考えにくいと言えます。
 ②については、毎年設計課題が違いますので、単純に比較はできないところがあると思います。前述の通り平成28年までは合格率がほぼ一定で、各ランクの占有率も大きくは違っていませんでした。毎年の設計課題による難易度に差はあったはずですが、これによって、採点の結果に、際立った違いは見られなかったことになります。また、令和元年の2回の試験に難易度の違いはありましたが、各ランクの占有率は、ほぼ同じ結果になっていることからも、問題の難易度によって大きく左右されているとは考えにくいと言えます。
 ③については、令和元年におけるランクⅣに該当する要件の一つに、『法令の重大な不適合等、その他設計条件を著しく逸脱しているもの』が示されていることが大きな変化かと思います。平成30年までは、『法令の重大な不適合等、』という記載はありませんでしたので、ここを厳格に採点した意思表示であると思います。平成30年も、不合格者中のランクⅣの占有率が40%を超えていましたので、法令に対し厳格な採点が行われたと想像しますが、平成30年の採点のポイントを読んでも、法令云々を採点上のランクⅣの根拠にできる記載が見当たりません。『その他設計条件を著しく逸脱しているもの』の中に法令についても含めて採点したのだろうと思われますが、翌年の令和元年では、それを明示し、採点上の比重の変更を明らかにした形になります。
 平成29年から問題文の量が年々増加し、出題に試行錯誤が見られます。同時に、採点の結果に見られる各ランクの占有率にも変化が見られるのが平成29年からであり、採点上の各減点要素の比重の置き方に、やはり試行錯誤が見られます。

3.各不合格ランクの減点要素を1枚ずつ剥がしていった先にある合格

 ランクⅡであった人は、ランクⅡになる要素を取り除くことができれば間違いなくランクⅠで合格となるはずです。
 ランクⅣであった人は、ランクⅣになる要素が取り除けたとしても、ランクⅢとされる可能性があったと言えます。さらにランクⅢになる要素が取り除けたとしても、ランクⅡで終わる可能性も当然残ります。勿論、ランクⅡ、ランクⅢになる要素がなく、ランクⅣに該当してしまう失敗もあり得ますが、対策としては、各不合格ランクの減点要素を1枚ずつ剥がしていく考え方を取った方が確実だと思います。
 以下にある画像は、当塾で答案の採点を行う際に使用している「チェックシート」のイメージ画像になります。
 令和元年の試験でランクⅢであった受験者の再現図面をチェックシートに照らしたとき、ランクⅢの評価になるようにするなど、採点上の各減点要素の比重の変更を行ったのが令和2年版のチェックシートになります。
 チェックシートでは、例えば、課題の評価がランクⅢだった場合、そのランクⅢの減点要素を取り除いたときに、ランクⅡになる要素が残っているのかいないのかが、可視化できるようになっています。
 図面答案に個性があるように、減点要素の分布の仕方にも個性が出てくるものです。各課題特有の減点要素であったのか、毎回繰り返す減点要素であるのかをはっきりさせ、後者であるなら、自分の減点要素の分布の特徴を把握し、薄皮を1枚ずつ剥がすように各ランクの減点要素を取り除いていくことが、対策として重要だと考えます。

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