読書感想文(232)三浦しをん『風が強く吹いている』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は三浦しをんさんの作品です。
昨年、『きみはポラリス』と『愛なき世界』を読んで、この作者の作品をもっと読みたいと思いました。
今年は三浦しをんさんの作品を3冊以上読むことを目標の一つにしています。
その中でこの作品をまず手に取ったのは、同じ職場の人が、この作品がとても好きだと言っていたからです。

感想

とても良かったです。
今年読んだ中で今のところ一番面白かったかもしれません。
600ページ以上あるので少し時間がかかるかと思っていましたが、あっという間に読み終えてしまいました。

この本では様々な登場人物が出てきますが、私が自分に最も近いと感じたのはキングでした。しかしこれは終盤、キングが走っている場面で思ったことで、それまではそのように考えていませんでした。
最後、それぞれの人物が走りながら、それぞれの人物の内面が明かされていきます。
皆で一つの目標を目指し、一人で走り、でも皆で走り、しかしそれぞれの考えていることは全然違うのでした。
その中で、私は意外にもキングに最も共感したのでした。

つかず離れず、無言で絶妙な距離を築く方法が、キングはどうしてもうまく体得できない。どこにいても、だれといても、いつも自分が浮いている気がする。角が立たぬよう愛想よく振る舞い、けれどだれにも心を開けない。弱みを見せずに見栄を張る。そんなキングの内側には、もちろんだれも踏みこんでこようとしない。さびしいと感じるのは屈辱だから、愛想ばかりがますますよくなる。

P371

この部分を読みながら、ふと自分を重ね、そしてそんなキングを励ましたくなりました。わかるよ、だからこそチーム一丸とか仲間とかに憧れるのも、でも自分だけ熱を上げているのではと心配になるのも、それでも信じられる嬉しさも、それが終わってしまうさびしさも。確かに自分のせいで周りに壁を作ってしまうし、誰かに対して勝てねえなぁと思いつつも、自分の可能性を信じたくてちょっと頑張ってそこそこ成長できたり、自分なんて凡人だと思いつつも頭一つ抜きん出たい気持ちも無くはなかったり。
でもそんな自分も今は結構好きになれたよ、それは周りの人達のおかげだったよ、キングはその仲間と今一緒にかけがえのない日々を過ごしてるんだよ。
そんな風に応援していました。

他にも登場人物の様々な考えがわかってくるのですが、それらを上手く表現しているのが次の一節だと思います。

「陸上はそれほど甘くない。だが、目指すべき場所はひとつじゃないさ」
物理的に同じ道を走っても、たどりつく場所はそれぞれちがう。どこかにある自分のためのゴール地点を探して走る。考え、迷い、まちがえてはやり直す。

P593

人生ってそういうものかな、と思ったりもします。高校生なんかはわかりやすいですが、多分私達大人も同じなんだと思います。既に違う道を走っていますが、時には同じ道も走っていて、或いは別の道に進んだりして、迷いながら考えながら、進んでいくしかありません。
それぞれの人がそれぞれの相手・自分と戦っているのだな、と思いました。

この作品は、走ることにおいて孤独と団結がどちらも描かれています。一見矛盾するこの二つを自然と共存させる作者の力量に驚嘆しつつ、一方でこれはどういう論理なのだろうかと気になります。 

先程、自分が一番近いのはキングだと書きましたが、好きなキャラと言われると少し迷います。本当に皆魅力的で素晴らしい人々なのですが、強いて言えばユキちゃん、ハイジさん、ジョージ辺りでしょうか。ユキちゃんやハイジさんは人としての憧れです。ジョージは底抜けの明るさが、これもやっぱり眩しい憧れかもしれません。「小田原でカマボコ買っていい?」という突飛なセリフには本当にお腹を抱えて笑ってしまいました。
でも笑いながらも、なぜかふと涙がこみ上げてきたりします。後半はずっと涙が出そうな状態で読みました。
来年以降もチャンスはあるけれど、今の十人で入れるのはこの一度切りしかない。そんな思いがあったのかもしれません。
私も竹青荘の仲間になったような気持ちで、最後まで読み切りました。

おわりに

そういえば、読んでいる途中になぜかふと、吉本ばななさんとの共通項を感じました。それが何なのかわからなかったのですが、巻末解説を読んで、物語に希望があることかなと思いました。
そしてその解説の最後で、希望というテーマに関して、三浦しをんさんの『光』という本が挙げられていました。
気になるのでいつか読んでみたいです。

この作品は本当に良かったので、また読み返したいです。既に竹青荘の皆に親近感を持った上で読み返したらどんな感想を持つのか、楽しみです。

ということで、少し長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。

あ、そういえばこの本で今月(今年)20冊目になります。今月は20冊を目標にしていたので、達成できて嬉しいです。2月も15冊くらい読めたらいいなぁと思っていますが、無理せず読書を楽しんでいけたらと思っています。


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