読書感想文(91)司馬遼太郎『燃えよ剣 上』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は珍しく歴史小説です。
とても有名な作品なので説明は不要かもしれませんが、新選組鬼の副長・土方歳三の話です。

この本を読んだきっかけは、映画化していること、読書会で紹介されたこと、司馬遼太郎作品が好きな人に会ったこと、など色々とご縁があったことです笑。

感想

普段聞き慣れない言葉が結構あったので若干の読みづらさはありましたが、面白かったのであまり気になりませんでした。
司馬遼太郎はなんとなく難しいイメージがあったのですが、そんなこともありませんでした。
司馬遼太郎作品は高校生の頃に『新選組血風録』を読んだことがあります。
多少被る内容もあったので、また近いうちに読み返したいです。

新選組の話を読むと、剣術の流儀の話が必ず出てくるイメージがあります。
近藤勇や土方歳三は天然理心流、薩摩の方は示現流や薬丸自顕流、その他北辰一刀流、神道無念流などが有名でしょうか。
天然理心流は「気組」を重視するため、竹刀は弱いが実戦には強いそうです。
ただし今作の主人公である土方歳三はさらに実戦向けというか、雑多な我流だった為に免許皆伝には至らなかったとか。

少し話が逸れますが、天然理心流では骨に沁み入るほどの撃ちでなければ一本を取らないそうです。
これは高校生の頃に読んだ誉田哲也『武士道シックスティーン』にも似たようなことが書いてあった気がします(うろ覚えですが)。
当時その影響で、体育の選択科目で剣道を取っていたのですが、審判をやった時になかなか一本を取らなかったため、クラスメイトに嫌がられた思い出があります。「でも、斬れてなかったもん」と思っています笑。

武士の話を読む時は心構えのようなものを意識します。いわゆる「武士道」というやつです。
これは何の本を読んだ時だったか忘れてしまったのですが、自分に足りないのはこの「武士道」の心構えではないかと思ったことがあります。
無我の境地とか、その辺りと絡む話だったと思うのですが、なんだったかな……。
今回感じたのは実戦向きの天然理心流とその気組のことです。
土方歳三は理論派があまり好きではないようなのですが、多分私はどちらかというとそっちです笑。
なので土方歳三からは学ぶ所が大いにあると感じました。

「歳、なぜ局長にならねえ」
と、近藤がこわい顔をしたが、歳三は笑って答えなかった。隊内を工作して、やがては近藤をして総帥の位置につかしめるには、副長の機能を自由自在につかうことが一番いいことを歳三はよく知っている。
総司、いっておくが、おれは副長だよ。思いだしてみるがいい、結党以来、隊を緊張強化させるいやな命令、処置は、すべておれの口から出ている。近藤の口から出させたことが、一度だってあるか。将領である近藤をいつも神仏のような座においてきた。総司、おれは隊長じゃねえ。副長だ。副長が、すべての憎しみをかぶる。いつも隊長をいい子にしておく。新選組てものはね、本来烏合の衆だ。ちょっと弛めれば、いつでもばらばらになるようにできているんだ。

これについては、よくわかるなぁと思いました。
何か一つの団体をまとめ上げる時、自分はトップでドーンと構えるタイプではなく、その役割を誰かに押し付けて自由に動く方が好きなタイプです。
ただ逆にそのトップとしての能力が低い自覚はあるので、少しずつ補っていけたらとも思います。
ただ、二つ目に引用した方は少し違います。そもそも現代の集団で烏合の衆というものはなかなか無いので、ここまでやる必要は無いと感じています。
この点について参考になるのは、有川浩『キケン』の副部長・大魔神です。
私は外見が怖くないので全く同じようにはいきませんが、色々と工夫をしています。

知れば迷ひ知らねば迷はぬ恋の道

鬼の副長として名高い土方歳三の可愛らしい一面を描いているのもこの作品の魅力だと思います。
芸術として良い句か私にはわかりませんが、汎用性が高いのでこの句は覚えておいてもいいなと思いました。

おんな、、、はあった。しかし恋といえるようなものをしたことがない。かろうじて、想い出の中の佐絵の場合がそれに似ていたが、似ていただけのことだ。ほんの先刻、むなしくこわれている。
(中略)
しかし剣がある。新選組まある。これへの実意はたれにもおとらない。近藤がいる。沖田がいる。かれらへの友情は、たれにもおとらない。それでいい。それだけで、十分、手ごたえのある生涯が送れるのではないか。

ここも印象に残りました。
恋愛の位置付けと人生観はかなり大きなテーマではありますが、それだけ重要な要素でもあります。

理想とは、本来子供っぽいものではないか。

これは土方歳三のいう真の武士について、山南敬介が子供っぽいと嘲笑した後の場面です。
理想とは、本来子供っぽいものである。まことにそうである、と私は思います。
そういう意味で、大人はつまらないです。何もかも現状の延長で考えるからです。理想は現状から生まれても良いけれども、現状に縛られてはつまらないと思います。

どっちにしてもおれはあの人を助けるのが仕事さ。しかしおれは、あの人がみずから新選組を捨てるときがおれがあの人と別れるときだ、と思っている。

あの人とは近藤勇のことです。
これは後に関わってくるかもしれないなと思いました。

その他、いくつか気になった点について。
まず山崎烝という監察は、『新選組血風録』にも出てきたのを覚えています。
土方歳三にそれなりに気に入られていましたが、それを気に食わない他の隊士に「俺なりの媚の売り方さ」的なことを言っていたのを覚えています。

土方歳三が「新選組に思想は毒だ」と言っていたのも印象的でした。
組織論としては思想があるべきというのが主流であるように思いますが、その真反対の考えなので、一考の余地があると思いました。
これも烏合の衆ならではなのかもしれませんが。

あとは、お雪さんとの関係が読んでいていいなと思いました。

喋る、というのではなく、歳三は、自分の心のなかにある別な琴線を調べるために来ているようであった。

なんとなく、わかる気がします。

おわりに

今回は上巻でしたが、最後は決闘の直前で終わりました。因縁の対決です。どうなるのか楽しみです。 

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。

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