読書感想文(352)杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回はまたミステリーです。
印象的なタイトルと話題性からずつと気になっていましたが、少し前にYouTubeのほんタメのチャンネルでヨビノリたくみさんが紹介していたのを機に読んでみることにしました。

尚、今回はネタバレに触れるので、まだ読んでいない方はご注意ください。
というか、是非この本を読んでください。オススメです。

感想

まず最初に気になったのが、『世界でいちばん透きとおった物語』という作品が作中作として登場することです。
これは私がとても好きな本の一つである恩田陸さんの『三月は深き紅の淵を』と同じです。
さて、こちらはどんな風に創られているのだろうか、と楽しみにしながら読み進めました。
そして、真相に気づいた時、驚き過ぎて目玉が飛び出そうになりました。
バスの中だったので声はかろうじて抑え込みましたが、衝撃的過ぎて一度本を閉じました。
そして残り十数ページを家で読み終え、今度は遠慮なく「あああああ」と叫びました。

正直、この作品は終盤まで特別面白いと思っていませんでした。
しかし、それすらも読み終えた今では納得してしまいます。
なぜなら登場人物の一人が、作中作の『世界でいちばん透きとおった物語』を「普通に面白かった」と評しているからです。

私がこの本を気に入った理由は、文学を感じたからです。
私は高校生の頃まで小説とはストーリー(物語)を楽しむものだと思っていました。しかし、坂口安吾の「桜の森の満開の下」を読んで、初めてそれ以外の魅力に気づきました。
その後、大学で芸術について少し学び、上手いことだけに価値があるのではないのだということを知り、また純粋芸術なるものを知り、岡本太郎の「今日の芸術はきれいであってはならない」という言葉を知り、少しずつ、物語や美しさとは別の価値を持つ芸術(絵画や文学その他)に興味を持つようになりました。
先に挙げた『三月は深き紅の淵を』も、ストーリーそのものというよりは構造が面白くて、ストーリーに留まらない何かに魅力を感じています。正直まだ理解しきれていませんが、これから繰り返し読んで謎を解いていけたらと思っています。

さて、今回読み終えて、ミステリーとしては「やられた!完敗!」と思いますが、一方で「この真相はもっと早く自分で気づきたかった!!」と思いました。
というのも、私は大学時代にこういったことに関心を持ち、少し勉強と研究(と言えるほどのものではありませんが)をしていたからです。

ただ、先に述べたようにストーリーそのものは普通に面白いくらい、そして表現はちょっと脚色された感じがして個人的にはあまり好きでありませんでした。
なので、この作品は好き嫌いが分かれるような気もします。
でも話題になっていたということはやはり多くの人が良いと思ったということなのでしょう。
この「普通に面白い」物語をこのように落とし込んだこの本をとても素晴らしいと思いました。
素敵な体験に感謝です。

おわりに

今年一番印象に残った本かもしれません。
今年読んだ中で特に良かったなと思うのは、まず三浦しをんさんの『風が強く吹いている』を思いつきましたが、数年後にはそれよりもこちらの本の方が印象に残っている気がします。
本当に物語を超えた読書体験でした。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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