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WRA5-2 ルヴァンカップ決勝 後半 柏-FC東京 (福島 孝一郎主審)

今回は、皆様に投票をいただき、1月4日に開催されたYBCルヴァンカップ決勝柏レイソル対FC東京の試合を分析します。

分析のテーマとしても皆様に投票いただいた「マネジメント」をメインテーマにします!ぜひご覧ください!

そして、今回の企画は前半編・後半篇の2回に加えて、「副審2 武部 陽介さん特集」を3回目として予定しています。Jリーグ最優秀副審に選ばれた武部さんの技術を学んでみたいと思いますので、よろしくお願いいたします!

公式記録

柏レイソル 1-2 FC東京
主審 福島 孝一郎 副審1 唐紙 学志  副審2 武部 陽介 第4の審判員 東城 穣
得点者 柏 瀬川 祐輔(45') FC東京  レアンドロ(16') アダイウトン(74')
警告・退場 なし
12SH11
6CK0
13FK19
(Jリーグデータサイトより作成 https://data.j-league.or.jp/SFMS02/?match_card_id=24973)

ポジショニング アディショナルタイムの走力

この試合前半からカウンターの応酬となることが多く、非常に体力のいるゲームであったと感じるが、90+1:26からFC東京が柏陣内のレフェリーサイドコーナーフラッグ付近でボールキープした際の監視の位置としては、非常に深い位置で監視をしていた。レフェリーサイドのコーナーフラッグ付近はいわば、「主審しか見えない位置」である。そのためタッチジャッジも含め、主審がしっかりと主導権を握って判定しなければならない。その基本ができているからこそこの高いレベルを任される1級審判員なのであるし、素晴らしい教科書的ポジショニングであった。

そのキープが上手く行かず、柏GK17キムスンギュ選手がキャッチした瞬間には急いでFC東京陣内までスプリントを見せ、しっかり最適な距離と角度から競り合いの判定をしている。福島さんの走力の高さを感じ、非常に素晴らしいシーンだと感じた。

カウンター時DFが前線まで行くことは少ないと思うが、審判員はそのDFがいるポジションからFWのいるべきポジションまで全力で走らなければならない。そうでなければ判定できなくなってしまうからだ。そのつらさも少し伝わると良いなと思うシーンであった。

気になった判定とそのマネジメント

46:34 柏18 瀬川 祐輔⇒FC東京10 東 慶悟の接触

このシーン、柏18瀬川祐輔選手がFC東京10東慶悟選手を踏んでしまっているため、正しい判定としては瀬川選手のファウルをとるべきだったシーンである。しかし、現実的にはこの判定を下すのが難しくなる要因が二つあった。

スライド1

①ボールの優先権が柏18瀬川祐輔選手にあったこと

このシーンでは、ボールを保持していたのは柏18瀬川祐輔選手であり、50-50の状態に近づいていたがFC東京10東慶悟選手がボールにチャレンジする形になっている。

このような際の審判員のフォーカスとしては、「ボールを保持していない選手にフォーカスすること」が不文律としてある。なぜなら、東選手の方がファウルを犯す可能性の高いシーンであるからだ。もちろん、ボールを保持していない選手がファウルを犯すことは今回のシーンのような反則や腕を使った反則を犯すことはあるが、一般にはチャレンジしに行った選手が反則を犯す可能性は高い。そのため福島さんのフォーカスは東選手のチャレンジに置いていた可能性が高く、判定は極めて難易度が高いものになっている。

これは、フォーカスミスではなく、自然なフォーカスの置き方であり、例外のような事象が起こってしまったことであるので、福島さんのミスとは言いづらい。私の学びとしては、このようなシーンではボール保持側が非保持側を踏むようなこともあり得るという疑似体験をできたことにあると考える。(自身の試合でも見落としたことがあるので気を付けたい)

②間に選手がいて、背後からのぞき込むようなポジションにいたこと

福島主審のポジションとしては、距離は申し分のない距離であった。一方、間にFC東京31安部柊斗選手が直前までいたため、サイドステップで修正しながらこの事象を監視したが、角度としては背後からとなったために接触を見るのは難しい角度となってしまった。角度を修正するのはこの状況ほぼ不可能である。

本当に福島さんにとっては運の悪いシーンだったといえる。

正しい判定に導く解決策としては、唯一「第4の審判員の東城穣さんがサポートする」ということであったと思う。角度・距離は申し分ない場所にいる可能性が高いが、一方第4の審判員として開始直後は他の任務に追われる可能性もあり、サポートできないときもある。

その後のマネジメントに関しては、さすがのコミュニケーションをとられている。東選手も瀬川選手が故意ではないことを理解しており、瀬川選手も「踏んじゃった」事は理解して謝罪しているシーンなので、福島さんも笑顔で東選手とコミュニケーションをとっている。

また、FC東京の周りの選手たちも笑顔でコミュニケーションをとれる精神状態なので、正直に見えていなかったことを伝えられたシーンだったのではないかと推測できる。このシーンは、正直見えなくて当然なシーンであり、選手の審判団へのリスペクトを感じられるシーンだった。

55:20 柏25 大南 拓磨⇒FC東京20 レアンドロ

このシーンはホールディングをとるかのシーンである。柏25大南拓磨選手はFC東京20レアンドロ選手のユニフォームを確かにつかんでいる。ホールディングは程度の関係ないファウルではあるが、そうはいってもある程度容認しないとすぐに笛が鳴り、つまらなくなる部分がある。一方、取らなすぎるとそれはそれでひっちゃかめっちゃかになってしまうので、どこに線引きをするかが大切な反則である。

このシーンでは、引っ張っているが、レアンドロ選手はプレーをできており、もらいに行った印象があったため福島さんは笛を吹かなかったと考える。十分尊重できる判定であり、福島さんの「プレーをどんどん続けなさい」という意図を感じるシーンであった。やはり続けようとしているかファウルをもらいに行こうとしているかはわかるので、選手の皆さんは続けようとしてもらった方が利益を得られると思う。

60分ごろから選手たちが福島さんの基準を理解し、なんとかファウルにならないようにプレーしている様子が伝わってきた。これは統一して取らなかったことで生まれた良い効果だと感じる。基準を統一し続ける大切さを感じる。

62:58 ファウル 柏8 ヒシャルジソン⇒FC東京20 レアンドロ

このシーンについては、FC東京20レアンドロ選手が柏8ヒシャルジソン選手にペナルティーエリア外のバイタルエリアで倒される。レアンドロ選手をはじめFC東京の選手がしきりにカードをアピールしたが、下記3個の警告理由に該当しないためノーカードは尊重できる。

①強度 無謀なキッキングに当たるか ⇒当たらない

このシーンヒシャルジソン選手はレアンドロ選手をけるもしくはつまずかせる反則で倒して、ファウルとなっている。大きな強さがあったり、スピードがあるわけではないため、強度で無謀なキッキングにあたると考えることは難しいと考え、強度面で警告を出すことはできないと考える。

②状況 大きなチャンスとなる攻撃に当たるか ⇒当たらない

この部分に関しては議論が分かれると思うが、ドリブルの方向が横であったこと・ボールタッチが大きく即座にシュートを打てないように見えたこと・柏の選手は周囲に多くいたためカバーしやすい状況だったことから考え、大きなチャンスとなる攻撃に当たらないと考える。そのため、反スポーツ的行為での警告は難しいと考える。

③繰り返しの反則 ⇒この日の基準では難しいと考える

最も議論の分かれる部分は、ヒシャルジソン選手の反則が3回目である中で、繰り返しの反則で警告できるかである。実際FC東京の選手たちも繰り返しの反則を要求していたようにうかがえる。

ヒシャルジソン選手は前半に2回反則をしており、またそのうち一つは警告とする審判員がいてもおかしくないレベルの反則であった。その印象については悪いが、繰り返しの反則で警告するにはこの反則は軽いし、種類が違いすぎて警告しずらい部分があると感じる。

以上のような理由で警告は難しいと感じるが、FC東京の選手たちのいうこともよくわかる。ただ、繰り返しの反則については主審の主観に大いに委ねられた部分であるし、福島さんも集まってきた選手に対し突き返すような対応をとっている。このシーンは福島さんが自身でノーカードであると決めた以上、妥当な判定である。

カードかどうかを決めるのは主審の仕事であり、基準は審判員によって異なってくるということは理解すべき事柄である。だから、仮に他の審判員が繰り返しでヒシャルジソン選手を警告しても尊重すべきであるし、それがサッカーというスポーツである。

繰り返しの部分については攻劇さんも審判団についてのフルマッチレビューをアップロードされているので、是非ご覧ください。

82:20 転倒しているFC東京11 永井 謙佑への対応

競り合いで柏50山下達也選手とFC東京11永井謙佑選手が競り合い、そのはずみで永井選手が倒れる。競り合い自体はノーファウルだということは妥当。

1点負けている柏としては永井選手を起こそうとするし、FC東京の永井選手は立つのを遅らせようとする。自然なシーンであるが、永井選手は肩に古傷を持っていることもあるし、相手選手が無理に倒れている選手を起こそうとする行為自体審判員としては避けさせたい行為である。

福島さんはその不穏な状況を把握し、笛を吹き、永井選手のもとに近づき、無理やり立ち上がらせる行為をやめさせた。このマネジメントは大切であるし、柏の選手に時間を止めるということを伝えるのも大切である。これ以降リプレイで写っていないので、非常に残念だがおそらく適切にマネジメントをされていたのだろう。細かなマネジメントの積み重ねが大切だと気づかされるシーンだった。

まとめ

後半は試合が本当に落ち着き、前半の荒れてしまうのではないかという心配は全く吹き飛んだ。ファウル数も前半に比べ後半は少なくなった。

前半ガチャついた試合は後半落ち着きやすいという体験談もない訳ではないが、見事な福島さんのコントロールだったと感じる。ただ、本当のマジックの種は明かすことができなかったというのが正直なところだ。

個人的には福島さんの柔和な表情と普通の表情の使い分けという部分があるという風に感じている。私も「笑うな」といわれたこともあるが、逆に「笑顔が言えなくさせる」といわれたこともあるので、賛否両論ではあるのだろうが、笑顔でマネジメントをすることで選手の心にうまく入り込めたシーンが多くみられた気がする。

もちろん、56分の繰り返しの反則にあたるかで抗議を受けたシーンでは厳しい表情で突き返している。ただ全体を通して健全なコミュニケーションをとることが可能と見えるシーンでは笑顔が印象的だった。その笑顔に引き込まれて、選手たちも福島さんの基準をリスペクトしたプレーをしていったのではないかと感じる。

もちろんその笑顔の前には、統一された判定基準がある。少し高めの基準には感じたが、その基準で90分間吹き続けることは容易ではないし、その能力の高さがあってこその笑顔のコミュニケーションである。

忘れてはいけないこととして、「正しい判定があってこそのマネジメント」であるということだ。判定が間違っているのにマネジメントでごまかすことはただのごまかしであると再び痛感した。マネジメントは誤魔化すための手段ではないということはわきまえて今後も審判活動に励みたいと感じる。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。次回は「副審 武部陽介さん特集」です!お楽しみに!


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