読書感想文(167)吉本ばなな『TUGUMI』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は有名な著者の有名な作品です。
この作品は私の記憶が正しければ、小学生の時に国語の問題集で出たような気がします。「ばなな」という著者名が印象に残ったのかストーリーが印象に残ったのかわかりませんが、とにかくなんとなく覚えています。

昨年『キッチン』を読んで他の作品も読みたいなと思っていて、先日本屋で思い出したので買いました。


感想

とても良かったです。
元気な「夏!」という感じではなく、静かな夏の思い出という感じでした。

この本を読んでまず思ったのが、比喩の秀逸さです。的確に、しかしぼんやりと伝わる、そして何より繊細で美しい比喩に溢れています。
この文章をたくさん読み続けていたら自分も影響されてもう少し文章が上手くなるだろうか?などと邪な(?)考えが頭を過ぎりました。

例えば、次のような文章です。

つぐみの想像の中ではこの小さな漁師町は無限の世界であり、砂のひとつぶも神秘のかけらだった。

P15,16

花々は闇に白く浮かびあがって見えた。風と共にいっせいにうわっとゆれるたびに、まるで夢の中のように白い残像がうつる。そのとなりをさらさらと川が流れ、はるか先には夜の海が、月明かりをひとつの道のように光らせて、ちらちら輝きながらどこまでも黒くうねっているように見えた。

P36

こんな表現ができるようになりたいです。

何げない感情のつらさから逃げるのがうまいと思う。

P39

これは旅館で人との出会いと別れを繰り返していると、別れに慣れるというか、悲しい感情を処理するのがうまくなる、という話です。
なんとなく、少しだけわかるような気がしました。

その時、つぐみが恭一をまっすぐ見て言った。
「お前を好きになった」

P117

どストレートな愛情表現。
ただここで気になったのは、つぐみがまっすぐ見ていることです。
ここまで、つぐみはなんとなくいつも目が合わないなと感じていましたが、ここではまっすぐ見ています。
それが何を意味するのか、今の私にはわかりませんが、次に読む時に意識してみたいなと思いました。

「恋っていうのは、気がついた時にはしちゃっているものなんだよ、いくつになってもね。しかし、終わりが見えるものと、見えないものにきっぱりと分かれている、それは自分がいちばんよくわかっているはずのことだ。見えない場合は、大がかりになるしるしだね。うちの今の妻と知り合った時、突如未来が無限に感じられるようになった。だから別に一緒にならなくてもよかったのかもしれないね」

P131

これはとてもよくわかるなあと思いました。
私自身、誰かを好きになるかもしれない、と思った時、よくその人との将来を想像しました。けれど、大抵1年〜3年で別れてしまう想像ができてしまうんですよね。そうなると、私はもう恋愛対象として相手を見ることができませんでした。勿論、人は変わってゆくものなので、そういう意味ではよくない判断の仕方だったのかもしれません。しかし逆に言えば、その人が変わってゆくかどうかも含めて見ていたなぁとも思います。所詮自分の想像なのでしれていますが……。

私達はいろんなものを見て育つ。そして、刻々と変わってゆく。そのことをいろんな形で、くりかえし思い知りながら、先へ進んでゆく。それでも留めたいものがあるとしたらそれは、今夜だった。そこいら中が、これ以上何もいらないくらいに、小さくて静かな幸福に満ちていた。

P152

すごく素敵だなと思いました。
変わってゆくこと自体は悪いことではないし、止めることもできません。けれどそれでも変わらずに残しておきたいもの。
そういう時を残すための手段の一つが、日記であったり、写真であったり、短歌であったりするのだと思います。
私もこのnoteをいつか読み返して、このことを思い出すことでしょう。

「子供の頃って、毎日このくらいの危機を感じてた気がするんだけどなあ、堕落したのかな」

P181

少しズレますが、これも常々感じることです。子供の頃のあのエネルギーはどこへ行ってしまったのか?
恐らく習慣であったり、理性・良識であったりするのかなと思います。
バカなことを懸命にやる心を、いつまでも忘れずにいたい。と思いつつ、家ではダラダラしてしまうこの頃です。
10分あればゲームをやるような生活をしたいです。

並んで歩きはじめると、母の存在が私を1歩ずつ現実の方へ押してゆくのがわかった。

P209

ここを読んだ時にふと、同著者の「ざしきわらし」でも、お葬式の後に日常へ戻ってゆく描写が印象的だったなと思い出しました。
作者にとっての現実と幻の境界ってどういうものなのかなぁと思いました。

最後に、一つ意外だったのは作者が人生に対して否定的だということです。小説には優しさをとても感じますが、作者としてはせめて小説の中ではハッピーエンドであってほしいという思いがあるそうです。
そう言われると、また別の読み方もできそうな気がします。この小説のラストもフィクションで、その直前のところが現実に近かったりするのでしょうか。また、作中人物達にとっての現実が我々にとってのフィクションなのかもしれません。
今後、その辺りも少し意識して読んでみたいなと思いました。

おわりに

ここ数年、色々な本に手を出していますが、その理由の一つが自分が影響を受けたい作品を探すためです。
そして吉本ばななさんの作品はもっと読みたいなと思っているもののうちの一つです。まだ2冊しか読めていませんが、これから読んでいきたいです。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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