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WRA5-1 ルヴァンカップ決勝 柏-FC東京 (福島孝一郎主審)

今回は、皆様に投票をいただき、1月4日に開催されたYBCルヴァンカップ決勝柏レイソル対FC東京の試合を分析します。

分析のテーマとしても皆様に投票いただいた「マネジメント」をメインテーマにします!ぜひご覧ください!

そして、今回の企画は前半編・後半篇の2回に加えて、「副審2 武部 陽介さん特集」を3回目として予定しています。Jリーグ最優秀副審に選ばれた武部さんの技術を学んでみたいと思いますので、よろしくお願いいたします!

公式記録

柏レイソル 1-2 FC東京
主審 福島 孝一郎 副審1 唐紙 学志  副審2 武部 陽介 第4の審判員 東城 穣
得点者 柏 瀬川 祐輔(45') FC東京  レアンドロ(16') アダイウトン(74')
警告・退場 なし
12SH11
6CK0
13FK19
(Jリーグデータサイトより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24973)

審判団紹介

主審 福島 孝一郎さん

鹿児島県出身で37歳の1級審判員。J1 107試合、J2 114試合の担当経験を持つ審判員で、2020年度よりプロフェッショナルレフェリーとして活動している。2020Jリーグでのイエローカード平均枚数が最少だったそうです。

副審1 唐紙 学志さん

静岡県出身で42歳の国際副審。J1 157試合、J2 111試合の担当経験を持ち、J2では7試合主審を担当したこともある審判員。

副審2 武部 陽介さん

2020シーズンのJリーグ最優秀副審賞を受賞した審判員で、国際副審。上記受賞コメントにもあるようにプロフェッショナルレフェリーではなく、お仕事の傍ら活動されている審判員。2020年から国際副審に登録され、J1 77試合 J2 86試合を担当している岡山県出身の34歳。

第4の審判員 東城 穣さん

最年長の国際主審で、プロフェッショナルレフェリー。 J1 245試合、J2 130試合を担当している審判員。

ポジショニングについて

両チームビルドアップをゆっくり行うわけではなく、スピードを持った攻撃を信条とするチームであった。そのため、攻守の切り替えが非常に早く、レフェリーもスピードを持ったスプリントを繰り返し、行うことを要求される非常に難しい試合となったといえる。

基本的にこのような試合状況において、角度の修正をするのも大切だが、直線的な動きにしなければ判定不能な距離になってしまうことがある。

正しい角度をとることは判定に大切であるが、下記の通常の対角線をとることに執着すると距離が遠すぎてしまうことがある。

スライド3

その解決法として、福島さんが「直線的な動きをして、通常と逆の角度から判定する」という解決法を選んだシーンもあった。

スライド3

この動きをすると副審と同一の角度になってしまうというデメリットはあるが、判定しやすい角度にすることができる。カウンターを伴う試合においては、角度の創り出し方としては有効である。非常に勉強になるポジショニングであった。

気になった判定とそのマネジメント

9:41 ファウル 柏14 オルンガ⇒FC東京4 渡辺 剛

クロスボールをクリアしたFC東京4渡辺剛選手に遅れたタイミングで柏14オルンガ選手がジャンピングアット。強度としては完全に不用意と断定することができないが、無謀で警告になる強度ではないといえ、ノーカードは妥当。

しかし、渡辺選手のダメージは大きく、担架とスタッフの入場を認め治療も行っていた。キープレイヤーとなるオルンガ選手にもコミュニケーションをとる上ではいいタイミングであった。福島さんはしっかりとコミュニケーションをとっていたようにうかがえる。丁寧なコミュニケーションで素晴らしいマネジメントであった。

オルンガ選手も心配そうに見つめており、治療で時間をとれたこともあって、落ち着かせることができていたと思う。

12:50 ファウル 柏9 クリスティアーノ⇒FC東京6 小川 諒也

柏9クリスティアーノ選手が後方からFC東京6小川諒也選手にチャージ。ボールに行けておらず、クリスティアーノ選手の肩が小川選手の背中に接触しているため不用意なチャージングでファウルは妥当。ただ、クリスティアーノ選手は大声を上げて不満を示していたので、どこかでコミュニケーションをとれると良いと感じた。

その場でコミュニケーションをとるのはクリスティアーノ選手の精神状態として難しいので、少し空いてから話せると良いような印象があった。

基準としては高めの基準をとっているので、他の審判員だとファウルをとるようなシーンでもノーファウルとなるシーンが多かった。そのようなシーンで福島さんはあまりリアクションをとらなかったので、選手が不満を示すシーンがあった。リアクションを取っておくと分かりやすさがあるのではないかと思った。

また、柏レイソルのキャプテン7大谷秀和選手がうまく福島さんとコミュニケーションをとっていることが印象的だった。

27:17 ファウル FC東京24 原 大智⇒柏17 キム スンギュ

柏GK17キムスンギュ選手がキャッチした後にFC東京24原大智選手がスライディングで遅れて接触した。原選手が止まり切れず当たってしまった形で、原選手はスピードを何とか殺し、接触時にも足を曲げる配慮をしたためキムスンギュ選手にとって大きなダメージとならなかった。

しかし、キムスンギュ選手や周りの柏の選手が原選手に怒りをぶつけてもおかしくないシーンではあるため、笛を吹いた後福島さんは急いで2人の近くに行った。

キムスンギュ選手は非常に冷静で紳士的な対応をしたため、何事も起こらなかったが、万が一のためにリスクマネジメントをする福島さんの対応は非常に勉強になった。

27:57 ファウル FC東京31 安部 柊斗⇒柏8 ヒシャルジソン

浮いたボールを処理した柏8ヒシャルジソン選手にFC東京31安部柊斗選手が遅れてスライディングし、安部選手の足裏がヒシャルジソン選手の足付近に接触している。

福島さんはノーカードにしたが、私が主審だったらイエローカードを示す。理由としては、スピードがあったこと・タイミングが遅れていること・接触部位がケガにつながりかねないことにある。無謀なタックルもしくはキッキングとして警告する方が選手にフェアプレーをうながすことにつながると考えることと今後の基準として楽に判定できるからだ。

しかし、福島さんは冒頭に紹介した通り、カードに頼らず試合をコントロールできる審判員であるといえる。マネジメントすることができる自信がある時に限りノーカードで収められるシーンである。ノーカードは尊重できるが、私が担当するレベルでこれをノーカードにすると確実に荒れる。しっかりとレベルに応じた判定をすることが大切で、猿真似は本当に危険である。

30:32に安部選手が手を使って相手のドリブルを妨げる形で再びファウルをした際にはコミュニケーションをとっている。そのコミュニケーションも大事である。

44:11 柏 ゴール その前の競り合いについて 「大谷選手のいぶし銀のプレー」 

繰り返しよく言われていることだが、「キーパーチャージ」という反則は現在の競技規則に存在しない。そのため、接触を判断する上で、ゴールキーパーはフィールドプレイヤーと何ら変わらない。上記ツイートでも述べたように、GKに認められた特権はPA内で手を使えることのみで、フィールドプレイヤーと同じユニフォームでプレーしている感覚で接触を見極めることが大切である。

この程度の接触でフィールドプレイヤー同士のときにファウルをとるか、それは多くの人が否であると答えると思う。取れる反則といえば、程度の関係ない「身体的接触を伴って相手競技者を妨げる」反則=インピーディングであるが、柏7大谷秀和選手はボールにプレーしようとはしており正当なチャレンジであるといえると考え、ノーファウルは妥当であると考える。

また、波多野選手がもっと大谷選手にわざとぶつかりに行けばファウルをとってもらえる可能性は上がるが、少し波多野選手が軽率だったように見える。

大谷選手のベテランなりの競技規則をよく理解した素晴らしいプレーだったといえるのではないだろうか。

47:16 ファウル 柏8 ヒシャルジソン⇒FC東京20 レアンドロ

これも28分のシーンと同じで、私だったら警告する。柏8ヒシャルジソン選手の明らかに遅れているし、スピードもあるし、けがの危険性もある。一方基準としては、28分とそろっており、警告しないで試合をコントロールする自信が福島さんにはあるのだろう。だから警告しないことも尊重できるが、安易に真似するのは危険である。

判定後にヒシャルジソン選手ともコミュニケーションをとり、FC東京キャプテン10東慶悟選手ともコミュニケーションをとれている。このことでコントロールするのはさすがの技術である。

ただ、この試合ゲスト解説を務めた元日本代表内田篤人さんのコメントの通り、イエローカードを出すことは悪いことではなく、落ち着かせるためにイエローカードを提示するのは有効である。内田さんの解説は本当に素晴らしかった。

前半のまとめ

不穏な空気が正直あり、ライブで見ていた時は後半荒れないと良いなと思っていた。しかし、それぞれ私だったら警告するシーンでもしっかりとコミュニケーションをとれており、それが後半につながったといえる。この高い基準でコントロールするのが福島さんの真骨頂であるといえる。

これは福島さんに対する選手の理解もあるし、プロリーグということで選手が自制できるという背景もあるため、私たちが担当するアマチュアのレベルで応用するのは危険だといえる。

家本さんのNoteにもあった通り、プロスポーツとアマチュアスポーツでは背景が違うということを理解することは大切だ。

また、冒頭のポジショニングの部分でも記した通り、カウンターの応酬で、前半から非常にオープンな展開になったゲームで非常に素晴らしい距離で判定を続けていた。福島さんの走力は見事だし、機に応じて対角線から外れる応用をするのは非常に勉強になった。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。明日もお楽しみに!

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