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WRA #4-2 EPL WEEK 15 Arsenal FC vs Chelsea FC Ref. Michael Oliver

今回はプレミアリーグの分析です。前後半全2回の分析を予定しています。投票いただきありがとうございました。
「10人いたら9人が反則or反則ではない」というシーンについては取り上げず、気になったシーンとポジショニング・マネジメントについてをメインに取り上げていきます。

審判団紹介

主審 Michael Oliver
ノーサンバーランド県出身の35歳の国際主審。2012年に27歳の若さで国際主審に選出され、2018年からはUEFA Eliteにノミネートされている審判員である。2019年のU-20ワールドカップには、この試合の副審1のStuart Burtさんと派遣され、韓国対エクアドルの準決勝の主審を務めるなど、FIFAの期待が伺える。

副審1 Stuart Burt 副審2 Simon Bennet 4審 Stuart Attwell

VAR Paul Tierney AVAR Stephen Child

MATCH STATS

Arsenal 3-1 Chelsea
GOALS
Arsenal Alexandre Lacazette 34' (pen) Granit Xhaka 44' Bukayo Saka 56'
Chelsea Tammy Abraham 85'

CAUTIONS
Arsenal Pablo Marí (Foul) Kieran Tierney (Time wasting)
Chelsea Thiago Silva (Foul)

39 Possession % 61
7 Shots on target 3
15 Shots 19
506 Touches 709
328 Passes 506
16 Tackles 10
18 Clearances 16
7 Corners 9
1 Offsides 0
2 Yellow cards 1
13 Fouls conceded 10

ビルドアップ時のポジショニングについて

ビルドアップ時のポジショニングについて、Michael Oliver主審のポジショニングで勉強になるものがあったためまとめてみる

スライド2

このシーンは54:30ごろにアーセナルGK1ベルント・レノ選手がボールをキャッチして、ビルドアップしようとした際のアーセナル陣内の選手の位置図である。

このシーン両チームのアーセナル陣内の選手の数を見てみると、アーセナル7人-チェルシー5人だった。このような状況では、数的優位なアーセナルがポゼッションをしっかりしたままビルドアップに成功する可能性が高いと感じるのが自然だ。そう感じるレフェリーは、基本的に「ビルドアップが正常に展開される」と予測したポジションをとる。このポジションをとるときのメリットとデメリットは以下のようなものだと考えている。

メリット

①前線に展開されたときに適切な距離に余力を持って移動できる
②ボール状況による修正を中盤でするときの移動距離が小さくなる
③スタミナを回復することができる
④ビルドアップを正常にできた際につながるであろうFWの状況把握をしやすくなる

デメリット

ビルドアップが失敗してFWに奪われたときに非常にシビアな判定になり、その判定をする距離が遠くなる

このメリットがデメリットを上回る限り、この高めのポジションをニュートラルポジションとするのが正しいポジショニングとなると考える。しかし、メリットとデメリットの数を比較するだけでは危険だと考えている。

デメリットに書いている「FWがビルドアップを奪う」ようなことがあると非常に危ないシーンになり、その判定を落とすと信頼は一気にゼロになる。そのリスクを感じたときにはしっかりと修正する意識を持つことが審判には要求される。その修正力を持っている限り、上図のようなポジションをとることが最適なポジションである。実際このシーンでもアーセナルのビルドアップがスムーズに進み、アーセナル7ブカヨ・サカ選手がクロスみたいなシュートを決めた際には余裕で最善のポジショニングをとっている。これは本当に勉強になるシーンである。

このことからビルドアップ時のポジショニングとして要求される能力として「攻撃の予測」もあるが、「プレスにつかまるかの予測」をすることが大切なのではないかと感じている。

気になった判定シーン

58:10 CHE6 Thiago Silva⇒ARS9 Alexandre Lacazette

このシーンではヘディングでの浮き球に対して、チェルシー6チアゴ・シウヴァ選手とアーセナル9アレクサンドル・ラカゼット選手の競り合いが起こる。ラカゼット選手はボールにコンタクトでき、後ろにボールをすらしたが、シウヴァ選手は触れずにラカゼット選手にのみ接触しているように見える。グレーゾーンの判定ではあるが、私が審判だったらジャンピングアットの反則を取る。

やはりボールコンタクトということがポイントになってくるが、この日のマイケル・オリヴァー主審はこの程度の接触を取っていない。つまり、不用意に達しない軽微な接触として認識していると伺える。これがイングランドのサッカー観であろうし、オリヴァー主審の価値判断だと考える。これを日本、そして私が担当するレベルの試合に持ち込むのは危険であると考える。サッカーの接触に対する共通認識がイングランドと日本では異なっていると考えられるからだ。だからこそラカゼット選手も不満を大きく示さず、zすぐに立ち上がってプレーを再開している。このシーンをみて思い出した最近読んでいた記事の面白い記述があったので、引用する。

海外は「あまり笛を吹かない」と比較されます。これは、選手が激しい接触に耐えたら、タフなチャレンジとしてプレーを続けさせることがある。つまり、我々が基準を変えているのではなく、選手のプレースタイルによるもので、それが基準の差に見えるのではないでしょうか。
(下記リンクの記事より引用)

引用した記述は岩政大樹氏のインタビューに答えた西村雄一さんのことばである。判定基準は「選手がどこまでつづけられるか」によって変わってくるということである。これは前述のサッカーへの共通認識に基づくもので、幼少期からのそれぞれのサッカーの捉え方から形成されていくと考える。

つまり、日本とイングランドでも違うし、Jリーグと○○市U-15リーグでも異なるのである。だからこそ審判は選手の気持ちを知らなければならないし、両チームの仲介者であるために思いをくみ取る必要がある。そういうことを感じさせられるシーンだった。

82:24 ノーハンド判定について

チェルシー9タミー・エイブラハム選手がドリブルで侵入したが、ボールがアーセナル2エクトル・ベジェリン選手の足に引っかかる。その引っかかったボールが真後ろにいるアーセナル16ロブ・ホールディング選手の手に当たる。

手に当たっているのは確実だが、このシーンでは手は不自然に広げられておらず、体側にくっついている。その上、50㎝くらいの距離で当たっているため、ノーハンドが妥当であるといえる。チェルシーの選手たちも「当たったからとりあえずアピールしとけ」程度のアピールしかしていない。その反応も読み取ることが誰でも納得する審判像につながるとも思っている。

84:21 VARのレビュー

あんな3㎝のオンサイド肉眼では判定できません。もしVARがない試合でオフサイドになっても、オンサイドになっても許してください。私はあれを見極める能力はないです。(善処します)

89:50 PK判定

チェルシー19メイソン・マウント選手がPA内でトラップし、前にコントロールしたところにアーセナル22パブロ・マリ選手がチャレンジ。マリ選手はボールに触れることができず、後ろからチャージするもしくはトリップする形になったため、PK判定は妥当。

PKは妥当だが、問題は状況として決定的得点の機会(DOGSO)に該当するかである。ジャッジリプレイでおなじみDOGSOの4要件について確認しておく。

◦ 反則とゴールとの距離
◦ 全体的なプレーの方向
◦ ボールをキープできる、または、コントロールできる可能性
◦ 守備側競技者の位置と数

反則とゴールの距離はゴールまで5m、守備側の競技者はゴールキーパーしかいないため守備側競技者の位置と数は満たしている。そうなると、全体的なプレーの方向とコントロールの可能性が該当するかということである。プレーの方向は若干外に開いており、トラップも大きくなっているため、アーセナルGK1ベルント・レノ選手がキャッチできる可能性があったと伺える。そのため、オリヴァー主審はノーカードを選択したと考える。納得できる判断であるし、試合の雰囲気を考えても妥当に見える。

イエローカードのシーン

72:28 CHE6 Thiago Silva(⇒ARS9 Alexandre Lacazette)

このシーンオリヴァー主審はよくこの接触を見ていたと感じる。シーンとしては、ロングボールに対して競り合ったチェルシー6チアゴ・シウヴァ選手の手がアーセナル9アレクサンドル・ラカゼット選手の顔面に入ったことで反則を吹いた。イエローカードは少し厳しいかなという印象もあるが、この反則を吹くことは非常に難しく、誤ったフォーカスによって別の部位を見ていて、顔面を見落としてしまうことはよくある。

しかし、顔面は非常に重要な部位であるし、やられた選手側の印象は最悪の部位である。そのため、顔に手が入ったシーンをしっかり反則とできないとあれる原因となる。フォーカスとしてのコツは、とりあえずはボヤっとした大まかなフォーカスで見ておくことが要求されるが、後ろにいる選手にフォーカスしすぎて見落としがちである。このシーンしっかりと見ていたオリヴァー主審は素晴らしいと思うし、勉強になる。

82:02 ARS3 Kieran Tierney  (Time wasting)

アーセナル3キーラン・ティアニー選手に遅延行為で警告。

ボールがタッチラインから出たのが81:32で、一度笛で早く投げるようにオリヴァー主審がうながしたのが81:49。それから10秒も投げていないことを考えると妥当な警告。3-0なんだから早く投げればいいのにと思うが、投げないのはアーセナルのチーム状況もあるか?

まとめ

前半のフリーキックのマネジメントに関しては疑問に残る点もあったが、判定基準が一貫しており、対応もスムーズだったマイケル・オリヴァー主審の判定・マネジメントについては非常に勉強になる。

一方、上記で記したようにこの基準を日本にそのまま持ってくると荒れてしまうように見える。それがフットボールの文化の違いであるし、尊重すべきことである。審判員は選手のために存在し、自己満足のためには行動してはならないのである。であるから選手たちが何を要求しているのかを読み取る必要はあるし、イングランドの基準が個人的に好きだとしても日本の選手に適合した基準で判定をしなければならない。

自身の担当レベルでは、もっと判定基準は低くすべきであるし、丁寧に判定をすることが大切だと学ばされた。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。感想・スキお待ちしてます!今後ともよろしくお願いいたします。

 

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