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本の紹介①『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

最近、久々に小説を読みました。 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』です。


小説を読むこと自体、最近8年ぶりくらいに『君のクイズ』を読んだほどご無沙汰でしたが、SF小説はもはやほとんど初めてで、なんとなく興味はあるけど手を出せていないジャンルでした。


『プロジェクト・ヘイル・メアリー』については、半年ほど前に「ゆる言語学ラジオ」(ゆるコンピュータ科学ラジオ)の堀元さんが激推ししていたので気になりつつも、「長編小説読めるかなあ…。」と遠ざけてしまっていたのですが、


X(Twitter)で見かけた#2023年の本ベスト約10冊での紹介も見かけて読むことを決意し、図書館で借りて読むことにしました。


本好き(特にSF好き)の界隈の中では相当に評価されている印象でしたが、図書館では特に予約も要らずすんなり借りられました。一般にはそんなに広まってないのかも・・・?


通勤の電車の中で読み進めましたが、最高でした
面白すぎて通勤時間が楽しみになり、仕事が終わるのが待ちきれないほどでした。

2026年に映画化も予定されているようで、あれが映像化されるのかと楽しみでたまりません。


この本の魅力をネタバレなしに語るのはかなり難しいです。
前情報なしで読んでほしいため、少しでも読む気もある人には「何も言わずに読め」と言いたいくらいです。


そのため、今回はネタバレ度を3段階で上げていく方式で紹介します。
まったく読む気がない人は最後まで、「読んでみようかな…?」とチラッとでも思った人はその時点でこの記事を読むのをやめて、本にあたってください。




紹介①:ぜひ読んでみたい方へ ネタバレなし感想

ネタバレなしで紹介できる前情報は、商品紹介の内容くらいです。

地球上の全生命滅亡まで30年……。 全地球規模のプロジェクトが始動した! グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号──。 ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。

『火星の人』で火星の、『アルテミス』で月での絶望的状況でのサバイバルをリアルに描いた著者が、人類滅亡の危機に立ち向かう男を描いた極限のエンターテインメント。

Amazon紹介文

奇妙な状況で目が覚めた主人公は、科学的な知識は思い出せるもののエピソードの記憶はかなりあやふや。自分はどうやら宇宙船にいるようで、そこでの探索を続けながら、段々と過去の記憶も蘇っていきます。


この小説は、以下の2パートで構成されています。

  • 現在:宇宙パート

  • 過去:地球パート(記憶)

この2パートが交互に行き来しながら、宇宙パートで何かあるたびに地球パートを思い出す、または地球パートの記憶を手がかりに宇宙パートの探索をする、という形式を取っています。

これが面白く、読者も主人公もよくわかっていない状況が段々とクリアになっていき、太陽が年々衰弱する地球の危機を回避するためのとんでもない計画に主人公が挑んでいく様子を同じ場所にいるかのように体験できます。

主人公は自分の記憶からどうやら科学に関する仕事をしていたようで、作中には難易度の高い科学描写も出てきますが、そこは流して読んでも十分にストーリーを楽しめます。

たくさんの発見と成功、そして危機が入れ替わり続いていく宇宙船の冒険は、私に「科学の勉強をしたい」「●●●●の●●の形式についても考えてみたい(ネタバレ回避)」と好奇心を刺激させてくれました。

特に目まぐるしく状況が移り変わっていく末のラストは、最後まで目が離せません。

途中から、最悪の結末が脳裏によぎり始めてハラハラしながら読んでいましたが、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。


皆さんもぜひ、実際に読んでみてください。
「映像化が楽しみ!」という気持ちと「映像化めっちゃ難しそう・・・。」という気持ちになるはずです。



紹介②:読むか迷う方へ 微ネタバレ感想

紹介①を読んでもまだ読むか迷う方へ、
紹介②まで来て後悔しても知りませんよ?

まだ引き返せるので、途中で「やっぱり読もう!」となったらその時点で記事を読むのを止めましょう。






この小説の特徴は何より、途中から「バディもの」になるところです。


主人公は宇宙船にたった一人でいたのではないのか?
なぜバディができるのか?


それはもちろん、


「未知との遭遇」・・・いわゆる異星人とのコンタクトがあったためですよね。


●に似ているため「●●●●」と主人公に名付けられた異星人は、地球とまったく違う環境で進化して、人類とはまったく異なる姿形をしていました。
それでも、我々にとっての太陽──彼らにとってのエリダニ40星が危機に陥っている状況は同じで、主人公も異星人も、同じ目的で宇宙船を派遣していたのでした。

当然、まったく別の生き物なので、出会った最初は意思疎通もろくにできません。同じ目的でこの場にいると思いつつも、敵意がないことを望みながら探り探りでコミュニケーションを進めていきます。

当たり前ですが人間、延いては地球のコミュニケーションとはまったく違います。
最初は意思を伝えるのに苦労していたのに、途中からは互いの共通点に驚くようになり、「我々はなぜ共通の音域を聞き取ることができるのか?『我々はなぜ同じような速さで考えるのか?」といった問いを議論するようにまでなっていました。

まったく異なる言語体系をすり合わせるやり取りを読みながら、「人間以外の言語の形式についても考えてみたい」と思うようになりました。

たとえば手話であったり、動物であったり。

人間は完全に口・耳を使った音声の言語に頼っていますが、そうなるのは必然ではなく、偶然そうなったにすぎない。

そんなことを思わせてくれる意味では、別の文化をフィールドワークして描かれ、自分たちの暮らし・文化を問い直すきっかけを与えてくれるエスノグラフィーにも近いと感じました。

こうした内容に興味がある人は、漫画『ヘテロゲニア リンギスティコ』もおすすめです。

異世界で、まったく異なる言語体系を持つさまざまなモンスターたちの言語を読み解いていく言語学者の探索漫画です。

上記の漫画のように、「宇宙人が出てくる小説」とわかると、途端にフィクション感が増して、現実感が薄れてしまうように感じる人もいるでしょう。

しかし、『火星の人』(=映画『オデッセイ』)の著者であるアンディ・ウィアーは厳密に科学的な考証を行ったうえでこの小説を書いているので、「本当に起こりそうだ」と思わせてくれる書き込みぶりです。

よくもこんなに現実味がなくも「あるかも・・・」と思わせる進化を遂げる状況・生物を思いついたなと感じました。





紹介③:読んだ方・読まない方へ ネタバレ有り感想

容赦無くネタバレしますので、もう読んだ方か、一生読むことはないだろうという方しか読まないでください!





いやー、最高の小説でした。

特にラストは希望と絶望が交互にやって来て、本当にハラハラしながら読み進めました。

地球もエリドも救えると希望に満ちて惜しみながらロッキーと別れたかと思いきや、タウメーバの脱走という絶望的状況に。
そこで自分が死ぬのをわかっていつつもロッキーを助けに地球と反対方向に向かってしまう主人公に胸が熱くなりましたね。
ロッキーの宇宙船に辿り着き、再会したシーンは思わず涙が出そうでした。

途中でロッキーが主人公のために死にかけるシーンがあったために、主人公がロッキーのために死んでしまうのではないか?と最悪の結末がよぎりながら読んでいたので、主人公が生き延びてくれて、エリドで楽しく暮らしていてくれて(そして地球もどうにかなったようで)爽やかな読後感でした。


最終的にエリドでも教師に落ち着いて異星の子どもたちにも科学を教える、というラストも最高でした。
ヘイル・メアリー号に乗り込んで地球を救うことよりも、残された子どもたちを教えることを優先しようとした主人公らしい選択で、どこに行っても良い先生でいるんだろうな〜と(元教員志望としても)羨ましく感じました。


宇宙船内部の構造とか、ロッキーの見た目とかが現実離れしすぎてなかなかイメージすることが難しかったので、映画化して動き、和音で話すロッキーを観れるのがすごく楽しみです。

しかし、嫌がる主人公に力づくで片道切符の死の探索に送り出したストラットが手段を選ばなすぎて怖い。スネイプ先生か・・・。

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