読書感想文(120)シェイクスピア『タイタス・アンドロニカス』(シェイクス全集12 松岡佑子訳)

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は久しぶりにシェイクスピアの作品を読みました。
この作品はシェイクスピア作品の中ではそれほど有名というわけではないと思いますが、大学生の頃に受けた英文学史の授業で紹介され、とにかくやばいストーリーだということで気になっていました。

感想

思っていた以上にえげつないストーリーでした。
復讐と強姦が印象的ですが、どんだけ人が死ぬんだ、というくらいどんどん人が死んでいきます。
強い忠誠心を持っているかと思いきや、それゆえにあっさりと敵対するを殺してしまう。愛を誓ったかと思えばすぐに相手を怨む。
いやいやちょっと待ってちょっと待って、と言いたくなるスピードで進んでいきます。
また、内容や表現はかなり下品な部分も多いように感じました。悪役の兄弟が初めは一人の女性を巡って争っているかと思えば、二人でやれば良くね?ということで話がまとまった時は驚きました。

印象に残ったセリフは「かまうもんか、おふくろが知ろうが全世界が知ろうが、俺は全世界よりラヴァニアを愛している」「俺はあの女をものにする、そのためなら一千回死んでもかまわない」 という二つです(あまり詩的ではありませんが……)。
ただこのセリフは先に挙げた悪役のセリフであり、この人物は後にラヴァニアをレイプした上に両手と舌を切ってしまうので、全然良いセリフではありません。
ここだけ抜き出したらそれなりに良い感じなんですけどね。

また、解説や訳者あとがきではセネカ風の悲劇や弱強五歩格など、授業で習った話が少し書いてあって面白かったです。
印象に残ったのは、本作は命令文が非常に多い上に、命令される側は全然発言しないということです。殺されていく登場人物達は罵られつつも反論する間もなく殺されてしまいます。命令される側には口を利くことすら許されません。そして本作一番の悪役と言えるエアロンだけは、最後に「くそ、心が怒り狂ってるのに口をつくんで黙っていられるか?」と言って話続けます。
この点は自分で本文を読んだ時は気が付かなかったのですが、確かになぁと思って納得しました。

この作品のストーリーは衝撃的なものなのですが、それゆえに先日読んだ岡潔『春宵十話』に書かれていたことが思い出されました。

いまの小説はもっと刺激の強いものをたくさん入れている。これは微妙なニュアンスなどというものがわからなくなってきたためだろう。

この小説はかなり刺激が強いとは思うのですが、元々は詩なので繊細な部分も大いにあるはずです。
日本語訳によってどうしても感じにくくなる部分はあると思いますが、ストーリーにばかり気を取られて細かい部分にはあまり目を向けられなかったなと思います。
恐らくまたいつか読むとは思うので、次はそちらも気をつけて読んでみたいです。

シェイクスピア作品が久しぶりだったこともあり、登場人物が多くて初めは少し読むのに苦労しました。しかしよく見てみると、セリフの中に結構血縁関係の言葉(弟、甥、妹など)が出てきており、セリフからタイタス・アンドロニカスとの関係を思い出すことができるようにもなっていました。解説では血縁関係を強調することで結束を固めているといった話もあったので、たまたまかもしれませんが……。
劇のイメージも初めはあまり想像できませんでしたが、途中からはちらほら想像できるようになりました。
なんだかんだ劇としてシェイクスピア作品を鑑賞したことがないので、そちらもいつか経験したいと思います。

おわりに

えげつないストーリーで「面白かった」という感想が憚られますが、引き込まれて一気に読みました。
史劇ほど難しくは感じなかったので、シェイクスピア作品の中では割とオススメかもしれません。
シェイクスピアの他の作品では『夏の夜の夢』が最も面白かったです。
今回引用されていた『コリオレイナス』など、読んでいない他の作品もまた気が向いた時に読みたいなと思います。

というわけで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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