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一級建築士学科試験と設計製図試験から見た2方向避難における家具の配置と歩行距離の測り方

合格発表時に公表されている通り、設計製図試験において「法令への重大な不適合」と判断されかねないのが、「直通階段に至る重複区間の長さ」や「避難経路」になりますので、歩行距離に関する考え方をよく理解しておくことは重要です。
勿論、令和3年に出題されていますので、学科試験においてもです。

まず、令和3年一級建築士学科試験での出題になりますが、以下の記述を「最も不適当なもの」としています。

居室内避難における歩行距離は、一般に、家具の配置にかかわらず、出口に最も遠い地点から出口までの直線距離とする。

令和3年一級建築士試験 学科Ⅱ(環境・設備)〔No.5〕より

次に、「見出し画像」の中にある図は「建築基準法及び同大阪府条例質疑応答集」からの引用で、大阪府では歩行距離の測り方を、以下のようにしています。

歩行距離(重複距離も同様)の測り方は、壁面から50㎝の位置の最長距離とする。ただし、家具等の配置によっては、斜め歩行でもやむを得ない場合もある

建築基準法及び同大阪府条例質疑応答集 改訂6版より

これらを踏まえて、以下の観点から考察してみます。

1.家具等の配置を考慮すべきか?

令和3年学科試験における「出口に最も遠い地点から出口までの直線距離」というのは、大阪府が言うところの「斜め歩行」になると思われます。

大阪府では、「斜め歩行」を原則無効とした上で、「家具等の配置によっては」と、条件付きで「斜め歩行」を認める場合もあるとしています。
令和3年学科試験では、「家具の配置にかかわらず」を前提とした上で、「斜め歩行」で良しとする出題になりますので、大阪府の取扱いを根拠に、不適当な記述であると判断することができます。

また、姫路市においても、「建基政令第120条の居室等の歩行距離は、火災時等の避難を想定したものであるから、室内の間仕切り、家具等を考慮したものとする必要がある。」としています。

2.法令への重大な不適合に当たるのか?

設計製図試験の合格発表時に「受験者の答案の解答状況」が公表され、「法令への重大な不適合」の例がいくつかあげられています。
令和元年から4年までの歩行距離に関する内容に着目すると、以下の例があります。
・直通階段に至る重複区間の長さ(令和元年本試験・再試験、2年)
・避難経路(令和4年)

重複区間の長さは、歩行距離を「斜め歩行」として測るか、家具等の配置を考慮したものとするかによって違いが出てきます。勿論、後者の方が長くなります。

令和3年学科試験において、無条件に「斜め歩行」とすることは適当ではないとする考え方が示されていますので、大阪府等の取扱いも加味すると、家具等の配置を考慮した歩行経路とすることが、試験においても安全側の判断だと言えそうです。

では、家具等を図示していない居室からの歩行経路を「斜め歩行」としていたら、「法令への重大な不適合」と判断されるのか?を考えてみます。
これまでの本試験の標準解答例や各行政による取扱いの違いを考慮すると、法令不適合との判断にはならないと思われます。勿論、重複区間の長さが法令に適合している前提の話です。

それでも、自ら図示した家具等の上を歩行経路とするような「斜め歩行」はどうかと思いますが、どうかと思うようなことを標準解答例が示しているのも事実としてあります。(令和元年本試験①②、平成26年本試験②)
歩行距離の考え方は、試験の合否を左右すると言っても過言ではない重要なところですが、これまでに示された標準解答例によって、考え方の正否を惑わされるところもあります。

3.標準解答例の真意はどこに?

以下は、令和4年と元年本試験の標準解答例の一部引用になります。

「令和4年本試験 標準解答例①」(公財)建築技術教育普及センターHPより


「令和元年本試験 標準解答例②」(公財)建築技術教育普及センターHPより

令和4年本試験の標準解答例は、2案とも家具等の配置を考慮して歩行経路を取っています。また、令和2年と3年でも、ともに室内の間仕切り、家具等を考慮したものとなっています。
これに対し、令和元年本試験の標準解答例は、2案とも「家具の配置にかかわらず、出口に最も遠い地点から出口までの直線距離」を歩行経路として、令和3年学科試験で不適当とされる避難計画をしているようです。
令和元年12月に実施された再試験の標準解答例では、2案とも本試験と同じ用途のアトリエに対し、家具等の配置を考慮した歩行経路に改めています。
学科を含めた試験上の正否の考え方として、少々矛盾が生じていると言えます。

令和元年設計製図試験では、本試験・再試験とも法令に適合しない答案の解答状況に「直通階段に至る重複区間の長さ」をあげ、ランクⅣが多かった原因の一つとしています。
家具等を図示した居室であっても、それを考慮せず「斜め歩行」とすること自体は、法令不適合にはならないと、令和元年本試験の標準解答例から読み取ることができます。(再試験で測り方を改めていることの真意は大変気になるところですが……)

余談になりますが、令和元年本試験の標準解答例をじっくり見る必要があった人が、訳あって令和3年に学科試験を受けていたとしたら、「家具の配置にかかわらず」という記述に対して、適当であると判断したくなったと想像します。

令和元年本試験の標準解答例と、令和元年再試験・令和2・3・4年の標準解答例で示されている歩行距離の測り方には、やはり大きく違うところがあり、どこまでを是としていいのか?……受験者を惑わす種を残していると言えます。

特に設計製図試験において、家具の図示が求められている居室の歩行経路を、家具の存在を無視した「斜め歩行」にしないと重複区間の長さが法令不適合になってしまうような場合、どうすることが最もダメージを抑える判断になるのだろうか?……考えておく必要はありそうです。

プレイルームや多目的スポーツ室等、室内の間仕切りや家具等を考慮する必要のない居室については、標準解答例でも「斜め歩行」としています。


*以下にある「webサポート資料室|法規分室と設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。

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