読書感想文(376)角田光代『くまちゃん』


はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は読書会で紹介された本です。
角田光代さんの作品は『八日目の蝉』だけかなり前に読んだことがあります。

感想

とても面白かったです。
短編連作のふられ小説ということだけは事前に知っていたので、どんな感じかなぁと思いながら読んだのですが、思っていたよりちゃんと恋愛をしていました。

七作品あるうち、一番共感しやすかったのは一話の主人公を振って三話の主人公に振られた二話の主人公、くまちゃんこと持田英之です。
年齢が近いのもあるかもしれません。
でも、振る時に相手を傷つけることを考えていないことや、振られる時に相手に理想像を押し付けているところは良くないなぁと思いました。

全体的な感想として、主人公達全員に共通しているのが自分の為に恋愛をしていることです。ゆえに、多くの人が振られる時に相手を罵倒します。
あとは恋をすると人が変わるのも共通していますが、私はこれを「恋の革命性」と呼んでいます。過去に「最高」だと思った恋を超える為に、次の恋は何か別の角度からの「最高」が必要であって、その場合その人の評価軸をかなり大きく変えることになるので、これまでの恋の基準がひっくり返るというものです。
ここで超個人的な感想を挟むと、ゆりえさんは英之と一緒にいた時の方が良かったよなぁと思います。「こんなチャンス二度と無いから賭けてみたい」という考えも含めて。それでさっさと呆れて、良い経験だった!と次に行ってほしかったなぁ。これも勝手な理想像の押し付けですが。

考え方等でいいなぁと思ったのは、林久信という主人公で、イラストレーターとして成功している人物です。

自分の指先から生まれる絵は、自分の思う「すげえ」とどんどんかけ離れていくように思えた。それでも久信に立ち止まることは許されていなかった。「すげえ」がどこにあろうとも、一個一個片づけていかなきゃそこにはたどり着けないのだと思った。

P297

これは努力の方向が自分に向いています。多くの主人公が他人に変わることを求めていたのに対して、久信は自分を変えることで現状を変えようとしていたので、そこがいいなと思いました。
ただ、それを他人に求め過ぎていたのが久信の「振られた」原因かなと思います。このお話は一般的な「振られた」とはちょっと違うのですが、要するに勝手に期待してしまった、という感じだと思います。

他にいいなと思ったのは、元売れっ子ミュージシャンの主人公の考えです。

希麻子のいう成功がどんなものかはよくわからないが、しかし、何かをやりたいと願い、それが実現するときというのは、不思議なくらい他人が気にならない。意識のなかから他人という概念がそっくりそのまま抜け落ちて、あとはもう、自分しかいない。自分が何をやりたいかしかない。だれが馬鹿だとか、だれが実力不足だとか、だれがコネでのしあがったとか、だれが理解しないとか、だれが自分より上でだれが下とか、本当にいっさい、頭のなかから消え失せる。それはなんだか、隅々まで陽にさらされた広大な野っぱらにいるような、すがすがしくも心細い、小便を漏らしてしまいそうな心持ちなのだ。自分を認めないだれかをこき下ろしているあいだはその野っぱらに決していくことはできないし、野っぱらを見ることがなければほしいものはいつまでたっても手に入らない。

P198,199

自分が求めている境地は多分これだと思います。他人がどうとか関係無く、自分がやりたいことをやる。けれども、これまで長い間、勝負事を成長のモチベーションにしてきた私は、まだまだ他人のことが気になってしまいます。
いつかこの境地に辿り着けた時、この本のことを思い出して感謝するのかなぁと思いました。

「あの人みたいになりたいって気持ちと、恋って似てるよね。でもきっと、違うものなんだよね」

P344

これも少し考えたことがあります。
やっぱり違うのかぁと思いつつ、どう違うのかは上手く言語化できません。

だれしもそのとき自分に必要な相手と恋をし、手に入れたり入れられなかったり、守ろうと足掻いたり守れなかったりする。そしてあるとき、関係は終わる。それは必要であったものが、必要でなくなったからなのだろう。たぶん、双方にとって。

P359

好きだけど別れるっていうのは、こういうところから起こるのかなと思いました。
好きだからこそ一緒にいるべきじゃないとか、好きだけど他の使命の為に一緒にいるべきじゃないとか。
この辺りは恋愛以外の要素がかなり強く作用しそうな気がします。

さて、最後にそれぞれの登場人物に勝手に上から目線でアドバイスをしたいと思います。現実ではそんなクソみたいなことをしてはいけませんが、主人公達を自分自身だと思って自己成長の糧にしたいと思います。

まず一人目、苑子。一番色々と言いたいことがあります。まず恋の不幸の原因は執着が強いこと。これはその対象自体に惹かれているのではなく、一度手に入れたものを手放したくないという考え、所有欲のようなものが強くあるように思われます。そんな苑子には『ダンマパダ』がオススメ。ゴータマシッダールタの尊い教えを学びましょう。ついでに、文化的無教養を自覚しているようなので、一歩踏み出して色んなことを学ぶと良いでしょう。
また、「この人は悪いことをしてるけど、よく考えたら自分もやってるようなことだから、まあいいか」という考えは良くありません(P25)。相手も自分も悪いのです。自分が悪いことをしていたことを自覚したのなら、開き直らずに改善を目指しましょう。
「目の前に今ないことを考えるのをやめる」(P34)というのは大事な考え方の一つではありますが、長期視点の欠乏に繋がっています。考えるのをやめたら楽だけど、本当にそれで良いのか立ち止まって考えてみましょう。
苑子は最後に相手をわかったつもりになっていますが、全然わかっていないと思います。わかっていない相手にわかっているフリをされるのは気に障ります。
くまちゃんが逃げていったのはそういう面もあると思います。

全員について書こうと思いましたが、長くなりそうなので簡潔にいきます。

英之はシンプルに他人のことを考えていないのが良くないです。自由に生きたいと思うことは大切ですが、他人のことも大切にしなければなりません。他人をどうでも良いと思っている人は他人に応援されません。応援されない人は「成功」できないでしょう。

ゆりえさんは巡ってきた幸運に浮かれすぎてしまったのが良くなかったのだと思います。幸運自体は偶然巡ってきたのではなく、自分で手繰り寄せたものであって、その点は素晴らしく、英之が評価していたのもこの点だと思います。ただ、その後に偶像崇拝的に崇めていた相手に流されてしまったのが良くなかったのだと思います。理想像とは違うことに気づいているのに、気づかないフリをしていました。それは、かつての偶像を信じ続けていたからです。諸行無常、色即是空空即是色。ゆりえさんにも仏教がオススメです。般若心経をどうぞ。

ミュージシャンのマキトは一番よくわかりません。んー、自分のことは自分でしよう。トイレは流そう。

希麻子は一番嫌な人だなと思いました。他人に迷惑をかけることを何とも思わない人。そんなので成功できてたまるか、ばかやろー。まずは『7つの習慣』を読んでくれ。あと、自分は相手のことをお見通しのつもりなのに、相手が自分のことをお見通しでないと考えるのはお花畑過ぎる。だから誠実さが大事なんです。それも『7つの習慣』に書いてあるよ。

久信は、すごい。最後もちゃんと自分の非を認められてるし。応援してます。

こずえの話は総まとめみたいな感じだったからなんとも。ただ、振られたことにこだわってしまうのは、自分に自信がないからかなぁと思った。自分がダメかもしれないなら、ダメな自分を変えるより他ない。このシンプルな結論から逃げているからいつまでも解決しない。『7つの習慣』をどうぞ。

という感じで、何目線なのかわからないですが、思ったことをつらつらと書いてみました。
まあ、そんな冷静に自分を見つめられたら誰も苦労しないし、そんな単純なことでもないんだろうけどなぁ。

とりあえず、偉そうに書いたからには自分を律して頑張りたいと思います。

おわりに

後半は特にめちゃくちゃになりましたが、まあいいか。
この本を読んで、角田光代さんの人物設定や描写の上手さに驚きました。プロのベテランなので当然といえば当然なのですが、「確かにこの人物ならこういうことしそう」と初読なのに思ったり。
だからこそこの小説はリアリティがあるのだろうなぁと思います。
また読み返してみたいです。

ということで、最後まで読んで下さってありがとうございました。


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