読書感想文(339)梨木香歩『冬虫夏草』


はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は久々に梨木香歩さんの作品です。
以前読んだ『家守綺譚』がとても好きだったので、続編にあたるこの本はすぐに買ったのですが、なんとなく手に取る機会が見つからずにいました。
今回、旅行中に読む本を選ぶ中で、夏目漱石『草枕』はちょっと重たいから、読みやすいものを、と思ってこの本を選びました。

↓前回の感想文

感想

今回も良かったです。
が、どちらかといえば前回の方が好きだったかなぁと思います。
読んだ時期が全然違うので、もしかすると単に今の気分に合っているかどうかだけかもしれませんが……。

このシリーズは、ぶっちゃけよくわかりません。今回も、飼い犬を探すという目的がありつつ、全然そこがメインで描かれていません。メタ的に読めば、主人公が庭から山へ出るためのフラグとしてしか機能していないと言っても良いかもしれません。
また、それぞれの章のタイトルが植物の名前になっているけれど、その植物はほんの少し登場するだけで、ストーリーには殆ど全く関わっていません。

けれども、だからこそいいなと思っています。
小説を読む時、面白いストーリー(ドキドキや悲しみやユーモアなど)を求めてしまいがちです。
この作品は劇的な何かがあるわけではないけれど、ちょっと不思議な日常が丁寧に綴られていきます。
それこそ、ちょうど前に読んだ夏目漱石『草枕』にも近いかもしれません。

『家守綺譚』を読んだ時、私が「まさに今求めていた作品だ!」と思ったのは、数学者の岡潔が「最近の小説は刺激が強いものを求めすぎる」というようなことを書いており、図星だったからです。
今回、『家守綺譚』の方が良かった気がしたのは、この点かもしれません。
つまり、最近また刺激の強いものを求めて、丁寧さをないがしろにしてしまっているということです。
刺激の強いストーリーも面白いので好きなのですが、丁寧さを失わないようにしたいと思います。

それに斯くも清らかな月光を総身に浴びつつ空中を落下する、その一瞬が一生のすべて、というのが、モリアオガエルにとって、本当に不幸なことなのかどうかわからないではないか。
それは誰にもわからない。その一生の充実は、長さだけでは測れない。

P50

今回一番印象に残ったのはここです。
儚い一瞬の強烈な命の輝きを感じました。

他に、ストーリーと関係無いことで思ったことが二つ。
一つは、以前住んでいた滋賀の地名が沢山出てきて面白かったことです。
山奥の方には行ったことは無いのですが、そっちの方にはそんな文化があったのか、今はどうなっているのだろう、などと思いを馳せました。

もう一つは、福岡県の小倉駅で電車を待ちながらこの本を読んでいた時、ちょうど「小倉実澄」という人物の話が出てきたことです。
だからなんだ、という話ですが、こんな偶然なかなかないなと思ったので書き残しておきます。
現実の偶然というのは、このくらいしょーもないものが殆どではないでしょうか。

おわりに

前作も含めて、沢山の植物が出てきますが、それらの植物については私は殆ど知識がありません。
それらを知った上で読んだら一層面白いかなと思うので、ちょっと勉強してからまた読み直したいです。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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