読書感想文(122)森見登美彦『郵便少年』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は先日読んだ『ペンギン・ハイウェイ』の作者・森見登美彦の作品です。
どちらかというとマイナーな方ではないかと思います。というのも、この本は「ほっと文庫」という、昔入浴剤とコラボで出された短編小説なのです。
ほっと文庫の中で唯一有川浩『ゆず、香る』だけは発売当時に読みましたが、それ以外の作者の本は読みませんでした。
先日、久しぶりに『ゆず、香る』を読みたいなぁと思い、改めてほっと文庫の事を調べてみると、森見登美彦の作品もあることを知り、ネットで購入しました。

30ページ程の短編で読みやすいのでオススメです。

感想

とても良かったです。
少し切ないところもありますが、心が温まるお話でした。
そういえば『ゆず、香る』も温かいお話だったので、ほっと文庫はそういうコンセプトなのかもしれません。こちらは作中で入浴剤が重要な役割を果たすのですが、疲れた恋人の為に少しでも自分にできる事をしようとする優しさが印象的でした。ちなみに柚子は有川浩さんの出身地である高知県にある馬路村の名産品です。
と、話が別作品の方に逸れていますね笑。それはまたその時に書くとして、一旦戻します。

この作品は恐らく『ペンギン・ハイウェイ』と同じ主人公です。全く知らなかったので、偶然『ペンギン・ハイウェイ』を読んでいて良かったなと思います。
ただ、ハセガワくんは出てこなかった気がするので、似ているだけで別の世界線なのか、それとも私が何かを見落としているのか……。

この作品はヒサコさんが重要な役割を持ちます。印象的だったのは、次の場面です。

「ヒサコさんは手紙を書きますか?」
「あまり書きませんね。手紙が来ることもない。私は宇宙人で、しかも年寄りですから、人間の知り合いというものはとても少ない。それでけっこう」

P13

そして後に手紙で次のように書いています。

わたくしはハセガワ君のような子どもでしたから、宇宙人仲間として彼のことがよくわかります。わたくしは宇宙人であることによって、ずいぶんさみしい思いもし、また人にさみしい思いをさせてきました。もっとちゃんとわかり良い手紙を書けば良いのに下手な手紙を書いて、相手を遠ざけてしまうことがたびたびありました。わたくしにとってはそれはもう終わってしまったことですが、ハセガワ君にとっては違います。だからわたくしは、もっとあなた方おふたりが仲良くできることを望みます。

P23

ここまで読むと、先に引用した部分の「宇宙人で、しかも年寄りですから」という箇所がよくわかります。
子供の頃は宇宙人で、つまり少し周りと変わった所があって、さみしい思いをしたり、さみしい思いをさせたりしてしまった。そして今はもう年寄りだから、周りの人はどんどん亡くなってしまって会えなくなってしまう、或いはもう消息がわからにということかもしれませんし、過去には戻れないということかもしれません。

この手紙は少年が郵便を始めてから書こうと決めたものだと思います。その内容として、ヒサコさんがその事を書いたのは、それだけ自分の心に引っかかっていたということなのだと思います。
自分の反省を後世に伝える親切さなのか、自分の内心をさらけ出したかったのは、或いは両方なのかわかりませんが、想いを届ける手紙というのは素敵なものだなと思いました。

そういえば、手紙といえば『恋文の技術』という作品も書かれています。
森見登美彦さんは、手紙に深い思いがあるのかもしれません。
何か参考になるかなと思って過去の感想文を読み直してみましたが、あまり参考にはならなさそうでした。
『郵便少年』に出てくる手紙はヒサコさんの手紙だけなので、落ち着いていて年の功を感じられる内容です。一方で『恋文の技術』は過去の感想文に書いている通り、自分像がコロコロ変わります。

手紙というものに対する考えは、恐らくデジタルネイティブ世代とそうでない人にとってかなり違います。
私が小学生の頃はギリギリラブレターというものもありましたが、最近は小学生でもないのではないかと思います。
一方で、メールが普及した現代でも文通を楽しんでいる人もいます。知らない人と文通できるサービスを使う人もいれば、昔から親しい人と文通を続けている人もいます。
一度「手紙」というテーマで色々な人と話し合っても面白いかもしれないなと思いました。ちなみに私は今これを書きながら、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を思い出しました。

おわりに

短いながらも心温まる素敵なお話でした。
いつでもすぐに読み返せる量なので、また気が向いた時に手に取ってみようと思います。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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