読書感想文(52)千葉聡『短歌は最強アイテム;高校生活の悩みに効きます』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

この本は、「なんか短歌の本を読みたいな〜」と思いながら本屋を歩いていると見つけました。

「短歌の本を読みたいな〜」と思ったのは、短歌ってやっぱりいいなと最近よく思うようになったからです。
短歌の良いところの一つは、日常の些細な感動を記憶できることだと思います。短歌を詠む意識を持って生活すると、日常の些細なことに目を向けて、日々を丁寧に生きられます。

そんなことを書きつつ、私も短歌には全然詳しくないので、本を読んで勉強したなと思った次第です。
ちなみに上記の短歌観は恐らく俵万智さんの『短歌をよむ』に影響を受けています。

感想

この本は、「短歌は役に立つ」という立場で書かれているのかなと思いながら読み始めました。確かにそれもあるのですが、著者が教員であり、教員生活に基づいて書かれていたので、どちらかといえばそちらに注目して読みました。高校での生活の話を読んだだけなのに、少し若返ったような気持ちになりました笑。

この本ではいくつか有名な短歌を引用しつつエッセイが書かれ、章末に著者の連作があります。引用された短歌も著者の短歌もいいなと思うものがあったので、いくつか引用したいと思います。

もう俺は今日から生まれ変わるのに昨日のことで怒られている
(尼崎武『新しい猫背の星』)

これは子どもの頃に誰しも思ったことがあるのではないでしょうか。反省しているのに、尚怒られる時間の無駄さ。或いは、十分反省した過去のことで、今の自分を疑われる辛さ。まあこれについては信用を失ったのは自分の行いなので自業自得な部分もありますが、これからはより良い自分で頑張ろうとしているのに過去を咎められたら気分が下がりますよね。でもまあ、浮気なんかは口先だけの人がよくやるので、人によるかもしれません。自分自身のことくらいは信用できる自分でありたいなと思います。
或いは、こういうことも、高校生辺りまでの感覚なのかもしれません。そもそも大人になると怒られることが減りますし、より良い自分を目指そうという若々しい気持ちも大人になるにつれて薄れていくのかもしれません。後者については平野啓一郎『マチネの終わりに』を読んで最近思ったことです。
個人的には、この歌を読んで「もう俺は今日から生まれかわるから。昨日のことで怒られたけど?」くらいの気持ちで生きていきたいなと思います。と、書くと、なんだかんだ引きずっている気持ちがよく表現されていて、やっぱり短歌って一語一語が大切だなと思います。

久方のアメリカ人のはじめにしベースボールは見れど飽かぬかも
(正岡子規『竹乃里歌』)

これは枕詞の使い方で「お!」と思いました。「久方の」は「空」「光」「雨」などに続きますが、これは「アメ」に続けています。
確か俵万智さんが「あかねさす」に「テラス」を続ける短歌を詠まれていたと思うのですが、その原型はここにあったのですね。
語彙が増えた現代ならではの表現も、現代短歌ならではだなぁと思います。

春風に詩集の頁かさかさと天使の焦げた翼がひらく
(加藤治郎『環状線のモンスター』)

これは単純にとても素敵だなと思いました。日に焼けた紙を天使の翼に見立てているのが素敵ですし、それが「ひらく」というのは、その古びた詩集の古くからの思い出がパッとひらくようで、そしてそれが暖かな春風によって思い起こされるのが素敵です。明かりの少ない書斎のような部屋で、窓から射す光に照らされた机の上で、ぱらぱらとページがめくれる情景が想像されます。
きっとその詩集には素敵な思い出があるのだろうなと思いますし、著者の著書も生徒たちにとってそんな存在になっているのでないかな、なんて思いました。

「正しいことはばかり行ふは正しいか」少年問ふに真向かひてゐつ
(伊藤一彦『海号の歌』)

これは有川浩『図書館戦争』で、玄田隊長か堂上教官が手塚に言っていました。
「正論は正しい。だが正論を武器にするやつは正しくない。お前はどっちだ?」というセリフです。いや、その、図書館戦争が好きなんです、すみません笑。
ただこれについても、色んな人の意見がありそうなので議論をしてみたいです。

この調子でいくとまた長〜くなってしまうので、いいなと思った歌を列挙します。

ならべるとひどいことばにみえてくる頑張れ笑え負けるな生きろ
(岡野大嗣『サイレンと犀』)

夜道ゆく君と手と手が触れ合ふたび我は清くも醜くもなる
(栗木京子『水惑星』)

壊れそう でも壊れないいちまいの光のようなものをわたしに
(内山晶太『窓、その他』)

親は子を育ててきたと言うけれど勝手に赤い畑のトマト
(俵万智『サラダ記念日』)

走り出せば走る走れる走るのみあらゆる比喩の言葉を離れ
(石山美南『砂の降る教室』)

この他にもたくさんの素敵な短歌が引用されています。
また、著者の連作の中でも特にいいなと思ったのは次の短歌です。
連作なので並べて鑑賞するものかとも思いますが、気になる方は是非ご購入ください笑。

・肩と肩が触れると微妙に離れたりして帰っていく女子、女子、男子
・バス停の脇に鏡の欠片あり欠片の形に青空があり
・学年の先生みんなに贈られた表彰状の字は右上がり
・夜風にも形はあって人を待つ心にはまるひとときがある
・「ちばさとー、ハンコください」物品の借用書二枚 担任印押す
・地下街の下にまた街その下の渋谷駅にも吹く風がある

元々は各章から2首ずつ引用していたのですが、ちょっと引用し過ぎかなと思って半分にしました笑。他にも素敵な短歌がたくさんありました。特に青春を感じる短歌などは、忘れてしまった何かが思い起こされるような気持ちになりました。一方で「担任印押す」のような気持ちになることもこれから増えていくのだろうなと思ったり……。

この本を読んで、また短歌を詠みたいなと思いました。ちょくちょく詠んでいたのですが、もう少し自信を持って「短歌を詠むのが趣味です」と言えるように。そうすれば自然と日々の生活が楽しくなっていくような気がします。
というわけで最後に一首、

決意したなんて思ったあの頃の気持ち呼び起こせ短歌に乗せて

おわりに

明日からも毎日短歌を詠んでいこうと思いました。どれだけ続くかはわかりませんが、とりあえず日記には書いておきます。
短歌って難しそうと言う人も結構いますが、三十一文字であればいい、なんならそうでなくてもいいと思えば、一応ハードルは低いと思うんですよね。上手く読まなきゃとか、下手で恥ずかしいとか、そう思ってしまうから詠みたがらない人が多い気がします。
でも最初から上手い人なんていませんし、詠みながら、読みながら、学んでいくしかないんですよね。だから私は「成長途中!」だと思って、下手なりに短歌を詠みます。

というわけで、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
是非皆さんも短歌を詠んでみてください。なんならコメント欄に詠んでいただいても構いません!笑

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